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第三九話 カエルには舌がない場合もあります その4

 そもそも「聖地」ってのは何なのか。

 簡単に言えば、「英霊に守護されている地」って事らしい。

 英霊ってのは、精霊の中でも特に位が高いヤツなんだとか。

 まあ、現代風に言えば、パワースポットってトコだろう。

 イスマイルみたく、標高高いから育つ作物は限られてるわ、耕地狭いから量も穫れないわ、おまけに大した鉱物資源もないってな国じゃあ、「聖地」という観光資源は命綱みたいなもんだ。

 なモンだから、イスマイルは国を挙げて「聖地」を大々的にアピールしてる。

 その甲斐あって、毎年何十万人もの巡礼者がイスマイルを訪れる。

 世界三大「聖地」として、「一生に一度は行きたい聖地ランキング」や「巡礼者に訊いたもう一度行きたい聖地ランキング」で数百年堂々首位を守り続けているらしい。

 誰がとったアンケートだよってツッコミは、この際置いといて。

 アタシだったら、高山病と闘いながらの観光なってお断りだけど。

 それが信仰の力ってヤツなんだろうか。

 そりゃ、苦労した分、達成感は大きいとは思うけど。

 それって単にクライマーズハイなんじゃ…?

 と思っちゃうのは、アタシだけじゃないはずだ。

 ま、要するに、イスマイルは観光立国として外貨をガッポガッポと稼いでるって事である。世界を越えても宗教ってのは金になるものらしい。

 アタシは地図を元の通りに丸めた。

 この地図が本物なら、この本の信憑性は増してくる。

 こっちに古文書の真贋を判別する技術ってあるんだろうか?

 あったとしても、本も地図も偽物だと言われたら、どうしようもない。

 全大陸的圧力団体アヌハーン神教と、しがない布製カエルじゃ勝負にならない。

 というか、布製カエルの話を真剣に聞く人間がいるだろうか?

 アタシなら、先ずその存在を無視するねっ。

 その事を考えれば、ケロタンの存在をまともに受け止めてるこっちの人間は、なんて奇特なんだろうと思う。

 文化の違い、っていうか世界の違い??

「……………」

 ふとアタシは気がついた。

 そう。

 改めて言うまでもないけれど、こちらの人間は、ケロタンを無視しない。

 てか、「奇跡」認定すらしようとしている。

 まあ、いろいろ思惑はあるんだろうけど。

 でももし、ケロタンが「奇跡」認定されれば。

 寧ろアタシの方が立場が上じゃね??

 「奇跡」ってのは、神様の眷属たる精霊がもたらすモノだ。

 宗教法人よりも、地位は高いに違いない。

 ああ、でもそうしたら、リズは確実に「神人」じゃんっ。

 リズを「神人」にせずに「奇跡」認定を受ける方法。

 もしくは、リズが「神人」になっても神教の思い通りにならずにすむ方法ってのがあればなあ。

 う~~~~~~~~~~~~~ん。

 考えど考えど、猶我に知恵は浮かばざるなり。

 じっと手を見る。

 ま、手ぇ見たって何の知恵も浮かばないわな。

 水かきの付いた小さな青い掌は、ホコリのせいでちょっと汚れてた。

 アタシはそれをパンパンと打ち払う。

 胸元の水時計に視線を移すと、いつの間にか水が落ちきっていた。

 ありゃ。

 急いでひっくり返して、どれくらいロスしたのか考える。

 うう~ん、大幅にロスしてたとしたら、叱られるかな?

 捜し物に手間取ったとか、部屋を間違えたとか、何か適当な言い訳を…。

 誰にって、そりゃ四号に。

 って、自分だよっ!

