表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/124

第八五話 カエルは宇宙酔いします その8

 あのド変態をあぶり出すったって、闇雲にやってちゃキリがない。

 どうしたもんかと思っていると、

「澄香、先ずはここでの主要人物をリストアップするのよ」

 チビアディーが三歳児に似合わないキリリとした表情でそう言った。

「なんで?」

「二時間サスペンスドラマの犯人は、著名な俳優と決まっているからよ」

「……………」

 これはサスペンスじゃないし、探すのは犯人じゃないし、そもそも二時間で終わってないし。

 そう思ったけど。

 ある意味サスペンスと言えなくもないし、ド変態はひょっとしたら犯人かもしれないし、現実では二時間くらいしか経ってないかもしれないし。

 と思い直して、チビアディーの意見にツッコムことは止めた。

 断っておくけれど、これといった代替策が思い浮かばなかったからじゃない。

「主な登場人物っていうと。そりゃやっぱり妃殿下だよね」

 アタシはそう言いながら、この上なくゴージャスであるにもかかわらず重戦車の如き雰囲気を持つ妃殿下を思い浮かべた。

 アディーリアは優雅さと繊細さが(あくまでも見た目の話)ウリだけど、あの妃殿下に優雅さはともかく、繊細さは微塵も見受けられない。殆ど同じ顔立ちなのに、こうも違うと逆に感心してしまう。

 因みに、リズは可憐さがウリだ。妃殿下にはない清雅さとアディーリアにはない奥ゆかしさが、リズにはある。成人して公式の場に出るようになれば、瞬く間に愚民ドモの心を鷲掴みにするだろう。

「………」

「どうかした?」

「いやさ。アディーリアって妃殿下にそっくりじゃん? よく妃殿下の子供ってバレなかったよね」

 妃殿下はあの通りの人なので、一度見たら先ず忘れられることはないだろう。

 クリシアは小国で資源も乏しい。その辺はイスマイルと良く似ているけど、イスマイルにはすこぶる付きの血統と聖地がある。そんなクリシア王家が、国際舞台で活躍する機会は余りなかったのに違いない。

 それでも妃殿下の顔を知ってる人間は少なくないはずだ。

「アディーリアは結婚するまで公式の場に出たことはなかったし、結婚してからは後宮から殆ど出なかったし、おまけに神教がそういう人間を注意深く排除していたのよ」

「そっか。来賓と会うのは第一正妃が殆どだったもんね」

 アディーリアが嫁ぐのと殆ど同時に息子が立太子された第一正妃は、次の国母となることが決まっている。となれば内外の権力者が繋ぎをつけたいのは第一正妃で、ぶっちゃけ言えば他の妃は用なしだ。つまり第一正妃以外が公式の場に出る意味は、殆ど言ってないし、望まれてもいない。

 ま、アディーリアには聖者っていう肩書きがあるから、別口からのアプローチはあったけど。

「それより、今は主な登場人物よ」

「そうだね」

 それからアタシとチビアディーは、次々と思い浮かぶ名前を挙げていった。

「勿論、アディーリアね。それから、ジェイディディア」

「この二人は却下じゃね? アタシ達が入ってんだし」

「取りあえず、上げられるだけ上げるのよ」

「分かった。んじゃあ、うだつの上がらない方のヴィセリウス神官」

「うだつの上がる方のヴィセリウス神官は、ここにはいないのかしら?」

「取りあえず、今のところ見たことないよ」

「………そう。じゃあ他に印象に残った人物は?」

「オルタシアさんかな。すんげえ、指導が厳しいんだよ。それから、ジェイディディアの前のルームメイトのルディナリアかな。すっげぇ美少女。あとサリナ。すっげぇ巨乳」

「………目の付け所に、微妙に男が入っているわよ」

「仕方がないじゃん。あれだけの美少女と巨乳なら、誰だって目が行くよ」

 美少女と巨乳の前に、男女の別はない。

 なんてことを拳を握って主張したら、チビアディーに胡乱げな眼差しを向けられた。

「コンプレックスの裏返しなのかしら?」

 ほっとけっ。

 誰が平凡顔で貧乳かっ!

 貧乳はともかく、平凡顔にはそれなりに満足しとるわっ!

 美少女の美少女であることの弊害を、恵美という存在によって、アタシはイヤという程

教えられた。並の美少女ならチヤホヤされて終わりだろうが、恵美クラスともなるとド変態が群がってくる。結果としてアタシは、美少女というモノは眺めるモノであってなるものではないとつくづくと思うに至ったワケである。

 なにせ、義理とはいえ家族にすらド変態が紛れ込むのだ。

 あ、家族と言えば。

「アディーリアの父親」

 言わずと知れた、クリシア国王その人だ。

 あの強烈な妃殿下の隣に立つんだから、さぞかし苦労は多いだろう。

 余程の傑物でもなければ、視界にすら入らないんじゃないだろうか?

「まだ会ったことないし、見かけたこともないんだけど」

 ま、一介の侍女がそうそう会える人間じゃないし?

 なんて思っていたら、

「………そう言えば、私もないわ」

「ええ!? 父親だよね?」

 あ、でも、リズも父親には殆ど会ってなかったな。

「王族ってそんなもん?」

「さあ、どうかしら。家風にもよると思うわ」

 そりゃそうか。十の家族がいれば、十の家風があるんだろう。

 それにしても、リズもアディーも、母子そろって家族に縁が薄いな。

 いやまあ、アタシも厚いとは言えないけどさ。

 あれ? この場合「濃い」か?

