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第八話 カエルの恋は合戦です その2

 ちょっと聞いた? 第三王女殿下が数日前からふさぎ込んでるんですって。

 あらやだ、また誰かの嫌がらせ?

 ヒステリー持ちの第二正妃?

 陰気な第三正妃かもしれないわよ。

 動物の死体投げ込んだこともあるって話じゃない?

 さいあく~。

 第一正妃様みたいに、ド~ンと構えてりゃいいのにね。見苦しい。

 で、今回は何やらかしたの?

 なんでもさ、王女殿下が大切にしている母君の形見のぬいぐるみが一つ見あたらないんですって。

 形見のぬいぐるみ?

 あ~、干してあったの見たことあるわ。

 アタシ、な~い。どんなの?

 可愛いわよ。カエルの形していてね。

 ぬいぐるみっていっても、絹でできてるの。あの色の鮮やかさは、相当の極上品よ。

 亡き第四正妃様のお手製らしいの。

 殿下はそれはそれは大切になさっているそうよ。

 お寂しいのね。

 お体が丈夫ではいらっしゃらないから、心細いこともあるでしょうにね。

 健気だわ~。

 でもさ、母君の形見が見あたらないってどういうこと?

 それがさ~、レゼル宮のどこにもないらしいの。

 やだ、誰かが盗んだってこと?

 あそこは女官も侍女も、下女に至るまで、王女殿下に対する忠誠心が強いわよ?

 まあ、アタシたちみたいに適当に配属されたのと違うからね。

 ええ? どういうこと?

 あそこは全員神殿関係者よ。ほら、王女殿下の後見人がヴィゼリウス大神官だから。

 ああ、だからあそこの侍女、娘子軍とも仲いいんだ。

 アマリーア様、格好いいっ。

 イザベル様も素敵よ。

 一度で良いから、間近でお顔を拝見したいわ~。

 ところさ、でちょっと聞いたんだけれど。

 何よ。

 前宮の侍女の話なんだけどね。

 前宮?

 良いわね~、前宮は。出会いがあってさ。

 あ~、カレシほし~。

 で。前宮でなんか面白いネタがあるの?

 新しい宰相のことよ。

 もんのすごい美形っていう?

 きゃ~、遠目でいいから、見てみた~い。

 何々、宰相に女の影でもあるの?

 うわっ。彼女もち? 残念。

 だったら、そりゃ面白いネタなんだけどさ。そうじゃないのよ。

 宰相の部屋付きの侍女がさ。見ちゃったのよ?

 濡れ場?

 違う。

 修羅場?

 だから違うって。

 じゃあ、何見たのよ。

 なんとね。ぬいぐるみよ。

 ぬいぐるみぃ?

 え、何々? それってそういう趣味なわけ?

 ってどんな趣味よ。

 子供用?

 宰相はまだ結婚すらしてないじゃない。

 なんで、宰相の部屋にぬいぐるみなんかあるのよ。

 それがね、ただのぬいぐるみじゃないの。

 どういうこと?

 カ・エ・ル。

 ええ!?

 だからね、極上の絹でできた青いカエルのぬいぐるみ。

 なんで??

 ……………。

 王女殿下の無くなったぬいぐるみって何色だったっけ?

 ………青よ。

 そういえばさぁ、宰相ってばノーザラン侯爵家よね。

 あら、ノーザラン侯爵家っていえば、第四正妃のお輿入れに猛反対されたわよね。

 そりゃそうよ、第一正妃の後見だもの。

 あ~~ら~~~。






 てな会話が侍女さん達の間であったかどうかは知らないけれど、

 まあ、そんなような話が、神殿娘子軍の耳に入ってきたわけだ。

 既に第三王女付き侍従武官からは、噂通り王女殿下のぬいぐるみが紛失していること、そして侵入者の可能性について報告を受けていた。

 娘子軍の警備網が破られたのは不名誉この上ないが、だからといってなかったことにできはしない。

 まさか噂ごときで宰相に嫌疑を掛けることはできないが。

 たかが噂、されど噂。

 もしそれが事実なら、娘子軍の警備の不備云々って問題に収まらず、「イスマイル王国」が「神殿」の権威を侵害したってことになるからだ。

 アヌハーン神教ってのは、表向き俗世の権力とは関係ないって顔をしてるけど、裏では「領土なき帝国」なんて言われてて、ぶっちゃけ全大陸的規模を誇る圧力団体だ。その影響力たるや、フリー○イソンだって真っ青に違いない。なんせ国王が破門なんてされた日にゃあ、周辺各国が大手を振って侵略しちゃうくらい神殿の承認ってのは重要な意味を持つ。

 つまり、神殿との軋轢は立派な政治問題ってわけである。

 ありゃまあ、ずいぶんとデカイ問題に発展しちゃったもんだと、アタシはその話を聞いて内心で戦いた。

 あの後すったもんだのあげく、今晩中に必ずリザの元へ返すという条件の下、アタシは彼らの話を聞くことになった。

 オブザーバーとして出席しているメリグリニーア神官長にも、ちゃんと確約して貰った。

 主に話してくれてるのは、娘子軍の二人、アマリーアさんとイザベルさんだ。

 アマリーアさんは、褐色の肌に銀色の髪とピンク色の目をした、ボンキュッボン(死語)なナイスバディの美人さん。

 イザベルさんは、クリームの肌にウェーブのかかった茶色の髪と金色の斑点のある緑の瞳をした、華やかな印象の美人さん。

 そして、時々注釈してくれるのがセルリアンナさん。

 セルリアンナさんは、真っ直ぐな黒髪に深い海の色の瞳をしてて、特別美人という訳ではないけれど(アタシよりは遙かに綺麗だけどさ)、穏やかな雰囲気が人を安心させる、そんな女性だ。リズがよく懐いているのも、分かるような気がする。

