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第六八話 カエルも時には空を飛びます その2

 金髪直情と茶髪ジャイアンがガラクタの山を運び出す手筈についてアレコレと話し合っている。

 あと半年でどこまでできるかだとか、できるかじゃなくてやらねばならんのだとか。

 アタシはそれをガラクタ山の物陰からジッと眺めてる。

 テメエら被災者の救助活動はどうした?

 アタシがわざわざしてやった「預言」は忘れたままか?

 てかぶっちゃけ、半年後の即位式なんかどうでもいいじゃんっ。

 どうせ大神官が死んじゃったんだから、最低一年は延期だよっ。

 そこでアタシは気がついた。

 連中がまだ即位式を「半年後」だと思ってるって事は、ヴィセリウス大神官の死亡はまだ公にされていないらしいって事に。

 大神官は七つしかない大神殿の長であり、アヌハーン神教の柱だ。

 因みに神教にはカトリックで言うところの法王に相当する地位として首座大神官ってのがあるんだけれど、もう五百年くらい空位のままだ。首座大神官ってのは、大神官を除く全神官の投票で大神官の中から選ばれるらしいんだけど、ぶっちゃけいってそんな選挙は非現実的だ。交通手段が前近代的なこちらの世界で、大陸中に散らばってる全神官の票を収集するのに一体何年かかるんだよって話だもんね。多分五百年くらい前の神教の規模なら、そんな選挙も可能だったんだろうけどさ。

 というワケで、現在は大神官による合議制で神教は運営されているらしい。

 教区から殆ど出ずに滅多にお互い顔を合わせることのない大神官達が、どうやって合議するのかは不明だけれど。訊けば「夢ん中で会ってる」とかって頗る夢見がちな答えが返ってきそうだから、深くはツッコまないでおく。

 で。

 そんな重要な地位にある大神官が死んじゃったらどうするのか?

 普通は即刻発表して、次の大神官を選定するための評議会が設置される。その間は服喪期間として、巡礼は受け付けるけど大々的な宗教的行事はしない。当然その間は大神官が司る儀礼式典なんかはお休みもしくは延期になる。余所の大神官に出張してもらえばいいじゃんと思うんだけど、それはそれえイロイロと問題があるらしい。ぶっちゃけ言えば、寄付金とか礼金とかの問題だ。

 と言うわけで当然、イスマイル国王の即位式も延期になる。

 ハズなんだけど。

 なんで神教は大神官の死を発表してないんだ?

 地震の直後だから混乱を避けるため?

 だけどさ、大神官の「殉教」は宣伝効果もバッチリで、信仰心を煽るのに丁度いいと思うんだよね。

 皆さんが生きているのは、大神官の貴い犠牲があったお陰です、みたいな?

 そしたら寄付も増えるし、巡礼も増えるて当然実入りもよくなる。

 世知辛いようだけど、世の中結局カネである。

 荘厳な神殿の維持だって、清廉な神官達の生活だって、お土産処で並んでる開運グッズだって、カネがないことにゃあどうにもならん。

 だから、大々的な発表があってもいいんじゃないかな、てか普通すると思うんだけど。

 ま、何にも分かんないウチから考えても仕方がないか。

 今はともかく、連中から少しでも情報を聞き出すこととしよう。

 と思って、先程から聞き耳を立ててるんだけど、

 二人の口から出てくるのは、あ~でもないこ~でもないとガラクタを運び出す話ばっかり。

 このまま立ち聞きしてても、大した情報は得られそうにない。

 時間もないし、てかさっさとどっか行けよっ。

 アタシとしては、あくまでも隠密行動に徹したいのだ。

 だって、連中にムダに絡まれるのも面倒くさいし。

 問題は、この青い布製カエルでどうやって隠密行動できるのかって事だけど…。

 ああ、ケロタンよ。お前は何故ケロタンなのか…。

 アタシは天窓から漏れ入る月明かりを見上げながら、深く溜め息を吐いた。

 その拍子に、カラリと足下の小さなガラクタが転げ落ちる。

「誰だ!?」

「そこに誰かいるのか!?」

 うおおいっ! 地獄耳かよっ!

