税金勇者
【1】
「おお! 召喚に成功したぞ!」
そんな声が聞こえてきて、辺りを見渡す。自分の家ではないどこか……。
中年の小太り男性と、ローブを着たまるでファンタジーの魔法使いのような恰好をした人が佇んでいる。
「あの……ここどこですか?」
「リーガルという領地です。ここは私の屋敷です。私はリーガルの領主をしております」
(異世界転生来た~! 俺の勇者としての冒険劇が、これから始まるのか!)
そんなことを考えて惚けている俺に、その男性が話しかけてきた。
「私の名前は、ガルス・リチャードと申します。貴方様のお名前は?」
俺はこれからの活躍を妄想しつつ、ドヤ顔で答える。
「俺の名前はカズト! カズト・キサラギだ」
名前を聞いたガルスは、目を輝かせている。
「おお! 勇者様は、家名もお持ちの貴族ですか!」
『勇者』
やはり俺は、この世界で魔王を倒して、救世主となるのか……。
「それでは勇者カズト様、早速ですが依頼をお願いしたいのですが……」
俺はこれからの冒険を夢見て、任せておけと言わんばかりに胸を叩いた。
【2】
「どうしてこうなった……?」
俺はがっくりと肩を落とし、今、冒険者ギルドにいる。
手には資料を持たされ、そこにはクエスト……と言っていいのかわからんが、ターゲットの顔写真や名前が書かれている。
重い足取りで、冒険者ギルドの中に入る。
中には酒場が併設されており、酒盛りをしていた冒険者たちは、一瞬談話を止める。俺に視線を向けると、何事もなかったかのようにまた談笑を始めた。
冒険者だけあって、ガタイがいいうえに、強面の人が多い。
俺は酒場内を歩き、ターゲットを探す。
(いた! あいつか!)
俺は自分の期待していた勇者と違うことに対する腹立たしさで、つかつかと歩いていく。そして、ターゲットが座っているテーブルの前に立ち、一言。
「バルトさん、領地税を払って下さい」
すると、バルトは声を荒くして吠える。
「ああ? お前、税の徴取人か? なんで俺が税金を払わないといけないんだよ!」
俺はバルトの威圧でたじろぎつつも、言葉を発する。
「そ、それは国で決まっていることだからです」
ちょっと小声になったが、バルトには聞こえたようで、いかつい顔を、より一層いかつくした。
「俺たちがこの領地を、魔物から守ってやっているんだろうが!」
「で、でも、それに関しては、冒険者ギルドから報酬が出ていますよね? 収入を得ているのですから、領地税を払う義務があります」
俺がそういうと、バルトはニヤリとしつつ、立ち上がり、俺の肩に腕を回す。
「じゃあ、魔物を倒さなくてもいいってことだな?」
痛いところを突かれた俺は、激しく動揺する。
「い、いえ、魔物を倒して頂いて、助かっております。ですが、討伐報酬以外でも収入があれば、領地税は領主に払うことになっていまして……」
「そんなもん知るかよ! なんで何もしていない領主に税金を払わないといけないんだ!」
バルトは俺の肩から腕を離すと、唾をペッと床に吐き捨てた。
【3】
俺はバルトから税金の徴収ができなかったので、更に足取りは重くなり、ガルスの屋敷へと戻り、報告をする。
「バルトから、税金の徴収はできませんでした……」
「勇者様……なんというなさけなさ。しっかりと税金を徴収して来て下さいよ!」
叱咤された俺は、反論をする。
「いや! これ、どう考えても勇者の仕事じゃないだろ!? 勇者は魔王を倒すというのが相場だろうが!」
それを聞いたガルスは、ぽかんと口を開けている。そして、真顔で言葉を返す。
「魔王? 物語の話ですか? そんな奴、いるわけないじゃないですか?」
「はっ? 魔王がいないのに、勇者を召喚したのか?」
「ええ、そうですけど? 粗暴で怖い冒険者たちから、税金を徴収する『勇気ある者』、つまり『勇者』じゃないですか」
今度は俺の方がぽかんと口を開けた。
「はっ? そんな小さな目的の為に、俺は異世界に召喚されたの?」
「小さな目的? 何を言っているんですか? 領地の命運がかかっていると言っても過言ではないんですよ? これじゃあ、給料を払えません。衣食住は私の屋敷で賄いますが、きちんと仕事をして下さいよ!」
釈然としない俺は、心の中でこう呟いた。
(初クエスト、失敗)
読んで頂きありがとうございます。
練習作品です。
まあ、練習と言っても、週課としての練習ですが。『書く癖をつける』という感じですね。
雑に書く癖までついてしまっている気がしますが、なかなか難しいところですね。