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第一〇六話 カエルは爪を隠しません その3

 三日…。

 三日も飛んじゃったのか。

 システムが正常化しても時間が飛ぶってコトは、バグじゃないんだろう。

 どういう仕組みでとかは訊かないから、何時どれくらいの日にち飛ぶのかくらい「前もって」教えて欲しい。

 それから、できれば取説。

 取説が欲しいっ。切実に。

 勿論、ヘルプ機能でも可。

 キーワード検索できれば尚良し。

 と望んだところで、そうそう都合良く叶うとは思えない。

 この夢はアタシの夢だ。

 けれども、夢ってのは見てる本人の望み通りになるとは限らない。

 特にここ最近は、寧ろ望んでないコトばかり。

 カエルに飲み込まれたり、カエルに追いかけられたり、カエルの仮面被った両親と空を飛んでみたり。

 そんなコトはこれっぽっちも望んでいないし、かつて望んだ事もなければ、未来永劫望まないだろう。

 だから、今更そこら辺を望もうとは思わない。

 そんな希望は思い浮かべるだけでもムダである。

 ただ。

 ただ、適切な使い方を教えて欲しいっ!

 と思うのは、我が儘だろうか?

 とかなんとか考えているウチに、メリグリニーアさんの中でまたまた何かがどうにかなってしまったらしい。

「私が如きに声をかける価値もないと思し召しなれば、それもまた望みますまい。しかしながらあの者達はまだ年若く、あの者達の行為は全ては我が命によるものなれば…。闇影様の御処遇に只人如きが口を挟むことは畏れ多き事とは存じ上げておりますが、万が一にも冥府に召し上げるなどということになれば…!」

「………」

 ええと、「冥府へ召し上げる」ってのは死ぬってコトか?

 ええ!?

 まさかっ! 殺されると思ってる!?

 なんで??

 ああ! アタシが「闇影んところのお奇跡様」だからか!

 闇影は闇の双性神の精霊。まさか闇の双性神の元へ引っ立ててられると思ってる?

 いやいやいやいや!

 あの世への行き方とか知らないしっ!!

 とはいえ、三日も眠ったままじゃあ、確かにそういう方向に考えちゃっても仕方がないとは思う。

 人は飲まず食わずで何日生きられるのか?

 アタシには分からない。

 けど、三日はヤバいんじゃないかと思う。

 点滴とかあるならまだ大丈夫そうだけど、こっちにはまだないからなあ。

 それにしても。

 と、アタシはメリグリニーアさんを見下ろした。

 いつになく感情的で、動揺している、ような気がする。

 顔を伏せてて表情が見えないから、分かんないけど。

 そう思うのなら、いい加減顔を上げろって言ってあげればいいのにと思うかも知れないけれど、残念ながら三号はそんなことをしない。

 何故なら三号は、底意地が悪いからだ。

 何度も言うようだけど、コレはあくまでもアディーリアの設定であって、アタシはそれに忠実なだけである。

 メリグリニーアさんが必死の形相なんてことになってたら怖じ気づくとか、怖じ気づいてついつい謝るかもとか、なんて考えもなくはないけど。

 何と言っても、ケロタンは非を認めてはいけないのだ。

 特に、今回のような場合には。

 かといって、何て言えばいいのかも分からない。

 だって、セルリアンナさん達が何時目覚めるかは、アタシにだって分からないのだ。

 アタシがあのカエル転送空間に帰って即セルリアンナさん達を目覚めさせたとしても、「現実」でそれが何時になるのかは分からない。

 ということを、正直に言うワケにもいかないし。

 というわけで。

 三号秘技!

「ところで、ねえ、お前。どうしてセルリアンナ達のために、そこまで必死なの?」

 質問返し!

 まあ、単に答えるのを避けてるってダケの話なんだけど。

 好奇心がなかったわけでもない。

 アタシの中のメリグリニーアさんってのは、得体が知れないっていうか、何考えてるのか分からないっていうか。感情を露わにするコトがないっていうより、滅多な事では心を動かさないっていうか。

 ぶっちゃけ言えば、セルリアンナさん達の代わりなら幾らでもいるとか思ってそうていう…。

 なのに今は、その動揺が手に取るようですらある。

 つまり、そこら辺が物凄く気になったワケで。

「お前なら、子飼いの者など幾らでもいるじゃないの」

 嘲る口調でそう言うと、メリグリニーアさんは、これまたらしくもなくガバリと顔を上げて言った。

「確かに、子飼いの者は他にもいます! ですが! 姪はただ一人なのです!」

 許可してないのに顔をあげるなんて、普段のメリグリニーアさんになら絶対しな…、はあ? メイ? 姪って言った?? 誰が!?

