冒険者になったら二つ名がついた〜翻訳加護ガバガバ〜
異世界に転生してから、一番俺を苦しめているのは、クソ女神によるガバガバ翻訳加護だった。
「あなたが噂の指示厨ね。常勝無敗と名高いあなたとパーティーを組めて、光栄に思う。必ず勝利に導くという、あなたの神がかった指示を楽しみにしているわ」
「うん」
この世界の人は生まれつき必ず一つの加護を使える。ある種で俺は翻訳加護ともう一つの加護ということで、二つの加護持ちということになるので、そういう意味ではチート持ちなのかもしれないが、まあそこまで美味しいものではなかったりはする。
俺のもう一つの加護は3秒先を見通せるという、能力バトルなら強い扱いされるかもしれないが、案外こっちの努力が結構求められるんじゃねといったやつだった。
それはまあ、いい。
企業づとめが嫌すぎて、個人事業主としてもっとも手軽にやれる冒険者なんて職についた今世の俺は、結構順調に頑張っていた。二つ名なんていう、まあ要はあだ名なのだが、そんなものもつくくらいには、この辺で有名にもなっている。
で、俺を苦しめていたのは、その二つ名──というより翻訳機能だった。
「指示厨とまで呼ばれるあなたが、臨時でパーティーを募るなんてこともあるのね。勝手にどこかに所属しているものと思っていたわ。指示厨なら、引く手も数多でしょうに。何かわけがあるのかしら──それとも、指示厨として秘してる何かがあったり?」
「深い理由はないさ。ところで、一つだけお前に言っておくことがある」
「なにかしら」
「俺を指示厨(二つ名)で呼ぶな」
いやね?
頭ではわかってんの。前世の意味とは全然違うし、この女は普通に賞賛の思いも込めて言ってるってことは。
だって、意味としては、指すところ示すところ誤りなき、かのチュウ(神話に出てくる軍師)のように、なんだよ。だいぶすごいんだ。
けどさ。
指示厨なんだ。
指示厨はこう、どうしても、受け付けないんだよ。俺の心が。
「なるほどね。二つ名がキライなタイプ?」
「さあな」
二週間が経った。
今日も一仕事を終えた俺たちは、いつも通り酒場で夕食をとっていた。
「ところで、お前も二つ名があるらしいな」
「うえ」
そんな口いっぱいに、薬草詰め込まれた顔をすることがあるのか。
前衛職の女は、首を横に振る。
「苦手な食べ物が混ざってただけ」
「そうか」
まだ、酒しか飲んでないが、お互いに。
「そうよ。私は──屈伸煽り、よ」
屈することのない心アオリ(名前)ね。
「まあ、ぴったりなんじゃね?」
実際こいつの腕はピカイチだった。臨時パーティーを最初に組めたことが、かなり幸運だったと断言できるほどに。
なんせ、あれから、こいつが一度も、敵からの攻撃を受けたところを見たことすらない。
「屈伸煽り、いい名前だろ」
「や め な さ い !」
本気で嫌がってんなこれ。
なるほどね。
さては、こいつ。
「前世あるだろ」
「そんなものないわよ、指示厨乙」
言いやがったなこいつ。
俺は黙って立ち上がると、その場で膝の曲げ伸ばしを続ける。
「やりやがったっ!この!指示厨wwwww」
すっ(高速屈伸)
「指示厨!」
屈伸。
「し!」
くっ!
「やめましょう」
「そうだな」
◆
「知ってる?」
「知らないことにしている」
「最強コンビだってさ」
指示厨と屈伸煽りの最強コンビらしい。
「提案がある」
「たぶん同じこと考えてるわ」
「神を」
「殺しましょう」
冒険者になってよかったー!!!!!
神も殺していいしーーーー!!!!!
元凶はクソ強かった。