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第一〇九話 カエルは小者だからといって油断してはいけません その2

 セルリアンナさん達とのやりとりを語る前に、アタシがなんでこんな場末なマンガ喫茶にいるのか説明しておこう。

 語る必要も説明する必要も、ないといえばないんだけど。

 まあ、手っ取り早く言えば、恵美に呼び出されたからである。

 目が覚めたのは、昼過ぎだった。

 夢の世界で「寿限無」を唱えたので、また昏睡未遂騒ぎが起きてないか心配だったけど、睡眠時間は十二時間。普通に寝過ごしただけである。

 よく考えたら一人で寝てたので、そもそも騒ぎ出す人間がいないんだけどさ。

 十時半にセットしといた目覚ましが、ベッドの下に落ちていたのはご愛敬というヤツだ。

 それはともかく、どうやら「寿限無」の現実への効力は、失せたらしい。

 何故夢の世界ではまだ有効なのか分からないけど、現実に影響がないならこの先も何かと使えそうである。

 ゲーム風に言えば、

 ケロタンはこんすいのじゅもんをおぼえた!

 ってトコだろうか。

 うむ、終わりよければ全て良し。

 とは、アタシのセンシティブなロンリーハートが許さなかった。

 夢の中で投げ捨てた羞恥心が、現実に戻った途端戻ってくる。

「ぐおおおおおおおおおっ」

 アタシはフラッシュバックのように蘇る記憶に、ベッドの上でモンドリを打った。

 余りにも激しくモンドリしたのでベッドから落ちて、そして床でもモンドった。

 今思えばあれは、所謂SAN値がゴリゴリすり減っていくとかいう状態だったのだろう。

 SAN値。

 ある事情から最近、というかついさっき知った言葉だが、とあるゲームで使用されるパラメーターで、ヒットポイントならぬ正気ポイントというヤツらしい。恐怖体験をすると減っていき、ゼロになると発狂するというモノらしい。

 一体どんなゲームだよ。

 因みにネットでSAN値チェックしたら、アタシは二二で、恵美は四七だった。

 何か非常に納得がいかない……。

 それはともかく。

 ひとしきりモンドリをモンドった後、アタシは恵美に電話した。

「ぎいやああああああああ!」

 この時のアタシの状態をSAN値で言えば、限りなくゼロに近かったに違いない。

 つまり、心神喪失状態であり、責任能力の欠如を主張したい。

 そんなアタシの状態を、恵美は野生の勘で感じ取ったのか。

 ――<モンドリアン>に来い。

 恵美はただ一言そう言って、電話を切った。

 ついでに携帯の電源も切って、アタシからの更なる迷惑行為を遮断した。

 <モンドリアン>とは、言わずもがなこのマンガ喫茶の名前である。

 当然ながらモンドリアンとはモンドリとは関係ない。カンディンスキーと並び称される抽象画家の巨匠である。マスターが好きならしく、壁には幾つもの幾何学的な抽象画のポスターが飾られている。

 恵美が<モンドリアン>にアタシを誘った理由は、ただ単に朝っぱらから入り浸っていたためだ。そして動きたくなかったので、携帯の電源を切った。

 何か言いたいコトがあるならお前が来い、と言うワケだ。

 勿論、アタシには行かないという選択肢もあったけど、一人で部屋にいるとまた際限なくモンドリを打ってしまいそうだったので、だからアタシは、<モンドリアン>へと自転車を走らせたのだ。

 汗だくで店に入ると、ほどよく冷房が効いていた。

 冷えすぎず、長居するには向いている。

 恵美が店から出たがらないのも分からないでもない。

 にも拘わらず店内は閑散としており、呑気にTRPGのルールブックなんてのを読んでる恵美を見つけるのは簡単だった。

「くらえっ! 『玖麗那威天猫』の祟り!!」

 アタシはそう叫びながら近づくと、

「ああああっ! 何をするっ!?」

 ズズズズズズズズズズズズズズズ~~~~~~!!

 恵美の大好きなミックスジュースを、飲み干してやった。

 少し氷が溶けて薄くなったミックスジュースは、それでも十分美味しかった。

 ドンッ。

「ごちそうさまっ」

 爽快な気分でグイッと口を拭えば、

「あああああっ。ワタシのミックスジュースがあああああああっ!!」

 恵美を泣かすには、食い物をぶんどるのが一番である。

 後に天パがこの時のことを振り返って言った。

 ――恵美さんの食べ物ぶんどって制裁受けないって、恵美さんとスミさんの友情は本物っすね!