 くっそう、考えて損した。

 早く四号になって、二号の自分を嗤いたい。

 ………我ながら、物凄く不毛だ。

 本はともかく、地図を持ち帰るのには無理がある。

 何せ教材用の掛図並みにデカいのだ。

 持ち運ぶのにはかさばるし、隠す場所にも困る。

 第一、見つかりでもしたらヤバだろう。

 何せ、レゼル宮は神殿の息が掛かった人間ばかりなのだ。

 セルリアンナさんやコンスタンスさんが、どうとかいう問題じゃなく。

 立ち位置が違うっていうのは、そういうことだ。

 仕方がないので地図は置いて行く事にして、例の本ともう一冊、同じ作者が書いたもので皇国に関する本を持って帰る事にした。

 アタシは三つの隠し部屋を通って通路沿いの部屋に出た。

 ここもちょっとどうかと思うくらい、ステキな部屋だ。

 何せズララッと髑髏ばかりが並んでる。

 この部屋も、もうちょっと奥まったところに配置すべきじゃないかと思うけど。

 アタシは出口に向かう途中で、ふと思い立って、もう一カ所、寄る事にした。

 それは通路沿いにある二間続きの部屋で、アタシはその部屋を「プリプリ部屋」と呼んでいる。

 そこへ入るのは、台所の黒い悪魔の標本が壁一面にビッシリ展示されている「バイオハザード部屋」の次の次くらいに勇気が必要だ。

 何せ、精神衛生上の危機を感じるくらい、物凄い少女趣味の部屋である。

 惜しげもなく使ったフリッフリのレースと、精巧な造花と、ピンクのグラデーション。

 世のプリンセス趣向の女の子の想像を遙かに超えたプリンセスぶりだ。

 だから命名「プリンセス×プリンセス部屋」、略して「プリプリ部屋」だ。

 断っておくけれど、某不条理ギャグ漫画家の県民漫画とは関係ない。

 アタシは意を決して、「プリプリ部屋」の扉を開けた。

「うっ」

 思わずうめき声を上げてしまう。

 目が潰れそうな錯覚に、自律神経が磨り減りそうだ。

 埃を被っていてもこの威力。

 部屋の主が生きていた当時は、一体どれ程の破壊力があったのか…。

 アタシは恐る恐る足を踏み入れる。

 今にも花柄クッションの影から、妖精さんが出てきそうな勢いだ。

 そんなモノに出会ったら、アタシは間違いなく自分の正気を疑うねっ。

 ところがこの部屋。

 そんな少女趣味なのに、置いてある本と言えば魔術関連の物ばかり。

 おおっと、そこのお嬢さん。

 魔術と聞いて「プリプリ部屋」にはピッタリじゃん、などと思うなかれ。

 こちらで魔法と言えば、もれなく邪法。「目指せ! 呪殺!」をモットーに、常に「生け贄募集中」なドロッドロの黒魔術の事なのだ。

 なもんだから、リボンを可憐にあしらった小箱を開けてみれば、ビッシリと全身余すトコなく針の突き刺さった人形めっちゃリアルが…。なんてのは、まだ可愛い方なのだ。

 この部屋も、やっぱりこんな通路沿いじゃなく、もっと奥に置くべきだと思う。

 てか、そもそも地下にあるモノで公にしていいものなんかないんだけれど。

 アタシは余計なモノには触らない様に気をつけながら、本棚に向かった。

 本棚に並んでいるのは、どれも装丁がメルヘンタッチなものばかり。

 なのに背表紙には、『正しい人の呪い方』とか『チョー簡単呪殺術』だとか書いてある。

 所謂呪殺のHOW TO本ってヤツらしい。

 他には『手作り猛毒スイーツ』だとか『余り物呪殺レシピ』とかいう、絶対口にしたくない様な料理の本だったり。

 『呪殺の仮面』だとか『呪殺探偵』だとか、小説と思わしきものもあったりする。

 けれど、『呪殺兄弟』だとか『聖・呪殺さん』とかになると、もう意味すら分からない。

 断っておくけれど、アタシは呪殺に興味はない。取り敢えず。今のトコロは。

 じゃあこんな部屋に何の用事があって来たのかというと。

 魔術ってのは、精霊が必要だ。

 精霊を罠に掛け、無理矢理捕まえて使役するらしい。

 なもんだから、精霊に関する本も多い。

 精霊の生態やら精霊の良く出るスポットだとかの実用書(?)から、果ては精霊の星座別精霊相性占いだとか今日の精霊捕獲運勢だとかのオトメな本までヨリドリミドリってなもんである。

 アタシはその中から精霊の生態に関する何冊か取り出した。

 パラパラと捲って目次を見る。

 精霊とは何か、から始まって、精霊の属性、精霊の性質、精霊界のヒエラルキー、神々との関係性等々、どれも似たり寄ったりの内容だ。

 それにしても、いるかどうかも分かんない存在の生態なんて、どうやって調べたんだろう?

 てか、全部空想、もしくは妄想じゃねえの?

 とか思ったりするんだけど。

 全部イタイタシイ程本気である。

 しかも更にイタい事に、コレこそがアタシの必要としているモノなのだ。

 トホホホホだよ、全く。

 けれど、今後リズ以外の人間とつき合っていかなけりゃあならないのなら、これまでうやむやにしていたケロタンの立ち位置っていうか、設定ってのを、ちゃんとしとかなけりゃいけないと思う。

 特にあの、無駄にイケメンな宰相連中。

 略してムダメン達は、ちょっとやそっとの設定じゃあ納得しないだろう。

 だから、ケロタンの「奇跡」への動きがあるのなら――受けるか受けないかは別にして、それに乗っかろうと思うのだ。

 ケロタンは精霊さんの関係者、いや、関係物か。

 その方が、神教からのフォローも望めそうだし。

 多分。

 と言うわけで、先ずは精霊についてちゃんと勉強しようと思ったわけだ。

 いるかどうかもわかんない存在について「ちゃんと勉強」ってのも、妙な話だけど。

 アタシは数ある精霊関連の本の中から、二冊ばかり選り出した。

 皇国関連と精霊関連の本を二冊づつ、合計四冊。

 どれも分厚くてデカいので、結構な重さになるけれど、ケロタンの腕力なら問題ない。

 ひょっとしたら、肩の辺りが加重でちょっとほつれちゃったりはするかもだけど。

 アタシは水時計をもう一度確認した。

 水は三分の一程落ちている。

 荷物があって走れないけど、今から戻れば十分間に合うだろう。

 アタシはそう考えて、本を積み上げ、ヨッコイショと持ち上げる。

 足下が全く見えないけれど、足場が悪いワケじゃないので特に問題はない。

 漸く階段を登り切り、一旦本を置いてレバーを回す。

 こちら側のレバーは、特に仕掛けもなく、普通に回せば扉が開くようになっている。

 若干広めに開けたそこに、体を滑り込ませれば。

 水時計の水は、まだ三分の一は残ってる。

 うん、楽勝楽勝。

 これなら四号には叱られまい。

 夜明けまでまだ時間があるから、それまで持って帰った本を読もう。

 なんて思った矢先。






 ドンッ!!






 突き上げるような衝撃があった。

 アタシは本ごとつんのめる様に倒れ込んだ。

 バラバラバラッと靴が降ってきて、ゆらゆらと部屋中が揺れた。

 地震!?

 途端に、ベッドで眠っているリズの姿が脳裏を過ぎる。

「リズ!!」

 そう叫んだ時には、アタシの意識は二号から離されていた。


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