 という疑問は発するまでもなく答えを得た。

「確かに、リーゼロッテは血こそ繋がらなくとも、確かに我が姉の忘れ形見にございます!

 リーゼロッテてことは…、セルリアンナさんか!!

 えええええ!!

 つまりジェイディディアの妹??

 似てないよ! 全然似てないよ!!

 あ、でも血が繋がってないって言ったな。

 ええと、ええと、それってどういうコト??

 予想だにしなかった衝撃的な事実に、アタシは考えるコトを放棄した。

「………お前が、身内の情なんてものにほだされるとはねぇ」

 取り敢えず三号的に無難な事を言ってみる。

 ところが続くメリグリニーアさんの言葉に、唖然となってしまった。

「ケロタウロス様はすべからくご存じでしょうが、確かに我が身は清廉潔白とは申せません。ですが! 今ここに私めが存在いたしますのは、全ては我が姉ジークリンデがあればこそ!」

 メリグリニーアさんが今いるのは、ジェイディディアのお陰?

 一体何があったんだろう?

 多分、クリシア滅亡関連の何かきな臭いコト絡みなんだろうけど、余程のコトだったに違いない。

 何時もなら感情を全く気取らせない銀の瞳には、今は感情がありありと見て取れた。

 焦燥と、心配と、畏れ。

 見ている方が押しつぶされそうになる程の、不安。

「……誰が顔を上げていいと言ったかしら?」

 酷いようだけど、アタシはそれらから逃れるために、再びメリグリニーアさんには顔を伏せて貰う。

 ハッとなって慌てて顔を伏せるメリグリニーアさんに、ちょっとばかり罪悪感を覚えながら、それでも銀の視線から逃れられたコトにホッとする。

 それから、どうにかメリグリニーアさんの不安を少しでもぬぐえないかと、三号なりに慰めてみることにする。

「それにしてもおかしなものね。神も精霊も、人を罰したりしない。お前達、常々そう言っているじゃないの」

 全然慰めているように聞こえないのは、それが三号だからだ。

 嘲るような声音はワザとじゃなくて、そういう声質だからである。

 ところがメリグリニーアさんは先程までの激高は何だったのかと思う程、冷静な声で返してきた。

「……聖なる方々におかれましては、人とは即ち聖者。我らなど所詮は紛い物、塵芥に等しき存在なれば…」

 一度感情を吐き出したことで落ち着いたのか、或いは諦観しちゃったのか――いや、まさかアタシの小心さがバレたのか?――何時ものように感情の伺えない口調だった。

 メリグリニーアさんが何時もの調子に戻ったことに、安堵するより肩透かしを食らったような、ちょっと残念なような気がするのは、複雑な乙女心というヤツだろう。

 こうなってしまうと逆に、メリグリニーアさんが動揺している間に、あれやこれや聞き出せばよかったと思う。

 思うには思うんだけど、具体的な「あれやこれや」が咄嗟に思い浮かばない限り、思うだけで実行はできないだろう。

 ま、所詮はアタシなんて世間知らずの小娘である。

 そんなことを思いながら、メリグリニーアさんの後頭部に向けてアタシは言った。

「否定はしないわ。けれどただ罰するために、ミリーがわざわざ我が主の名前を口にするなんて、どうしてそんな風に短絡的に考えられるのかとても不思議だわ。お前の脳みそを取り出して見てみたいくらいよ」

「ケロタウロス様のお考えは、我が浅薄なる思慮には推し量りがたき高みにて…」

 ここまで低姿勢に出られると、逆に怖い。

「そう? だったら、お前との退屈な会話はお終いよ。さっさとリズの元に返しなさい」

 敵前逃亡ってワケでもないけど、さっさと引き上げることにしよう。

「ミリュリアナ様にお取りなしは…」

 別に三号として四号に取りなすことができないワケじゃない。

 とは言え、それとこれとは別である。

 何せアタシにも結果がどうなるのか分からないので、約束はできない、というかしたくない。

 言質を取られたりでもしたら、たまったもんじゃないワケよ。

 なのでアタシは素っ気なくもキッパリと断る事にした。

「いやあよぉ。ミリーに何か言って、アタシの大事な眼球コレクションを壊されでもしたら、たまったものじゃないわぁ」

「お望みとあらば、我が命を捧げますれば」

「バカじゃないの? お前の魂なんか貰ってどうするのよ。お前、ひょっとして自分の魂に何か価値があるとでも思っているの?」

「………差し出がましくも愚かな事を申しました。なにとぞご寛恕の程を」

 メリグリニーアさんが引き下がってくれた事に、心の底からホッとする。

 命とか、捧げられても迷惑だから!