「我々の独自の捜査で、宰相殿の元に青いカエルが、つまり…」

 アマリーアさんが言う。

「僕だね」

「そう、貴殿がある、いる?」

 モノとして扱うべきか、ヒトとして扱うべきか躊躇っているらしい。

「どっちでもいいよ。僕が入っていない時は、コレは間違いなくただのぬいぐるみだからね」

「では『いる』で。宰相殿の元に貴殿がいることが判明したわけですが」

「まさか一国の宰相を直ぐさま逮捕って訳にはいかなかったわけだ」

「はい。それで神殿を通じてイスマイル王国へ問い合わせてもらったのです」

「で、そこの鉄面皮は素直に罪を認めたのかい?」

 アタシはそう言って、濃紺の髪の男を指さした。

 なんとこの鉄面皮、美形のくせに宰相らしい。それはつまり、顔が言い上に頭もよくって仕事ができるってことである。なんかムカつくのは、凡人としての哀しい性だ。

 しかも、コイツだけじゃない。

 金髪騎士が近衛騎士隊隊長で、茶髪フェロモン男が近衛騎士隊副隊長、黒髪腹黒が王佐、そんでもって銀髪のマッドなインテリメガネは国王侍医である。

 そろいもそろって、顔も頭も良くて地位もある。なんだそりゃ、巫山戯てんのかコンチクショー。世の男どもに一つくらい分けてやれ!

 アタシは内心で叫んだね。

 因みに、彼らからも自己紹介は受けたけど。

「僕は男の名前は覚えない主義なんだ」

 とかなんとか言って、名前を覚えるのは拒否してやった。

 外国人の名前を覚えるのが苦手で、もう記憶容量がいっぱいいっぱいだったってことは、勿論内緒だ。

「宰相殿は、貴殿がいることについては認めましたが。落ちているところを拾ったとの一点張りで」

 アマリーアさんはアタシの「鉄面皮」発言には敢えて触れなかったけど、鉄面皮が誰かはちゃんと分かったらしい。

「ぬいぐるみが一人で出歩くわけでなし。だったら何かい、何者かがわざわざレゼル宮に侵入して盗んだあげく、そこいら辺に放置したとでもいうのか? そんな子供みたいな言い訳、誰が信用する? って思った?」

「………思いました」

「僕も思うよ、うん」

 誰の顔にも「お前が言うな」って書いてあったけど、アタシは知らないフリをする。

「話は平行線を辿り、決裂かと思ったのですが。そこのバカが」

 と言って、アマリーアさんが指さしたのは、国王侍医である。

 このふわふわ頭のマッドなメガネは、ふわふわの髪と同じふわふわの理性しか持ってないらしい。

『あれぇ、よく分かったねえ。ソレ、本当に王府の廊下をテクテク歩いてたんだよね』

 てな、爆弾発言をしちゃったわけである

「ルルの頭の中が奇妙奇天烈なことになっていることは重々承知していましたが…」

「え~、酷いや、マリー」

 と、アマリーアさんの言葉に国王侍医が子供みたいな口調で反論する。

 愛称で呼び合う二人は、幼なじみであるらしい。

 で、アマリーアさんにしてみれば、幼なじみの青年の奇妙な言動は今更なので、「またか」程度にしか思わなかったけど。

「そのルルの頭がおかしいとしか言えぬ意見に、他のれんちゅ、いえ、方々までもが、同調いたしまして…」

 いま、アマリーアさん「連中」って言いかけたよね?

 ま、アマリーアさんの気持ちも分からなくもない。

 全員、この国の要とも言える人間だ。

 きっとその時アマリーアさんは、この国の将来が真っ暗に見えたに違いない。

 何をバカな事を。

 いや、本当だ。

 と、殆ど子供の喧嘩と変わらない言い争いは、どこまでも平行線だ。

 それに終止符を打ったのが、国王陛下だったらしい。

「三日間だけチャンスを与えてやって欲しい」

 とかなんとか。

 その三日の内に何も起こらなかったら、彼ら全員に対して何らかの処分を下す上に、好きなだけ取り調べをすればいい。

 一国の王にそこまで言われては、神殿側も否とは言えない。

 彼女たちの予定では、三日後には容疑者として遠慮なく取り調べできるはずだった。

 なのに。

「二日目に、僕が動き出しちゃったわけだね」

 アマリーアさんとイザベルさんは不本意げに頷いて、男連中は「ほらみろ」とばかりに得意げだ。若干一名相変わらずの無表情だけど。

 それにしても、国王は無茶な賭に出たもんだとアタシは思う。

 余程のバカか大物か、或いはそれだけ彼らを信頼してるのか、それとも何か確信があったのか…。一つだけ心当たりがないこともないけど、臨終間際だったあの男に、そんな時間があっただろうか?

 けれど、それは今考えても仕方がないので。

「新しい国王は心が広いと言うべきか、思考が柔軟と言うべきか。僕なら間違いなく君らを病院送りにしているよ」

 と素直な感想を口にしたら。

「お前が言うな!!」

 と今度こそ全員につっこまれた。


副題が、思いつかなかったので「その2」です。

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