 突然放たれた誰何に、アタシは思わずビクリと身体を揺らせた。

 バランスを崩したアタシは、手近にあった何かを咄嗟に掴む。

 それがいけなかった。

 それまで辛うじてバランスがとれていたらしいガラクタ山がグラリと揺らぐ。

「あ! テメエは! うわああああああああああああああああああああ!!」

「きっ、貴様か! えぁあああああああああああああああああああああ!!」

「うわわっわっわひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

 ガラガラガッシャ――――――――――――ン!!!

 痛みの代わりにくすぐったさを感じるケロタンが、ガラクタ山の雪崩に巻き込まれてる最中、狂ったような笑い声を上げたのはご愛敬ってヤツである。












「全く、君らと会うとロクな事がない。コレだからイヤなんだ、男なんてものは」

 アタシは深々とソファに腰掛けながら、嫌みったらしい声でそう言った。

「き、貴様っ」

「アレはお前がっ」

 ギロリと睨み付けてくる近衛騎士二人を無視して、アタシは視線を余所に移す。

「相も変わらず不景気そうだねえ」

 と言って、濃紺鉄面皮を嘲笑い、

「ちょっと見ない間に腹黒さに磨きがかかったんじゃないかい?」

 と、笑顔でドス黒いオーラを撒き散らす黒髪腹黒に呆れ、

「君の頭はきっと小鳥を育てるのに適しているよ。というか寧ろそれ以外に使い道はないんじゃないかい?」

 ふわふわ頭の銀髪マッド眼鏡を揶揄った。

 場所は変わって、宰相閣下の私室である。

 私室ったって、日本人の思う私室とは意味が違う。

 なにせ書斎と寝室と応接室と客間があるのだ。因みに今いるのは書斎だそうな。

 以前二号として目覚めた時も相当高級そうな部屋だったけど、あの部屋は「宰相の執務室」だそうで、私室であるこちらの方が遙かに豪勢だ。一体どこの高級ホテルのスイートルームだよっというツッコミは、別にやっかみじゃないよ? テメエら国民の血税で何してやがんだよっという正義感からだ。

 ただまあ羨ましいと思う前に、掃除が大変そうだなと思っちゃう小市民なアタシには、こんな部屋には住めそうにもないけどね。そもそもこんな部屋に住む人間は、自分で掃除をしたりはしない。

「何て不運なんだ。かつての祈りの場で、ただ静かに物思いに耽っていたというのに」

 そう言ってアタシは、盛大な溜め息を吐いてみせる。

 勿論、デマである。

 あのガラクタ部屋がかつて礼拝堂だったって知ったのは、ついさっきだしさ。

 あの後、盛大な物音に駆けつけた騎士達を尻目に、隊長と副隊長はガラクタの雪崩から自力で脱出し、何の説明もないまま脱兎の如く走り去った。

 当然その手には、二号の姿があった。

 アタシは両手を金髪直情と茶髪ジャイアンに引っ張られて、その余りの力の強さに再び笑い声をあげなければいけなかった。

 きっと傍目にはN○SAに連れ去られて行く宇宙人に見えたことだろう。

 ケロタンが青じゃなくて銀色だったら、完璧だった。

 尤も、こちらの世界に「宇宙人」なんて言葉はないけどね。

 ――アレは何だ?

 ――隊長達は一体何を持ってるんだ!?

 ――ぶ、不気味な!!

 ――ち、珍妙なっ!?

 ――アレって、もしかして人形じゃないのか!?

 ――人形!? 一体何の!?

 ――どう見ても呪いだろうっ!

