♯3「てやんでい。すまねえが、みんなのイノキをくれ」
その三
松戸博士ことマッド軍曹は、研究室の壁際のボタンをポチッと押した。
するとなにやらニョロニョロした何本もの触手のようなものが少年の体を覆いつくし、ベッド状の実験台の上へと運び去った。
「わーわーやめてー! せんせ、せんせい!」
向島君は懸命にもがくが、もがけばもがくほど体が言う事を聞かなくなる。触手がまだいたいけな少年の柔肌に食い込む食い込む食い込んでゆく。なんと! 一本の触手が向島君の半ズボンの脇から入り込もうとしている。こ、これは……これはどういうことなのであろうか?
ああ、彼はこのまま変態マッドサイエンティストの餌食になってしまうのだろうか?
さあどうなる向島君! あやうし向島君! 君の貞操は……はがっ!!
「何やっちゃってるのよ、このバカ作者! うちの可愛い息子になにやっちゃってくれてんの!? ボクちゃんがそんなことするはずないでしょう? 向島君はこのボクちゃんが手塩にかけて育てた可愛い息子なのよ。変なことしないでよっ!」
たはは……怒られてしまった。
松戸博士は作者の僕に向かって歯をむき出しにして威嚇しています。なんだか作者のこの僕がその昔、旅に出ていた時に出会った奇人変人のオバサンに包丁を突き出されて本気で殺されかけたときのような凄まじい怨念と恐怖が感じられます。本気で殺されかけた事がある読者諸君なら、少しはお解かりになりますよね。
そうです、そんなかんじなので、ここでおふざけは一旦やめにしましょう。
どっちみち、作者にそっち系の趣味があるわけじゃないから、途中でやめるつもりでしたけど……。
とはいうものの、
「ガルルル……」
マッド軍曹はそんな作者のいいわけに、少しも耳を貸そうとしないようなので、謝ります。ごめんなさい。
……というわけで、ウォホン。
これを読んでいる諸君は、いったいこの作者は何をしたいのか分からない、とお思いでしょうが、しばしこのままお付き合いください。
といふのも、今日の昼間に作者は少しばかり困った目に遭ってしまってテンションが下がり気味なのであります。
なんてことはおいといて、さっさと劇を再開しましょう――
「うわぁーっ、先生! いきなり何をするんですか!?」
マッド軍曹こと松戸博士は、左手に持った筒状の容器のふたを開け、でろんでろんのゲル状になった透明クリームを右手五本指でたっぷりとすくい出すと、向島君にむけてそれを塗りたくろうとした。すると、
「ギャーッ」
向島君は天と地が引っくり返るほどの大きな悲鳴を上げた。
「ひぃぃっ!」
向島君が、耳をつんざくような大声を張り上げるものだから、松戸博士も驚いて引っくり返ってしまった。と、するとなんと、博士は引っくり返った同時に持っていた容器を放り投げてしまい、それが真上から落ちてきて、あれまなんと、頭からそのクリームをたっぷりと被ってしまったのである。
それを見た向島君は、またまた発狂(※放送禁止語句)はなはだしい金切り声をあげて、とうとう失神してしまったのである。
「わ、わ、わ、向島君だいじょうぶ? ねえ向島君!?」
松戸博士は何が起こったのかわけが分からず向島君を揺り起こそうとしたが、やがて自分の顔が研究室の鏡に映ったのを見て、
「ぎゃーっ!!」
と大声をあげて、同じように失神してしまったのである。
つづく