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第七二話 カエルは分類学上「無尾目」です その2

あけましておめでとうございます。

旧年中はひとかたならぬご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。

皆様のご期待に少しでも添える様、今後も精進していく所存です。

どうぞ本年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m。

 一体何がどうなってんの?

 アタシはこの夏、この言葉を何度思い浮かべただろう。

 初めてカエル間転送を経験したのが、現実時間で七月の終わり。それからほぼ二週間。その間にいろんなコトがあった。あり過ぎる程にあった。

 混乱した。

 試練もあった。

 精神的にキツいこともあった。

 流石にもうこれ以上はないだろう。

 と思う側からこの始末。

 神殿騎士団の制服を着ていないセルリアンナさん達と、王城にいるハズのムダメン共。

 彼らとリズとは紗のカーテンで隔てられていて、奇妙なお面が飾られている応接室は急ごしらえの「謁見の間」となっていた。

 これってどう見ても、ムダメン共が二号の身柄を第三王女殿下に届けに来たの図、じゃね。

 でもさ、それって一日二日は先のハズだ。

 ていうかコイツら何で夜中に訪問してるワケ??

 リズは子供だし女の子だし、しかも初めて訪問するのに夜中って。

 ありえなくなくなくね??

 アタシは内心で憤りながらも、なけなしの期待を込めて動いてるハズの三号の姿を探した。

 「今夜」リズの側にいたのは、三号のアタシ。

 けれども三号は行儀よく五号の隣に座ってて、動く気配はみじんもない。

 三号の時に一号のアタシに会わなかったんだから、それも当然のことだけど。

 同じ夜ムダメン共と出くわした二号はといえば、神妙に畏まっている黒髪腹黒の腕の中だ。

 「今」二号じゃなくてよかったっ!! と心の底から思いつつ、アタシは心ならずも不本意な結論にたどり着く。

 「今」アタシは「未来」にいる!!

 いやだからマジで一体何がどうなってやがんだよっっっっ!!

「リュー」

 何かのゲージがグングンと迫り上がって突っ走りそうになるアタシを、リズの声が引き留める。

 そんなリズを振り返れば、紫の瞳が不安げに揺れている。

 いかんいかん。

 今のアタシは一号。

 アンドリュー・サルダス・ケロタウロス。

 自由で陽気――というよりは空気の読めない躁病体質――なトレジャーハンターだ。

 そう。

 常に危険と背中合わせのトレジャーハンターたるもの、簡単にパニクったりはしないのだ。

 大体さ、時間を飛んじゃったくらい何だってんだっ。

 今までだって飛んでたじゃんっ。

 「過去」に飛んで、同じ夜を繰り返してた。

 それが今回は「未来」に飛んだってだけのことじゃん。

 本来「過去」は繰り返されず、ヒトは「未来」へと進んでいくモノだ。

 謂わば、順路をショートカットしただけだ。

 「過去」を繰り返すよりもずっと健全、ずっと正常。

「そうっ。だから無問題!!」

 アタシは決意を秘めて立ち上がると、拳を振り上げて叫んだ。

 一号の素っ頓狂な行動に慣れているリズ以外の面々が、ビクリと身体を揺らせたけど、それもこれも無問題!

「リュー!」

 リズの期待のこめられた眼差しが、真っ直ぐアタシに向けられる。

 それにアタシは、白い歯を見せてニッカリと笑って答えた。

「俺サマが来たからには、何も心配いらねえ! なあに、どんな無理難題も七つの海の海賊王を相手に勝利した俺サマの力を持ってすれば、赤子の手をひねる、なんぞ非道すぎてできん!」

