2話 お父様!
リリアは家に戻ると、すぐに自分の部屋に向かい、宝石をサッと掴んで鞄に入れた。これで一時的にでも生活が安定する。そう思いながら、彼女は玄関を出る。
すると、メイドが一歩前に出て、無表情で言った。
「おかえりなさいませ。お父様が待っています。」
リリアは少し冷ややかな目でメイドを見たが、そのまま無言で歩き続ける。家族の期待や冷たい視線が、今はどこか遠く感じられる。メイドが呟いた
「この生活も 終 わ り ですね」
そう、もう終わりだ。今までの自分を引きずっていたら、何も変わらない。変わらなければ、どんな人生もただの虚しさに過ぎないと感じていた。
リリアは深呼吸をしてから父の部屋に向かった。扉を開けると、父が椅子に座り、しっかりとした目でリリアを見た。
「ただいま、戻りました。」
「あぁ、ご苦労だった。そして、すまない。」
意外にも優しげな言葉が返ってきたが、リリアはその言葉に特別な感情を抱くことはなかった。以前から父に対して抱いていた冷めた感情が、今も変わらないことを再確認しただけだ。
「えっ、家族に味方は居ないと思ってた。」リリアは心の中で思った。母が死んでから、何度もメイドたちに虐げられたことを見て見ぬふりをしてきた父が、今更何を言うのか。
メイドたちも、リリアの帰宅を待ち構えていたが、その目に隠しきれないざわめきがあった。だが、それも当然だろう。彼女が家に戻ること自体が何かしらの動きの兆しだろうから。
そして、父が口を開いた。
「お前のことをちゃんと見ていなかった。婚約破棄されたのは、俺の所為だろう。」
リリアはその言葉に一瞬驚き、そして冷ややかな笑みを浮かべた。なんだ、今更何を気にしているんだろう。思い出さなくていい過去を、わざわざ持ち出してくるなんて。
だが、彼女の中では少しだけ違う感情も湧いてきた。――それは、今の自分にとっての「チャンス」。乗るしか無いこのビッグウェーブに!
「お父様、私はもう婚約はしたくありません。私は、自分で生きていきます。」リリアはその言葉をきっぱりと言った。
父が驚きの表情を浮かべる。
「その為のお金さえあれば、私は大丈夫なので。」
リリアは一瞬、父の反応を見たが、彼は不満げな顔で返した。
「ちなみに、何をするんだ?」
リリアは目を輝かせて言った。
「アイドルです。」
「はあ!? アイドルは庶民の仕事じゃないか! 役者にしなさい!」
父の言葉に少し苛立ちながら、リリアは即答した。
「いいえ、アイドルです! 輝いて見せるので!」
「はぁ、わかった。」父は一瞬ため息をついたが、口調はどこか諦めたようなものだった。
「わかったのですか!?」 執事が驚きの声を上げる。
「劇団で披露してみろ。チャンスは一回だ。」父の言葉は冷たくも感じたが、リリアはむしろその挑戦的な言葉に心を燃やした。
「はい!」リリアは力強く返事をし、次の一歩に進む決意を固めた。
「最後までお読みいただきありがとうございます!
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