 なんて外野の声は、無視の方向で。

 そして急遽呼び出された黒髪腹黒と銀髪マッドも合流して、今に至るってワケである。

「第三王女殿下は離宮にお移りになったというのに、何故ここに?」

 黒髪腹黒は口調だけは穏やかに、真っ黒な微笑みを貼り付けて訊いてきた。

「置いていかれたのか?」

「愛想つかされたんじゃねえの?」

「うわ~。な~にそれ、か~~わいそ~」

「………哀れだな」

 ムダメン共は、この前の仕返しとばかりに口々に勝手なことを言うけれど、二号が男の言うことを気に病むことはない。

「君たちは相変わらず役立たずだねえ。世の女性達が、『地神の寝返り』のせいで夜露を凌ぐのにも難儀しているというのに、随分愉しげじゃないかい?」

 アタシがそう言うと、ムダメン共が途端に渋面を作る。

「別に愉しんでなどいない。王都の治安は王都騎兵隊の管轄だ」

「遊んでるワケじゃねえ。近衛隊が守るのは、国王とその家族だけなんでね」

 と、近衛隊の隊長と副隊長が言い、

「既に必要な物資の手配は済ませてあります」

「復興のために王国軍も出している」

 王佐と宰相が付け加えた。

 まあねえ。コイツらが直接出張ったトコロで、何ができるわけでもなし。

 人を動かすのが仕事なんだから、それはそれで正解なんだろうけどさ。

 セルリアンナさん達によると、王都騎兵隊は治安維持を名目にスラム街の人達を大勢引っ張っていっちゃったり、王国軍は貴族や金持ちが住む地域ばかりを優先して作業しているらしい。

 それもまたコイツらの指示なのか、コイツらが把握できてないだけなのか。

 その隙を突くように、大神殿が神殿騎士団やら神官やらをこぞって出して、瓦礫の撤去や炊き出しなんかをしてるんだけど。

 大多数を占める平民と国庫の資金源である巡礼者を大神殿に丸投げして、どうすんだって話だよ。

 ま、この国の行く末はコイツらが考えるコトであって、アタシが考えるべきコトじゃないからいいけどさ。

 そう、アタシが考えるべきは唯一つ。

 リズの幸せだけだ。

「トコロで君ら」

 アタシは連中から得るべき情報を頭の中で箇条書きにしながら、慎重に言葉を選ぶ。

「『地神の寝返り』があったときどうしてたんだい?」

 四号からの忠告に、どう対処したのか?

 アタシの言葉に、ムダメン共は互いの目線だけで会話する。

 一体どんな会話があったのか。

「クリストファル殿は、我らには興味がないのではなかったのではないですか?」

 黒髪腹黒の探るような質問を、二号は勿論否定しない。

「確かに、どうでもいいね。君達も君達のヘイカもね」

 その言葉に金髪直情の顔がヒクリと引きつるのを視界の端に納めながら、アタシは更に言葉を続ける。

「ミリーは、わざわざ君らのヘイカとやらにも、知らせを出したと言うじゃないか。彼女も全く酔狂なことだ」

「勿論、ミリュリアナ殿のご忠告には感謝している」

「速やかに陛下には安全な場所へ避難していただいた」

「それは素晴らしい。奇妙だとか不気味だとか散々言ってた割に、随分素直に聞き入れたんだねえ」

 普通に考えて、もうすぐ地震があるので避難してください、なんていきなり言われて信じるだろうか? 地震が殆どないこの国の人間が。しかも、そう忠告してるのは珍妙な布製カエルだ。

 けれど、ただの布製品じゃなくて「奇跡」だったら?

 信じるだろう。

 というか、信じてなくても従わずにはいられないだろう。

 後からどんなイチャモンつけられるかわかったもんじゃないからね。

 てことは、コイツらは神殿の「奇跡認定」の動きを把握してるんだろうか?

 あの何もない空間で出くわした時点では、そんな様子は見受けられなかったけど…。

 それとも。

「それとも、別の誰かから預言でも与えられていたかい?」

 途端に、ムダメン共に緊張が走る。

 但し、ただ一人を除いて。

 連中は無表情を貫いているけれど、こちらを警戒してるのは明らかだ。

 今までの、不気味なモノ、理解不能なモノを見る眼差しとは違う、鋭い切っ先のような視線にアタシはゴクリと喉を鳴らす。

 イヤ勿論、ケロタンの喉は鳴らないけどさ。

 どうやら連中は、あの時のことは、きっちり記憶してるらしい。

 ただ問題は、あの場にいなかった銀髪マッドの事だ。

 チラリとそちらに注意を向けてみると、あからさまな好奇心が見て取れた。

 銀髪マッドは知らない。

 仲間じゃないのか? という疑問は直ぐに霧散した。

 聖者は神教と通じてる。

 アディーリアが何だかんだ言いながら離れられなかったように。

 なるほど。

 人間関係は、思った以上に複雑らしい。

 アタシはニンマリと笑って言った。

「ちょっと君たちにお願いしたい事があるんだけどね。どうだろう?」

 

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