 七つの海の海賊王って何処の誰だよ、と自分自身にツッコミながら、意味不明のキメポーズ。

「うん! リューは正義の味方だもんね!」

 一号の調子に釣られる様に、リズの声も明るくなる。

 その事に内心で安心しつつ、アタシは一号節を全開にした。

「違うぞ! リズ! 俺サマは俺サマの味方であり、そして俺サマこそが正義なのだ!!」

 まるで独裁者のようだけど、一号と独裁者の違いは、支配欲の有無だ。

 他者をコントロールしようなんて思いもしない。

 何故なら、他者の意志など気にもしていないから。

 だって空気読めないんだも~ん。

 互いに牽制し合っているセルリアンナさん達とムダメン共の緊張を余所に、一号とリズのハイテンションな会話は続いて行く。

「でもリュー」

「なんだ!? リズ!?」

「そういうのは『どくぜん』て言って、人として間違ってるんだって、先生がおっしゃってたわ!」

「大丈夫! 俺サマは人間じゃない!!」

「人間じゃないならいいの?」

「おおよっ! 可愛いリズ! 良く覚えておきなっ! 人間の教えは人間のためだけにあるものだ! 他の生物にまでそれを押しつけるのは、いかにも人間らしい傲慢さだぞ!」

 リズの眉間に吸盤の着いた赤い指先をビシッと突きつけてそう言うと、リズは目を寄らせながら肩をすくませた。

「ごめんなさいっ」

「あっはっは。分かればいいっ! 素直なリズが、俺サマは好きだぞうっ! 勿論、素直じゃなくても好きだがな!!」

「私もリューが大好き!」

「なにおう! 俺サマは大大好きだ!」

「私は大大大好きだもん!」

「じゃあ、俺サマは大大大大大大大大大大大大好きだ!」

「私は大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大好き!」

「おお! それでこそ俺サマのリズだ! だが俺サマは大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大好きだ! さてそこの女子! 今まで俺サマとリズはあわせて『大』を何回言ったでしょう!?」

 リズと一号のやりとりを呆然と聞いていたハーネルマイアーさんを、吸盤の着いた指で差しながら問う。

 セルリアンナさんを指名しなかったのは、何となくだけどセルリアンナさんなら答えられそうだったからだ。

 といってもアタシにも正解は分かんないんだけれどさっ。

「ええ!? 私ですか!?」

 突然話をむけられて戸惑うハーネルマイアーさんを、更に追い込むべく言葉を重ねる。

「制限時間は十(ミニス)! ハイ!! じゅう、きゅう、はち、なな、ろく、ごうっ」

「ええっと、七二回!」

「外れ!」

 多分。

「じゃあ、答えられる人間は、いないか、いないか~~っ! 我こそはと思う勇者は手を上げろ!」

 まるで威勢のいい競りのかけ声の様に呼びかければ、

「はい」

 案の定手を上げたのは、セルリアンナさんだ。

 それからもう一人。

 カーテンの向こうの黒髪腹黒? と思いきや。

 なんとまあ銀髪マッドだった。

「ハイハイハ~~イ! 僕は天才だから、答えられるよっ!」

 銀髪マッドは諸手を挙げてピョンピョン跳びはねながら言った。

 その様子はよく言えば無邪気、ぶっちゃけ言えば大人としてヤバい。そんなヤツは、明らかに天才とは紙一重なアレの方だろう。

 そして勿論一号は、思った事を思ったままに口にする。

「じゃあ紙一重君!!」

 アタシの呼びかけに、そこここでプッと吹き出す声がする。

 当然、黒髪腹黒と金髪直情、それから茶髪ジャイアンもだ。

 今夜の顔ぶれに濃紺鉄面皮がいないのは、何か理由があるんだろうか?

 それは追々考えるとして、やっぱりみんな同じコト思ったんだな。

「ええ~、その紙一重って何さ!」

「お前こそ、返事する時点で自覚があるってコトだろう!」

「あっ! そうか! あったまいいね! 赤いカエル!!」

「俺サマが頭が良いのではないっ。お前が愚かなのだ!」

「うわ~、僕、『愚か』って人から初めて言われたよ! しんせ~~ん!」

「わっはっは。そりゃメデタイ! それなら何度でも言ってやろう! この愚か者! ウスノロマヌケ! お前のかあちゃんで~べ~そ~~!!」

「うわ! 凄い! 罵声まで!」

「感謝しろよお! といっても、俺サマはヒトじゃないがな!」

「あ! それもそうか! 僕ってば、うっかりサン! あはははははははは!」

「ふははははははは!」

「ひょへへへへへへへへ!!」

「なはははははははは!!」

 大口を開けて笑いながら、アタシは心底悲しくなった。

 こんな限りなく紙一重なスーパーハイテンションマッドと波長が合う一号というキャラを演じているコトに、そしてそれを生み出してしまったコトに。

 アタシは心の中で誓った。

 もしこの先可能ならば、マッドと一号とは会わせるまいと。

 でなけりゃ、アタシの心が挫けてしまう。

「じゃあ、答えを言い給え! 紙一重君!」

「それはズバリ! 一三八回だよ!」

「ブブ~! 外れ!

