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しいな ここみ様主催企画参加作品

旅路の果て


バチッ!


胸に強い衝撃を受け男は意識を取り戻した。


ズキズキと痛む頭に手を添えながら目を開ける。


開いた目に飛び込んで来たのは、電子時計のAM4∶30の数字と血や肉片が飛び散るスプラッターな場面。


なんだ? 此れはと思い目を閉じ頭を振ってからもう一度目を開く。


だが目の前に広がるスプラッターな場面は変わらずにそこにあった。


コールドスリープ装置の上部を覆う透明シールドを突き破ったらしい、凍りついた身体が天井や壁に激突し砕け散って肉片になった者たち。


突き破りこそしなかったが身体が半分以上透明シールドから突き出て、透明シールドの内側を血で赤く染めている者たち。


男が収まっている冷凍睡眠装置の透明シールドも、粉々に砕け散っている。


砕け散ったシールドの向こう側で、火花を散らしながら電線が1本踊っていた。


多分だけどこの電線が男の胸に接触し、その衝撃で蘇生し意識を取り戻したのであろう。


冷凍睡眠装置内に身体を固定しているベルトを身体から外し、踊る電線に接触しないように気を付けながら装置内から出る。


掠れる声を振り絞り、声を出す。


「誰か、誰かいないか? 生きている者はいないのか?」


その問いかけに返事は返ってこなかった。


冷凍睡眠室の真ん中で全周囲を見渡す。


誰も彼もピクリとも動かなかった。


男は痛む頭を押さえて自分自身の事と任務を思いだそうとする。


自分自身の事は思い出せなかった、だけど任務に関する事は頭に浮かぶ。


男と仲間たちを乗せた宇宙船が地球を飛び立つ80年程前、人類は地球から140光年先に人類が移住可能と思われる惑星を発見する。


その惑星を引き続き観測すると共に、人間をこの惑星に送り込む為の光速宇宙船が建造された。


人類の英知をかけて建造された光速宇宙船に、全世界から選ばれた15人の乗組員が乗り込む。


冷凍睡眠装置内で140年眠り目的地に到着後2年間惑星を観測、そのあとまた140年冷凍睡眠装置内で眠りについて地球に帰還するという任務の為に。


宇宙船内での時間の経過は惑星の観測行う2年を含めて約282年だが、地球の時間経過は2000年近く。


乗組員を送り出した関係者も家族も、誰1人生きていない未来に帰還する事を覚悟しての旅立ちだった。


140年眠り惑星に到着、惑星には危険な生物は存在していたが知的生命は存在せず、人類が移住するのに適した環境。


乗組員は歓声を上げて惑星の地表に降り立ち、2年間観測を行う。


それから報告のデータを土産に地球に向けて帰還の旅に出たのだ。


海王星の太陽周回軌道辺りで光速飛行から通常飛行に移行して地球に帰還する筈だったのに、なにかトラブルが発生したのだろうか?


でも、宇宙船のコンピューターだけでは対処出来ないトラブルに見舞われた時は、乗組員が起こされる事になっていた筈なのに何故だ?


取り敢えず船の損傷を調べに操縦室に向かう事にする。


その前に服を着なくては、先程まで収まっていた冷凍睡眠装置の上部に名前が書かれていた。


『十五』と。


周りを見渡し十五と書かれているロッカーの扉を開ける。


扉の内側に白衣を着た中年の男女が彼を挟んで写っている写真が貼られていた。


彼を挟んで写真に写ってる男女は両親だろうか? その写真を見ても何も思い出せない。


ロッカーの中にあった作業着に腕を通す。


作業着の胸の所にネームが貼られていて、そこにはZYUUGO ANDOUと書かれている。


「あんどう じゅうご?」


声を出して名前を呼んでも記憶は戻って来なかった。


作業着を着てその下にあったをブーツを履く、それから操縦室に向かう。


指令室を兼ねた操縦室に入る。


普通なら操縦室に入室するとコンピュータが声を掛けて来る筈なのに、何の問いかけも無い。


首を傾げながら、サブコンピュータの観測用コンピューターのスイッチを入れる。


こちらは非常用電源が生きていたのだろう返事を返してきた。


「ハイ、ゴヨウデショウカ?」


「何があった?」


「タイヨウケイニキカンシタアト、ゲンソクニシッパイシ、チキュウノヒョウメンニゲキトツシマシタ」


「突っ込んだのは何時だ?」


「チキュウジカンデ、160ジカンホドマエデス」


「救助は来ていないのか?」


「キテイマセン」


何故、救助が来ていないのだ?


宇宙船が飛び立った後、救助隊を派遣する事ができないような事が起きたのだろうか?


サブコンピューターに命じて、モニターに外の映像を映す事と大気を分析させる。


モニターには東の空が徐々に明るくなって行くのが映し出され、大気の分析結果は放射能も未知の病原菌も何も検出されず、旅立った2000年前と殆んど同じだった。


考え込んでいる男にサブコンピューターが話しかけてくる。


「チヒョウニゲキトツスルマエノカンソクデータノナカニ、トシトオモワレルモノガウツッテイマス」


「モニターに映してくれ」


昼の側に突入しつつある船の船外カメラが、夜の側で多数の光が纏まって瞬いているのを写していた。


「この都市らしい所までの距離はどれくらいある?」


「ココカラホクトウノホウガクニ、ヤク10000キロデス」


「墜落した場所は分かるか?」


「ミナミハンキュウノドコカデス」


「そうか……、都市まで行ってみるしかないか?」


「イカレルノデスカ?」


「ああ……」


装備を整えサブコンピューターに後の事を託し、10000キロ先の都市らしい場所に向けて朝日が照らす大地を、宇宙船の建造と共に作られ乗組員が全滅してもデータを持ち帰るようにプログラムされた、有機アンドロイド15号こと安藤 十五は歩き始めるのだった。






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