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第九九話 カエルの引きこもりは辛抱強いです その3

お久しぶりです。私事にて大変ご迷惑をおかけしましたが、連載再開させていただくこととなりました。

少しペースは落ちるかも知れませんが、宜しくお願いいたしますm(_ _)m。


「あなたってば、もう! どうして後先考えないの!?」

 元に戻ったんだろうか? そんな不安を抱えながらカエル転送空間に入った途端、視界に飛び込んできたのは巨大ハリセンだった。

 ブンッ!!

 間一髪で避けたものの、紙製品とは思えない程の風圧に頬がピリリとヒリついた。

 その痺れるような感覚に、ヒクリと顔が引きつる。

「何しやがんだっ! ゴラア!!」

 と、怒鳴り散らそうとしたけれど。

 目当ての人物を振り返った途端、全ての言葉は霧散した。

「何故避けるの!?」

 まるでホームラン予告をする強打者の如くハリセンでアタシを指し示しながら、そう叫んだのは。

 すっかりお馴染みになった三頭身デフォルメキャラじゃなく。

 見事に均整の取れた十頭身美女で。

「チ、チビアディーが、チビじゃない!?」

 驚きの余り、四号から離脱する直前まで考えていたアレやコレやなんかが、全部吹きでしまった。

 そんなアタシの様子に気がついたチビじゃないチビアディーは、肩に掛かった髪を振り払うと、ツンと顎を反らしながら清々しい程の高慢さで言い放った。

「ふふん、驚いた? もうチビとは呼ばせなくってよ!」

 その姿は、アタシに契約しろと「頼んだ」時のアディーリアにソックリだった。

 いやまあ、元から姿形はまんまアディーリアなんだから当然といやあ当然なんだけれどもさ。

「てことは、やっぱチビなのはバグだったんだ…」

 そんなアタシの呟きに同意するように、

「オゲェ」

「ゲコ~」

「キュルッキュ」

「ケロロ」

「……ッ」

 すっかり耳に馴染んだ鳴き声に振り返れば、色とりどりの五匹のカエル。

 カエルの方も合体、っていうか融合? から無事元に戻ったらしい。

 あの衝撃的な融合課程を思い浮かべると、身体の何処かが入れ違ってても不思議じゃないとは思うけど、どうやらそういうコトもないらしい。

 赤いカエルの手脚はちゃんと赤いし、青いカエルの背中もちゃんと青い。

 なんだかちょっと期待はずれな気がしないでもないけれど、無事なことはいいことだ。

 ジェイディディアの夢を解くことが、なんでアタシの夢のバグを解消することになってたのかは相変わらず不明のままだけれど、美女が伸びたり縮んだり、カエルが合体したり分裂したりするような空間のシステム的な事について考えるのは止そう。

 自動車の構造が分からなくても自動車の運転には何ら支障がないように、世界の法則を知らなくても生きていけるように、この空間のシステムを知らなくても何の問題もない。

 というか、ぶっちゃけ言うと知りたくない。

 知ってしまったら、アタシのパラダイムは見事なまでにひっくり返るのに違いない。

「さあ! 本来の美しさを取り戻した私を、存分に褒め称えるがいいわっ!」

 そんなアタシの危惧も何のその、本来の姿を取り戻した嬉しさからか、本来よりもアレな感じのチビじゃないチビアディーが高らかに言い放つ。

「オーホッホッホッホッホ! ホーホッホッホッホッホ!」

 十頭身美女の笑い声が、茫漠たる空間に響き渡る。

「………」

 ええと。

 平和だなあ。

 アタシは、茫漠と広がる空間の彼方へと視線を馳せる。

 確か、アタシ、ここで何かしなくちゃいけないことがあったような気がするんだけど。

 何だったっけ?

 物凄く重要なコトだったような…。

「ちょっと! 澄香!!」

 鋭い声に、旅立ちかけた思考が戻ってくる。

 チビじゃなくなったチビアディーが、ビシバシとハリセンで掌を打ちながら声を張り上げる。

「ぼやっとしてないで! さっさと私を賛美なさい!」

 と、その瞬間。

 ポンッ!

「あ?」

「あぁっ!」

「オゲッ!」

「ゲコッ!」

「キュル!」

「ケロッ!」

「!!!」

 軽快な音と共に煙が弾け、十頭身美女は跡形もなく消え去った。

 そして後に残ったのは。

 プクプクのほっぺも愛らしい三頭身デフォルメキャラで。

「もう~~~! だから、さっさと崇めなさいと言ったのに!!」

 器用にも空中で地団駄を踏む姿に、先程の優美さは欠片もなく、ひたすらコミカルなだけだった。

「三分だけ、三分だけしか時間がないのにっ! あなたがグズグズしてるからっっっ!」

 お前は特撮宇宙超人か!

