4話 レオンと演技勝負 下
「思ってたのと違うよー」
リリアは正式に劇団に所属し、初仕事として小さな役をもらう。
しかし、それは「ただ舞踏会で立っているだけのモブ貴族」。
動きもなく、セリフも一言のみ。「これじゃ目立てない…!」
「最初から、飛ばし過ぎだ」
「まずは基礎を学べ」
アイドルには笑顔と魅せ方が大事なの!
アイドルになりたいのに、役者として人気にならないとなんて、、、
じゃあ、俺と演技勝負をしろ」
突然の挑戦状に、リリアは目を丸くした。
「ええ!?」
「一週間、ヒロイン役をやれ。勝ったら推薦してやる」
すっごいチャンスだ! でも……
(ヒロイン役ってことは、めちゃくちゃ目立てるじゃん!? これはやるしかない!)
「やる!」
リリアの即答に、レオンはふっと口角を上げた。
「それこそだな」
リリアは劇団の一室に案内され、演技の練習をすることになった。
彼女の役は、「騎士に恋をする貴族令嬢」。相手役は、もちろんレオン。
「よーし、キラキラ笑顔で魅せるよ!」
リリアは舞台に立ち、アイドル時代に鍛えた最高のスマイルを浮かべた。
アイドルは魅せ方が命。観客の心を掴むには、笑顔が重要なのだ。
しかし——
「それ、役じゃなくてただの”リリア”だろ」
レオンがバッサリ切り捨てた。
「えっ?」
「お前は”ヒロイン”をやるんだ。アイドルの笑顔なんていらない」
(そんな!? 笑顔で魅せればいいんじゃないの!?)
リリアは混乱した。
お前の演技は”作ってる”感じがする。心から恋してるように見えない」
レオンからダメ出しをもらうたびに、リリアの顔は曇った。
台詞は言えるのに、何かが違うらしい。
(感情を作れって言われても、どうすればいいの!?)
「そもそも、恋愛経験は?」
「アイドルなら恋愛禁止なの!純粋潔白!で美しいのがアイドルなの!」
「わかったわかったから落ち着いてくれ」
リリアは頭を抱えた。
アイドルとしては、ファンを大事にするのが基本。
でも、舞台で求められるのは”個人的な感情”。
(私、役者に向いてないのかな……)
リリアの心に、初めて不安がよぎる。
翌日。
演技の練習中、リリアはふと思った。
(好きになる演技は無理だけど、“ファンに向けて”の気持ちならできるかも?)
そう、彼女はアイドルだ。
ステージでは、ファン一人ひとりを大切に思いながらパフォーマンスしていた。
その気持ちを「恋」として表現すればいいんじゃないか?
「——あっ」
リリアは演技に集中した。
レオンの目を見て、「大切な人を思う気持ち」を込める。
目の前の観客は、“ファン”だと思えば——自然に表情がやわらかくなった。
「……お?」
レオンが驚いたように目を見開く。
「リリア、お前……」
(よし、これならいける!)
夜。リリアは劇場の廊下でレオンに声をかけた。
「明日、絶対勝つから!」
レオンは腕を組み、少しだけ微笑む。
「せいぜい頑張れよ」
そして、小さくつぶやいた。
「(……こいつ、本当にただの令嬢じゃないな)」
—— 次回、リリアの演技勝負が始まる!