第92話:休憩
◇
その後も魔物を倒しながら、雨の中を二時間ほど進み続けた。
俺、シーナ、アリアにはまだ大した疲労感はないが、片桐たち四人はさすがに消耗してきているようだった。
「旭川君、そろそろ休憩を挟んでもいいかな?」
四人を代表して、片桐が尋ねてきた。
「ああ、もちろんだ」
俺としても、ソラたちの餌やりをそろそろやっておきたい。
食料を買っておいたまでは良かったが、宿はチェックアウトを済ませてしまっていたので、人目につく街の中ではできなかったのだ。
「でも、この辺りはどこもびしょ濡れだぞ?」
近くに雨風が凌げそうな場所は見当たらない。
雨に打たれながらその辺に座って休憩していたら、身体が冷えて風邪を引いてしまいそうだ。
「実は、アーネスに来るときに見つけた洞窟があるんだ」
「洞窟?」
「ああ、近くにある。ついてきてほしい」
「分かった」
俺たちは、言われるがままについていったのだった。
案内された場所は本当に近く、五分ほどで到着した。
「なるほど……」
崖下の目立たない場所に確かに人が余裕で入れる大きさの穴があった。
明かりがないため、穴の中は真っ暗。とはいえ、穴の外から入ってくる太陽光のおかげで入り口付近なら視界は十分に確保できている。
「外が曇ってるせいで今日は暗いな……。本当は焚き火とかできると良いんだけど、洞窟の中じゃ危ないしね」
「おっ、それ知ってるぞ? 酸素がなくなるんだっけか?」
片桐の言葉に遠藤が反応した。
まあ、遠藤の理解で合っているのだが……みんな知っていることなので、言葉に出すほどのことか? と思ってしまう。
しかし——
「サンソって何ですか? アリアさんはわかりますか?」
「全然わかんない」
どうやら、地球の常識は、この世界では常識ではなかったらしい。
「大気中には、酸素っていう物質が漂っているんだ。俺たちはこれがないと死ぬんだが……火が燃える時に酸素は他のものと結合してなくなっちゃうんだ」
なかなか説明が難しいな。
概念を説明するのは大変だ。教師もなかなか大変だったんだなと今更ながらに感じる。
「じゃ、じゃあ……火魔法は危ないってことなのですか……?」
「いや、ちゃんと換気されていれば問題はない。けど、ここは入り口がそこまで広くないからあまり使わない方がいいって感じかな」
「な、なるほどです……皆さん物知りなんですね……!」
「す、すごい……」
なぜか、めちゃくちゃ驚かれてしまった。
俺たちにとっては普通のことでも、異世界ではここまで凄いと思われてしまうとは……。
「電気とかなら大丈夫だけど……あ、そういえば火を使わない光魔法とかがあれば大丈夫なはず。……シーナ、魔法書を見せてもらってもいいか?」