 というツッコミは、よよよと嘆く姿が何だかおもし、いや、可愛らしいから、心の中に留めておくことにする。

「ええと、ごめん?」

「どうして疑問系なのよ! 誠意がないわっ!」

「いや、心の底から悪いと思ってるワケじゃないから、誠意って言われても」

 どうせバレることだからと正直な気持ちを言うと、チビに戻ったチビアディーが眦を釣り上げながら言う。

「どうして悪いと思わないの!?」

「だって、今のが可愛いし」

 これまた正直に言うと、今度は顔を真っ赤にさせて絶句してしまった。

 ありゃ、本格的に怒らせたか? と思ったら、

「た、確かに、愛らしさで言えばこちらの方が勝るかもしれないわっ!」

 とそっぽを向きながら言ったので、どうやら照れていただけらしい。

 そうだった。

 ツンデレ属性なんだった。

 照れ隠しなのか、ブンブンと巨大ハリセンを振り回すチビアディーは、十頭身のままならばどこからどう見ても危険人物にしか見えないだろうけれど、三頭身のお陰でギャグにしか見えない。

 うむ。

 精神衛生上、三頭身なことはいいことだ。

「ていうか、十頭身の姿はなんだったワケ? まさか、またバグ?」

「いいえ、ちゃんとバグはなくなったわ」

「じゃあなんで?」

 そもそも、十頭身と三頭身、どっちがバグなのか??

 そんなアタシの疑問は、チビアディーがあさりと解消した。

「そんなの、簡単なことじゃない。私の本来の姿は、三分間だけ天下無双の傾城美女ハリセン戦士アディーリアに変身できる、超絶可憐な三頭身美少女妖精チビアディーなのよ」

「……………」

 自分で傾城とか美少女とか言うのはどうだろう?

 いやまあ、実際紛れもなくそうなんだけれどもさ。

 天下無双とか超絶までつける必要はあるんだろうか?

 しかもちゃっかり可憐とか言ってるし。

 ていうか、三頭身の方が本体なんだ。

 いやそれよりも、ハリセン戦士って何だよ。

 しかも、このヒト、とうとう自分で「チビ」とか言っちゃってるし。

 そもそもその変身能力必要か??

 一つの疑問が解消したと思ったら、新たな疑問が山盛りなコトに…。

 ツッコミ処が満載過ぎて、一体どこからどうツッコめばいいのかすら分からない。

 そんなアタシが、どうにか口にできたことはといえば、

「ええと…。妖精なんだ?」

「ええそうよ。だって、三頭身の人間なんていないでしょう?」

 当然とばかりに踏ん反り返るチビアディーに、

「ああ、うん、そうだね」

 アタシはそう言うより他なかった。

 それもそうか、赤ん坊でも四頭身はあるって言うし。

 なんて考えながら、自分を無理矢理納得させる。

 うん、納得した。

 頑張って納得はした、けどさ。

「アレだけ苦労してバグ修正した結果が」

 チビアディーの変身能力って…。

 しかも三分間だけ。

 何故とは敢えて訊くまい。

 どうせ返ってくる答えは、物凄くバカバカしいか、物凄くヤバいか、物凄くどうでもいいか、そのどれかに違いないだろうから。

 そんな思いを溜め息と共に吐き出した。

「なによっ。私が変身できるようになったことが不満なの!?」

「いや、不満じゃない」

 変身できること自体は。

 というか、できてもできなくてもどっちでもいい。

 ただ、たださ、何て言うの、もっと他にさあっ、何かあってもいいんじゃないの??

