3話「始まりのステージ」
リリアは久しぶりに家に戻り、少しだけ気持ちが軽くなったように感じた。お父様が食事制限や美容に気を使ってくれたおかげで、メイドたちの態度も少し変わった。とはいえ、完全に許しているわけではないが。
「それより、顔だよね!!」
メイドの一人が、リリアを見て感嘆の声を上げる。「めちゃくちゃ可愛い!何この可愛さ、天使じゃん!でもまだ完全体じゃないんだよねー、ほんっと恐ろしい。」
リリアは冷ややかに目を細め、無言で鞄の中を整理していると、お父様が話しかけてきた。
「何やってるんだ?当日まで練習はしてこなかった様だな。本当に入るつもりあるのか?」
リリアは肩をすくめて答える。「大丈夫、体に馴染んでだものだから。」
転生してきたとはいえ、どうなるかは分からない。でも、やるしかない。
父親は呆れた目でリリアを見つめるが、すぐに声をかけてきた。「じゃあ行くぞ。」
「はい。」
今はまだ希望を持っても良いんだろうか?
そんな気持ちを胸に抱えて、リリアは劇団の会場へ向かう。
劇団に到着した時、リリアは感じた。明らかな「来るなよオーラ」が漂っていた。自分がアイドルという庶民の仕事をやるために劇団に来たことが、いかに異端であるかは分かっている。でも、もう後戻りはできない。
「おいお前。」
突然、声をかけられる。振り向くと、レオンが立っていた。彼は劇団でトップまで登り詰めた天才。だからこそ、来る人間には注目が集まる。
「おい、まずいって相手は公爵令嬢だぞ!」
一人が慌てて言う。
「あちゃー、これは止められないね。レオン、コネが一番嫌いだから。」
もう一人が嘲笑うように言う。
リリアはその言葉に耳を傾ける。「レオンか…。劇団でトップまで登り詰めた天才ね。」
「お前、才能ないから諦めなよ。」
レオンが冷たく言い放つ。
「ふーん、そっか。じゃあ見せてあげるよ。」
リリアは強い眼差しを向ける。「アイドルを馬鹿にするなってね?」
「戯言を。」
レオンはさらに冷たく笑う。
「なんて事を言うんだ!支援が少なくなるぞ!」
周囲の人たちがざわつく。
リリアは心の中で呟く。「私に期待してる人はいない。でも、燃えるね。」
「さて、披露をしてください。」
審査員たちは冷ややかな目で見守るが、リリアはもう心の中で決めていた。
「皆さんこんにちは!アイドルって知ってますかー?」
審査員の一人が眉をひそめる。「これが、アイドルなのか?子供みたいだな。」
「皆さんのアイをとる!それがアイドル!そんな、私ですがー許してね?」
リリアは少し照れながらも、必死に笑顔を作る。
「ミュージックスタート!」
音楽が流れ、リリアは笑顔を振りまく。
「キラキラ☆輝いて みんな見てね!
私の笑顔 届けちゃうよ!
「はい!」「はい!」
みんなと一緒に 輝くよ!」
「おしゃれして 街を歩けば
視線感じる ドキドキ!」
合いの手がないってこんなに寂しいんだな、と思う。だけど、自分でやらなきゃ。
「はい!」「はい!」
少し乱れそうになる自分を押さえ込んで、力強く歌い続ける。
「えっ、レオンさん?」
ステージの端で見守るレオンを見つけ、思わず顔が赤くなる。嬉しい感じが込み上げてくるけど、乱れてはいけない。
「いや、頑張らないと。」
ちょっと照れちゃうけど、頑張るから!
「はい!」
手を振って、笑顔で歌い続ける。
「はい!あなたのために 届けるよ♪」
合いの手が入ると、急に楽しくなってきた。今まで感じたことのない、幸せな感覚が広がっていく。
パチパチパチ!
「凄かったよー!」
「可愛いかった!」
「皆んなありがとうございます!」
リリアは感謝の気持ちを込めて、深く頭を下げる。
休憩中、レオンが近づいてきた。
「レオンさん、ありがとうございました。」
「いや、凄かったから…」
レオンは少し照れくさそうに言う。
「ふふ、まぁそれは否定はできないですね。」
リリアは照れ笑いを浮かべる。
「否定しろよ!」
レオンが笑う。
「まぁようこそ、劇団へ。」
「はい!」
「じゃあ、早く帰れ。朝早いからな。」
「うわ、行ってきます!」
リリアはレオンに手を振りながら、さっと劇団の入口を出る。
「可愛かった…」
その場を離れながら、レオンは胸の中で呟いた。乾いた笑みをこぼしつつ。