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ドールズ・ミッション  作者: 神田 伊都
第3章 抜け殻の正義
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 ホーク・バレーにたどり着いたギディたちは、真っすぐ北を目指した。


 大通りから外れると、やがて、一軒のボロ屋が見えてきた。ログハウス風の建物は、かつて繁盛していたカフェだったが、労働者運動の議会場だなんだと、ピジョン・シティの貴族によって潰されたそうだ。ギディたちはそこをたまり場として再利用していた。

 軋む扉の先は、カフェらしい木造の内装をしていた。丸テーブルが三つ、カウンター席が八つ。奥の棚は、ガラスがひび割れているけれど、木製のジョッキや食器類が置かれている。


 ギディたちが中に入ると、たくさんの声が出迎えた。

「おかえりなさい!」

「今日はどうだった?」

「戦果は上々じゃない」

「ねえご飯食べよー」

「あんたら、さっさと部屋を片しちまいなよ」 

 その声の多くは、子どもや女性のものだった。都市部の襲撃に出向くのは男がほとんどで、女の襲撃部隊は、クリスを含めふたりしかいない。

 仲間たちが戦果の報告をしている間に、ギディはレナを、近くの家屋に案内した。赤煉瓦づくりの二階建て。いくつか部屋がある中で、レナは一階の角部屋を宛がわれた。

「みんなには私から説明しておく。今日はもう休みなさい。それとも食事にするかい?」

 レナはかぶりを振った。

 あとからクリスがやってくる。さっきのカフェから、毛布をいくつか取ってきたらしい。

「ほら」と、クリスは雑に毛布を投げる。

「食事が必要なら、いつでも、さっきのカフェに来なさい。それじゃあ、おやすみ」

 そう言って、ギディは部屋を後にした。

 クリスはその後を追いつつ、レナに振り向いて、むっと目をとがらせた。

 ふたりの姿がカフェに入るのを見送ってから、レナは部屋に戻り、ぼろぼろのベストを脱ぎ去った。

「大成功ですわね」

「うん」

 レナがベッドに寝転がると、古びたスプリングが大きく軋んだ。

 俺はたずねる。

「それで、ここからはどういうプランなんだ?」

「最重要は、ハンバーさんの体に魂を移すこと。そのためには、いくつかステップを踏まないといけない」

 レナは指折り数えながら、

「一つ、ギディに近づく。これは可能な限り近くでないとダメ。それこそ、肌が触れ合うくらいに近く。でないと、わたしの手が届かない。まずは彼に近づいても不審じゃないくらいに打ち解ける。いまでも十分な気もするけど、念のために。

 二つ、ギディの魂を入れるための器が必要。ギディの魂をハンバーさんの本体から引き離して、そっちに入れ替える。

 三つ、空っぽになった本体にハンバーさんの魂を移す。それから、安全に逃げるための逃走経路の確保と時間を割り出して、ほかの盗賊たちの警戒心を解いて……やることは山積み」

「……二つ目と三つ目って、同じことじゃないか?」

 錆びた指を折りながら、俺は聞いた。

「ギディの新しい入れ物は、このブリキ人形でいいだろう。俺の魂とギディの魂を同時に入れ替えれば、一瞬で済むじゃないか」

 レナは首を横に振った。

「わたし、二つの魂を同時に入れ替えられないの。一方にある魂を、空っぽのもう一方に入れることしかできない。……それに、アスポートを使うためには、素肌に触れていないといけない。手のひらとか頬とか。魂を移すのは、服でも手袋でもなく、その人の肉体だから」

 そういえば、リリアのときもフェレックのときも、レナが力を使う時、相手の素肌に触れていたように思う。レナの力はとんでもないものだが、万能ではないらしい。

「他にもいくつか、入れ替える側の魂に条件が付いちゃうんだけど……まあ、油断している相手なら、ちょっと触れるだけですぐに入れ替えられる。結局は、どうやってギディに取り入るかが大事になる……」

 レナはふわあとあくびした。

 ここ連日、夜中の張りこみを繰り返していたから、眠気がピークなのだろう。

 レナは仰向けに寝返って、

「警察より先に、ギディの懐に潜りこめた。アジトの場所も、警察には割りづらい場所になっている。いまはひとまず、盗賊ライフを楽しみましょう」

 楽しむ。

 はたして、この状況を楽しめるのだろうか。

 俺やパトリシアは人形として振る舞うだけだから、楽しむも何もない。……俺としては、目の前に本体があるせいか、「待て」を覚えた体に、いつぞやのような焦りが沸いてくる。手が届きそうで届かない。あと一歩で、俺は本体に戻ることができるのに、それができない。もどかしかった。

 レナの寝息が聞こえてくる。パトリシアも、「おやすみなさい」と言って、レナの隣で動かなくなった。

 ……そうだ、焦ってもしかたない。肉体が腐る心配がないだけでも、上々じゃないか。あとはあの泥棒から、俺の体を取り戻すだけ。あと一歩、そう、あと一歩だ。

 俺はもどかしい焦りをため息といっしょに履き捨てて、ベッドの脚に背中を預けた。



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