 アタシの声にならない声は、ちゃんとチビアディーに届いたらしい。

 チビアディーは、フッと気障ったらしく笑うと、

「そんな顔するもんじゃないわ。私の変身能力のおまけとして、あなたにもちゃんと特典があるわよ」

「言って置くけど、アタシは変身能力とかいらないから」

「あなたが変身してどうするのよ」

 アンタが変身するのもどうかと思うよ。

 とは、勿論言わなかった。

 言ったら最後、山のような文句が返ってくるだけだと分かっているからだ。

 するとチビアディーは、何故かクルリと回ってポージング。

 まるでアニメの美少女戦士がするようなキメポーズで言った。

「聞いて驚きなさい!」

 一体何処で覚えたそのポーズ。

 と思わず言いそうになったけど、キッと睨まれたので言うのは止めた。

「ここで、どのケロタウロスに入れるか、選べるようになったのよ!」

「ええ! マジで!?」

 いや、マジで驚いた。

「なんで? どうやって?? 何がどうなって!?」

 たたみ掛けるように問い詰めるアタシに、チビアディーはまるで優美な扇のようにハリセンをヒラヒラとさせながら、フフンと鼻で笑う。

「ここのシステムが正常に動くようになったからよ」

 その自慢たらしいような、嫌みったらしいような、どこからどう見ても上から目線な笑顔が、とてもよく似合ってるよチビアディー。

 なんてコトはさておき。

「そりゃまあ、そうなんだろうけど」

 ココのシステムって何??

 ていうか、今更だけど、ココって何??

 いやまあ、アタシの夢なんだろうけど。

 以前はこんな訳の分からない空間に来ることはなかった。

 それが最近になって突然、現実と夢の世界との間に割り込んできたのはなんで??

 そんなアタシの心の声に答えるように、チビアディーが言った。

「ここはね、アディーリアの魂と記憶で作られた仮想空間みたいなものよ」

「アディーリアの魂と、記憶?」

「そうね。魂がハードで、記憶がOSと言えば分かりやすいかしら。そしてユーザーは唯一人。契約者であるあなたよ」

 パソコン関連に例えられても、そんなに詳しくないんだけど…。

 とはいえ幾らなんても、OSくらいは分かる。

 ウィンドウズだとかマックだとかいうアレだ。

 てことは、つまり。

「アタシがアディーリアの記憶を封印してたから、OSが正常に動いてなかったってコト?」

「そういうことね」

 だから、アタシはココに来られなかったってコトか?

「じゃあ、完全に封印がとけた後バグが発生したのは? バグの元であるジェイディディアの夢は、何時どこから割り込んできたワケ?」

 何かヤバいCDか?DVDか? USBメモリか?

 まさか、インターネットじゃないだろうな。

 そんなありえないコトを考えるアタシに、チビアディーが呆れた様な視線を寄越す。

「あなたね…。まあいいわ。これは推測でしかないんだけれど、恐らく、アディーリアの記憶と一緒にジェイディディアの夢も封印されてたのよ」

「てことは、まさかジェイディディアの夢は最初からあったってコト??」

「そういうことになるわね。ジェイディディアのアディーリアへの思いが、アディーリアの魂へと引き寄せたのだと思うの」

 つまり。

 ココは、アタシがアディーリアの記憶を封印しなければ、最初から使えたってコトだろうか?

 いや、そうじゃないか。

 そうなると、最初から不具合にぶちあたってたかもしれない。

 てことは、十二歳でアレを体験することになる。

 う~ん。

 ムリ。

 ていうか、ジェイディディアの夢を解こうにも、当時はまだド変態が死んでないから、不可能ってコトになる。

 何か良く分かんないけど、結果オーライってコトで。うん。

 そう考える事にして、改めてぐるりと周囲を見回した。

 「正常」になったらしい空間は、相も変わらず何もなく、天と地の境すら定かじゃない。

 ド変態を連れてきた赤い月も、もう跡形もない。

 アディーリアの記憶がOSなら、もっと華やかでもいいんじゃないだろうか?

 絢爛豪華なお城とか、花咲き乱れる庭園とか。

 なんてコトを考えて、ふとあることを思い出す。

「ん?」

「どうかした?」

「いあ、アタシさ」

「何?」

「もう一人と契約してるよね?」

 アタシの中には、もう一人分の魂がある。

 ソレはどうなってんの?

 と訊こうとしたけど、チビアディーの焦った声に遮られる。

「ああ! ダメよ! 澄香! その事を考えちゃあ!!」

 ドド―――――――――――――ン!!!

 そのチビアディーの言葉を更に遮るように、巨大な何かが目の前に立ちふさがった。

「ああっ!」

「な、何事!?」

 そこに現れたのは、球場なんかにありそうな巨大なモニターで。

「だから言ったのに!」

「ええ!? 何が!?」

「余、ふっか~つ! ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 ブチッ。

 モニターと同時にあたしの手に現れたリモコンで、反射的に電源を切ったのは言うまでもない。



すっかり忘れられているセルリアンナさん達なのでした(-_-;)。


誤字報告ありがとうございましたm(_ _)m。修正いたしました。

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