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レナさんとミスター・ハンバーが出発して、小一時間。
部屋の片づけがまだ終わっていないうちに、表の玄関がノックされました。
わたくしは人形用の小さな扉をこっそり開けて、来客を見上げます。
「ようこそお越しくださいました、ダニー警部」
ダニー警部はわたくしに気がついて、軽く身をかがめました。
「ごきげんよう。レナさんに用があったんだけど、ご在宅かい?」
「いえ。ミスター・ハンバーの本体を探しに、ホーク・バレーまで」
警部は「そうか」とうなずいて、
「どうしよう。一旦帰ろうか」
「いえ、どうぞ中に。レナさんから、わたくしが代わりに話を聞くよう、承っていますわ」
「ああ、そういうことなら」
ダニー警部を招き入れて、お茶菓子と紅茶を用意します。
警部は少しだけ世間話をしてから、本題に入りました。
「といっても、私はただ報告に来ただけなんだ。たぶん、今日の夕方には、新聞が号外を出すだろうから。その前に、レナさんたちには、知らせた方がいいと思って」
もったいぶった調子のダニー警部に、わたくしは首をかしげます。
なにかそんな、大事なことがあったでしょうか。
警部はひとつ咳払いをして、
「一昨日、レナさんたちを襲った男を覚えているかい?」
「ええ、それはもちろん」
フェレック・ラチェット。両親を殺した挙句、真相を知ったレナさんを口封じに殺そうとした男です。彼が両親を殺した理由は……けして、理解を示せるものではありませんでした。自身の血筋に思うところがあるのは、まだわかります。ですが、家系を断絶して、新しい人生を歩もうとするなど、ひととして壊れた思想としかいえません。
「その方がどうかされたのですか? 捕まえましたの?」
警部は腕を組んで、神妙な顔つきになりました。
「捕まえた……そうだね。捕まえたといえば、捕まえた」
「何か問題でも?」
「……そう、大問題だ。私たちはたしかに、両親殺しのフェレック・ラチェットを捕まえた。ただ、彼を法で裁くことはできない。すでに、裁かれた後だったから」
やがてダニー警部は、決心がついたように口を開きました。
「……昨日の夜、フェレックが死体で発見された。それはもう、むごい殺され方でね」
ダニー警部の話を、わたくしはただ、黙って聞くしかありませんでした。