 家族は濃いけど縁は薄いとは、これ如何に?

 って、大喜利やってる場合じゃないっ。

「他には?」

 チビアディーに問いかけられて、思わず頭の中で無理問答が始まりそうだったアタシは、強固な意志の力で回避したっ。

「ええと、ニレニア王女かな? 会ったこと無いけど、名前だけは良く聞くよ」

「ニレニアには私も会ったことはないわ。父上とは年が離れていることもあって、殆ど行き来がないのよ」

「アディーリアのお父さんて、『今』幾つ?」

「確か、まだ三十にはなってなかったわ」

「そりゃ随分年が離れてるね」

「リズと長兄の第一王子も年が離れているでしょう? 母親が違うのだし。そういう事も珍しくはないわ」

 そうだった。こっちは一夫多妻制だった。

「とりあえず、リストアップはこれくらいね。あとは、正体を暴く方法よ」

「そりゃあ、やっぱりカエルの王…」

「却下」

 今度は言い終わる前に否定されてしまった。

「けどさ、他に正体暴く方法なんて思い浮かばないし」

「きっと、会えば分かるわ」

「なにその自信」

「自信じゃなくて、確信よ。私の中のアディーリアが、誰かの中のド変態を呼び覚ますはずよ」

 そりゃ確かに、アディーリアとド変態の間には、確かに深い愛情があったんだろうけれどもさ。

「まさか、会うだけでいいとか?」

「会えば分かるでしょけれど、呼び覚ますには何か手段が必要かもしれないわ」

「それも、考え済み?」

「あのド変態がアディーリアに会ったのは、アディーリアが三歳の時だけど、アディーリアがあのド変態に『会った』のは、十二の時よ。その時の事を再現してみようと思うの」

 なるほど。

 思い出のシーンを再現することで、誘いだそうってハラか。

「とりあえず他に良い案はないし、それでやってみよう」

 ダメなら、別の方法を考えればいいだけだ。

 行き当たりばったりと思わないでもないけれど、やってみる価値はありそうだ。

 てなワケで、アタシとチビアディーは「主な登場人物」達を呼び出すことにした。

 といっても、ゴーシェの使者が来ているせいで国王やニレニア王女は忙しい。二人にはとりあえず面会の申し込み(てのもおかしな話だけれど)だけしておいて、まずは確率の低そうな、オルタシアさん、ルディナリア、サリナ、の侍女三人と会う事にした。

 名目は、麗しくも気高き王女殿下が、新しい侍女の話を聞いて三人に会ってみたいと言ったから。

 専制君主制ってのは、こういう時便利だよね。

 たったそれだけの理由で、忙しい彼女達を呼び出せるんだからさ。

 手っ取り早く結論から言えば、チビアディーは彼女達には何も感じなかった。

 王女殿下兼聖者兼皇女を目の前にして緊張と感激に打ち震えている三人に、若干ご満悦だったけど。

 三人は、こんな幸運なことはこの先一生無いだろうと、アタシに感謝しまくった。

 下心のあるアタシとしてはちょっとばかり後ろめたかったものの、ついでなので国王陛下の事を訊いてみた。

 すると返ってきた答えはといえば。

「そういえば、おいでになったわね」

「妃殿下が余りにも目映いから、いらっしゃることすら忘れていたわ」

「でも、王女殿下がお生まれになったのだから、妃殿下にも御夫君はおいでになるのよ」

 いやいや、逆だろう。

 フランシーヌ皇女は、クリシア国王の元に嫁いできたワケなんだし。

「えっと、でも見たことはあるんですよね?」

 一番年かさのオルタシアさんに尋ねてみるも、

「そりゃあね、私達は生まれも育ちも王都だからね」

「月に一度、王城前の広場からお姿を拝見できるのよ」

「そりゃあ、ご立派なのよ」

「「「妃殿下が」」」

 いやだから、国王はどうなのよ?

 と重ねて訊ねてみたけれど、

「「「さあ、どんなお顔だったかしら…?」」」

 それは、あんまりなんじゃ…。

 そりゃ確かに、妃殿下は強烈だけど。

「私、城勤めする前だけど、バルコニーで妃殿下に殴られているのを拝見したことがあるんだけどな」

「あら、私は首根っこ捕まれてバルコニーからぶら下げられているのを拝見したわ」

「私は、そうだねえ、殴られているお姿も、ベランダからつり下げられてるお姿も、お尻蹴られて池に落とされているお姿も、何度となく拝見したけれどねえ」

 なんだか「お姿」だとか「拝見」だとか敬語で語られる程に、余計にその姿が悲しく思えてくるのは何故だろう。

 結局、国王の逸話は妃殿下への賞賛に繋がるばかりで、当人のことは殆どと言っていい程分からなかった。

 彼女達すら不思議がる程に。

「いつでもまた呼んでね」

「帰ってみんなに自慢しちゃおうっと」

「ご尊顔を拝謁できて、誠に光栄にございました」

 三人は三人なりの挨拶をして帰って行った。

 二人っきりになって、静かになった部屋で、アタシはチビアディーに言った。

「………これはあくまでもカンだけど、ド変態は国王の中にいると思う」

「………偶然ね。私もそう思っていたところよ」

 


誤字脱字修正しました。

ご報告ありがとうございましたm(_ _)m。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