 いやマジで!

「されどお手を煩わせたお詫びに、せめてこの眼球を…」

 うわあ! 止めて!!

 眼の周りに指を突き立てようとしないで!!

「銀の目はもう百もあるから、いらないわ」

 思いの外自分を粗末に扱うメリグリニーアさんに、アタシは内心で恐々としながら、どうにかリズの元に戻る事ができた。

 別れ際にもメリグリニーアさんは、

「私如きの眼でよければ、いつでもお申し付けください」

 と言って去っていった。

 マジだろうか??

 マジで言ってるっぽいな…。

 こんなことなら眼球とか言わなけりゃよかった。

 なんて後悔しつつ、アタシはリズの寝室の前に控えていた侍女さん達に扉を開いてもらって、中に入った。

 リズを起こさないように、そっとベッドに近づく。

 ところが、どうやらリズの眠りは浅かったらしい。。

 アタシの気配を感じたらしいリズは、直ぐに目を開けた。

「ディー!?」

 パッと毛布を跳ね上げて、ギュッと抱きついてくる。

「あらあら甘えん坊さんね」

 子供特有の柔らかい感触に内心でニヤニヤ笑いながら、アタシもリズを抱きしめ返す。

 メリグリニーアさんとのやりとりのお陰で精神的には疲労困憊だったアタシは、リズのバニラに似た甘い匂いを肺いっぱいに吸い込んで堪能する。

 断っておくけど、匂いフェチじゃないよ!

 けれども匂いを嗅ぐことを止めたりはしないっ。

「イシュ・メリグリニーアとのお話は終わったの?」

 聖俗どちらの場合でも、リズはメリグリニーアさんよりも立場が上だ。

 それでもリズは、目上の人だからと敬称をちゃんとつける。

 ホント、よい子に育ってくれたよ、アタシのリズは!

「ええ。もうすっかり。そもそも大した話じゃなかったのよ」

「そうなの? セルリアンナ達が早く目が覚めるようにお願いするって言ってたのに」

「やあねぇ。アタシが目覚めさせないわけじゃないのよ? アタシに言われたって困っちゃう」

「それは私が…。だって。ディーならミリーにお願いすることができるでしょう?」

 なるほど。

 そういうコトか。

 これまでに、リズが躾けに厳しい四号に叱られて三号がそれを取りなす、なんてコトが何度かあった。

 まあ叱るつったって、夜中に菓子を食うなとか、夜中に月に向かって吠えるなとか、ごくごく常識的なコトを言っただけだけど。

 因みにリズがそんな行動をしたのは、大概一号が原因である。

 勿論、二号も五号も、そして一号もまた、取りなしをしようとしたコトはある。

 というか、そういうことになっている。

 けれど考えてみてほしい。女を口説く事しか考えてない二号、ひたすら無口な五号、そして元凶たる一号に、一体どんな取りなしが可能というのか?

 つまり、キャラ的に四号への取りなしが可能なのは、辛うじて三号だけというコトなのだ。

 リズとしてはそこら辺のコトを、三号の頼みなら四号は聞いてくれると考えたんだろう。

「だからって何でもかんでもというわけじゃないわ。第一、今回の事は主のご意向でもあるんだもの。アタシがどうこう口出しできることじゃないのよぉ?」

 ちょっと言い訳がましいかな? なんて考えつつも、一応三号としての言い分を伝える。

 するとリズは、少し難しそうな顔をして、それから意を決したように問うてきた。

「ねえ、ディー?」

「なあに?」

「ディー達の主様のことについて、訊いても良い?」

 それは困る。

 とは、勿論言えないので。

「いいわよぉ」

 アタシは間延びした口調で答えつつ、くれないてんにゃのネタ、じゃなくて設定について恵美とのやりとりを思い出すべく、頭をフル回転させた。



あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いしますm(_ _)m。

今年こそ、完結できますように(<ここで願ってどうする…)。

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