第90話:地面
★5の金弓師である片桐は、十メートルほど離れた位置にいるツインウルフを目掛けて、矢を放った。『弓師』と名はついているが、物理的な矢は必要のない職業らしい。
自己魔力を具現化して矢として使うため、弓職の弱点だと想定される弾数の制限はないようだ。
ドオオオオンンッッ‼︎
片桐が同時に放った二本の矢は放物線を描き、ツインウルフの頭をそれぞれ正確に貫通した。
同時に頭を失ったツインウルフは動けなくなり、その場に崩れ落ちる。
「よし……!」
狙い通りだったらしく、片桐は小さく拳を握って喜びを現していた。
この正確性に加えて、高い攻撃力……申し分ないな。
これなら、もっと強い魔物でも十分に通用するだろう。
そして、最後に★5である金魔術師の高原。
「天より与えられし火の力、我が敵を滅ぼす赤き矢となりて轟け! 《火炎矢》!」
早口で詠唱すると、たくましい巨大な矢が発生。ツインウルフに向かって猛烈な勢いで飛んで行ったのだった。
ドッガアアアアアアアアアアアンンッッ‼︎
着弾すると同時に大爆発を起こし、大ダメージを受けたツインウルフはその場に崩れ落ちた。
こちらも十分だな。
詠唱を省略できれば……と思ったが、今のところシーナと俺以外は省略できない可能性が高い。
一応は試してもらうつもりだが、ここに関しては期待はしないでおこう。
詠唱魔法であっても威力・速度ともに高水準だし、高原に関しても問題なさそうだ。
要は、魔の森で一番強かった魔物《白銀の狼》と戦うことになっても倒しきれる実力があれば問題ないのだ。
しばらく離れて活動していた間に俺が強くなったのと同じように、片桐たち四人も強くなっていたようだ。
「じゃあ、私も——」
と、シーナが攻撃魔法を繰り出そうとしたその時だった。
「あっ……!」
雨のせいで地面がぬかるんでいたらしく、足を滑らせてしまうシーナ。
「おっと」
俺は、反射的に後ろからシーナの身体を支えた。
ギリギリのところで間に合ったらしく、幸いも泥だらけになるのは防げたようだ。
「あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
「あっ、えっと……ひゃんっ!」
ここまではごくごく普通のやりとりだったのだが、なぜか急にシーナの顔がカァッと赤くなる。
「どうした? どこか痛めたか?」
「そ、そういうわけではなく……! そ、その……あ、当たってます」
「ん? あっ」
必死で気がつかなかったのだが、手で身体を支える都合で胸に当たってしまっていたようだ。
シーナは上半身の胸面積が大きいため、意図せずに触れてしまっていたらしい。
それに気がついた俺はパッと手を離した。
「わ、悪い……」