 天パよ、アタシも恵美も、アンタより三つ年下だ。敬語使う己を疑問視しろっ。

 とは、後にも先にも言ったりはしなかったけどねっ。

 取りあえず恵美に制裁を加えたアタシは、ちょっとばかし清々しい気分になった。

 お陰で気持ちも落ち着いたアタシは、続けて状況の説明をする。

「『玖麗那威天猫』が神獣で、ネットで着ぐるみオーダーメイドの叩いてかぶってじゃんけんホイ。千の名前の天翔る『ニャン』見参なのだ!」

 完全に電波受信してるとしか思えない台詞だけど、他人がいる前で詳細を話すワケにもいかないので、仕方がない。

 浅からぬ恵美との友情に期待して、相当ボカしながらもこの無念さを伝えるべく努力した結果である。

 そんなアタシの努力は見事実った。

 恵美はピタリと嘆くのを止め、大爆笑した。

「ぎゃはははははははははははははっ! 何だその展開!」

 勿論制裁として、気を利かせたマスターが恐る恐る持ってきた新たなミックスジュースを飲み干してやった。

「うおおおおおっ! 命のミックスジュースがああああ!!」






















 チビアディーとの必死の交渉で、どうにかポーズを最小限におさえるコトに成功したアタシは、緊張しながらもカメラの前に立った。

 これから、カメリハというヤツをやるらしい。

 それを見ながらエフェクトの微調整をしたいと、チビアディーが言い出したからだ。

 どんだけ凝るつもりだよ。

 とは思ったものの、今回の交渉が今後を左右するだけに、慎重に行きたいと思う気持ちは理解できた。

 別に文句を言って、じゃあポーズやれとか言われるのを怖れたワケじゃない。

 アタシ達は今こそ、一致団結しなければならない局面なのである。

 ところが問題は、どうやってモニターチェックをするのかという話になった。

 ココにあるモニターは向こう側の映像は映すけど、こちらの映像は映らない。

「仕方がないわ。ド変態を呼び出しましょう」

 ド変態の空間に映し出される「ニャン」を向こうのカメラで撮って、その映像はこっちのモニターで見れるから、それでチェックしようといコトらしい。

 チビアディーがそう言った時、アタシは余程イヤそうな顔をしていたのだろう。

「利用できるものは擦り切れるまで使い切る。場合によっては、擦り切れても使い切る。死人に鞭打つ程の覚悟がなくては、この先やっていけなくてよ?」

 ド変態をムチで打ったら喜ぶだけだと思う。

 とは思ったものの、実際問題カメリハできる相手はド変態しかいないワケで。

「じゃあ、アレを呼び出してみて」

 チビアディーに促されて、渋々ながらリモコンの電源スイッチを押して、

『が、分かったであろう。幾久しく待ちわびたこの時が、漸くやってまいった。我が記憶、そなたに受け止めきれるかな』

 ブチッ!

 反射的にスイッチを切った。

「何アレ?」

 ド変態はカメラ目線だったけど、こっちのモニターに映る前から何か喋ってる感じだった。

「自分でシーンを空想しては、格好いいと思う台詞を言っているのじゃなくって?」

 なんだそりゃ。チュウニビョウか。

「ますますキモくなってんだけど」

「そうね、アレを別空間に封印したのは間違いだったかもしれないわ。これじゃあ、制裁が加えられないもの」

 側に居る鬱陶しさに耐えるか、制裁できない歯痒さに耐えるか、それはもう殆ど究極の選択である。

「ついでだから、メリグリニーアさんとセルリアンナさんが叔母姪の間柄か知ってたかどうか、ド変態に訊こうと思ったけど。もう何か、アレなアレとアレコレ話すのも面倒くさいし。リハーサルなしでいきなり本番ってことにする?」

 あたしの提案に、チビアディーは小さく嘆息すると、

「……そいういうワケにはいかないわ。どうにかして、アレを気絶させる手段を考えなければ…」

 その時だった。

 足下でカエル達が鳴いたのは。

「オゲェ」

「ゲコォ」

「ケロロ」

「キュッ」

「…ッ」

 その声に誘われて視線を降ろすと、そこには…













「待った」

 突然話の腰を折られたアタシは、その当人――恵美を見遣った。

「え? 何?」

 不機嫌を隠さずに問いかけると、恵美はポテトチップスをバリボリと食べながら言った。

「前置き長い」

 ポテトチップスは、一旦戻って来た天パとメガネが、桃缶とケチャップと共に置いていった大量のスナック菓子の一つである。

 当然二人はまた出かけた。

 勿論、マスターに頼まれた買い物のためである。

 荷物を受け取ったマスターは、早速チキンライスとミックスジュースを作り始めた。

 ところが。

 トン…………トン…………トン………。

「痛っ」

 マスターが調理する物音が恐ろしく緩慢で、何時出来上がるのか予想もつかない程だ。

「オッちゃん、飲み物は作れるけど、他は殆どまともに料理できないんだよ」

 常連なら誰でも知っている常識らしい。

 だったら、何故チキンライスというメニューがあるのか?