「そんなハズないよ!」

「俺サマは『今まで』と言った! ソレはズバリ! リズと俺サマが出会ってから今までだ!」

「そんな! ズルいよ!」

「ズルくないっ!」

「じゃあ、正解は何回なのさ!?」

「それこそ愚問だ! 俺サマとリズとの絆は回数などでは計り知れない程に大きいのだ! だから正解は無限大!!」

「えええええええ! そんなの、納得できないよ!」

「俺サマは貴様を納得させるために存在するんじゃない! 不正解者は罰として、モノドモ! ひっとらえええええええええい!!」

「えええ!?」

「突然何を!!」

「無茶な!」

「頭イカれてやがる!」

 言うまでもない事だけど、この場に「モノドモ」と呼ばれる様な大人数は存在しない。

 これまた当然だけど、そんな訳の分からない命令に従う人間もいない。

 ただ誰もが呆気にとられて、一号を見ているだけだ。

 そしてこれまた悲しい事に、一号はそんな事は気にしない。

 空気を読まないヒーロー、それが一号だからだ。

「そこの女子諸君! 何故きゃつらを引っ捕らえん!?」

 侍従武官さん達にビシッと指を突きつけて問い質せば、

「あの、我々にそんな権限はありません。あっても、そのようなご命令には応じかねます」

 ハーネルマイアーさんが戸惑いながら言い、

「何故だ!?」

「あの、理由が可笑しいからです!」

 エセルヴィーナさんがキッパリと言い切った。

 確かに彼女達は間違ってはいない。

 けれどもソレが通じないのが一号だ。

「それこそオカシな事を言う! 人間は何時でもオカシな理由で他者を傷つけるじゃないか!!」

「それは、精霊様からご覧になれば、確かに人間は愚かしい生き物でしょうが…」

「ならばオヌシらに『正当な理由』を与えてやろう」

「え?」

「ヤツらを捕らえないのなら、貴様らを呪うぞ!」

 その瞬間の彼女達の切り替えは早かった。

「であえ! であえ! 慮外者ぞ! ひっとらえろ!!」

「皆の者! ケロタウロス様のお言葉に従え!!」

 途端に待ち構えていたかのように、わらわらと扉という扉から侍女サン達が入ってきた。

 皆、手に手に獲物を持っている。

 剣とか槍とか、メイスとか鎖鎌とか。中には鉄扇やら死神が持ってそうな大鎌まで…。

 みんな、何気にやる気満々だな…。

 ていうか、思いっきり待ち構えてただろうっ!

 ツッコミを入れたいけれど、一号は寧ろボケキャラなので入れられない。

 少なくともリズの前では。

 一方のムダメン共は、前もって武器類は預けさせられているので丸腰だ。

 そうなると、連中に抗う術はない。

「何をする!? こんな無体、大神殿の問責ものだぞ!」

「ただで済むと思うな!」

「こんの赤ガエル! 覚えてやがれ!!」

「いや~ん! 捕まっちゃった!! この僕が!? 神殿に!!?? あははははははは!」

 約一名、何故か楽しんでいるみたいだけれど、ムダメン共は鬼の形相でこちらを睨み付けながら引っ張られていった。

「ほうら、リズ。問題は解決しただろう?」

 アタシはリズを振り返って明るく言った。

 そう、取り敢えず、目の前の危機は去った。

 心の準備もなく正念場に出くわす事は避けられた。

 連中の反応からすれば後が怖いけど、明日は明日の風が吹くってヤツである。

 ムダメン共の登場に不安がっていたリズなら、きっと喜んでくれるだろう。

 と思ったけど。

「ううん、してないと思う」

 なんとリズにツッコまれてしまった!

 しかもかなり冷静に。

 いやまあ実際その通りなんだけれどさっ!

 リズの成長を喜ぶべきか、はたまた寂しがるべきか、それが問題だ。


予定では12日の更新でしたが、何故かタイムアウトしてしまってアクセスできなかったので、本日更新しました。

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