「あまりの不器用さに見かねた客が代わりに作るんだよ。他の客がいる時頼めば無問題」

 なのだとか。

「天パとメガネが帰ってきたらどっちかが作るか、その間に他の客が来たらソイツが作るかするよ」

 恐らく、大量のスナック菓子は、彼らが戻るまで恵美の腹の虫を押さえ込むためのものなのだろう。

 それだったら天パかメガネのどっちか残らせて、作らせりゃあいいのに。

 何時もの恵美なら、買い出しの荷物がどれだけ多かろうと、構わず自分の欲望を優先しそうなもんだけど。

 と考えて、気がついた。

 ひょっとしてコレは、人払いと言うヤツじゃないだろうかと。

 雑踏の中ならともかく、この閑散とした店内じゃあ、普通に話してても丸聞こえである。

 つまり、夢の話を他人に聞かせたくないアタシのために…。

 とはいえ、そもそも恵美がアタシの部屋に来てりゃあ、そんな気遣いも必要ないワケで。

 アタシは、恵美のちぐはぐな「思いやり」に何とも言えない微妙な気持ちになった。

 ていうか、マスターいるけど。

 多分、人の数に入ってないんだろうな、あのマスター。

 トン………トン………トン………とぎこちない音をたてながら食材を切っている――ダラダラと涙を流しているのでタマネギと思われる――マスターを横目で見ながら、恵美に言った。

「それは、まあ否定しないけど」

 まどろっこしいのは承知の上で、外せない部分というのがあるのである。

「ビデオチャットに便利機能が付いたって場面だからさあ。そこら辺言っておかないと、セルリアンナさん達との交渉シーンに繋がらない」

 実は、とある事情でビデオチャットの機能が向上したので、セルリアンナさん達との会話、一人一人別々にしなくてもよくなったのだ。

 当然ながら有料だった。

 そしてお代は魂だった。

「どうせ、別売りオプション買ったとかそういうヤツじゃねえの?」

 アタシは恵美の言葉にあんぐりと口を開ける。

「なんで分かった??」

「機能の追加つったら、大概別売りオプションだろ。カエルがカタログか取説を持ってきたとかじゃねえ?」

 当たってる。

 そう、カエル共が持ってきたのは、取説だった。その後ろの方のページに、オプション機能の項目があったのだ。

 そこでアタシとチビアディーは、「公式サイト」にアクセスし、マルチモニター機能とプロジェクターを手に入れたのだ。

 全部で締めて約七万コンパク。

 高いのか安いのか全く不明だけれど、そこでしか売っていないので仕方がない。

「それより、アンタの話じゃあ、『天翔るニャン』の詳細が分かんねえんだけど」

 恵美の不満は、どうやらソコらしい。

「あれ? 『ニャン』のコト、ちゃんと言ってなかったっけ?」

「神獣ってコトしか聞いてない」

「あ~、そうだったかも」

「着ぐるみがブキカワってのは言ったっけ?」

「それは聞いたけど、それじゃあ絵面が思い浮かばん」

「じゃあ、今から『ニャン』の特徴言うから、頭の中で…」

 想像しろ、と言おうとして止められた。

「いや、それじゃあダメだね」

「そんなコト言われても…」

 アタシの頭の中を見せられるワケじゃないし。

「どうすんの? てか、どうしたいワケ?」

 アタシがそう訊ねると、恵美は待っていましたとばかりに大きく頷いて、

「絵を描こう」

「は?」

「そこに天パのスケッチブックがある。アタシが絵を描くから、アンタ、特徴言ってみ」

 何でそこまでして?

 という問いは、口にせずとも顔に出ていたらしい。

「そりゃ勿論! もっと笑いたいからだ!!」

 殴っていいだろうか?

 とは思ったけど、直ぐさまその考えを翻す。

 父親が画家だっただけあって、恵美には絵の才能がある。

 アタシには足下にも及ばない程の類い希なる才能が。

 その才能を持ってすれば、あの「うろ覚えの落書き」など軽く超えることだろう。

 ふむ。

 ここは一つ、恵美に絵を描かせてみるか。

「分かった。んじゃ、今から『ニャン』の特徴言うから、描いてみな」




SAN値はこちらでチェックしました

shindanmaker.com/238286(頭にhttp://つけてください)

他にもあるので、興味のある方はやってみてください。

因みに、romewoのSAN値は22でロメヲだと37、そして本名でやると9でしたorz。

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