第86話:雨
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ようやく片桐たちと合流した俺たちの幸先は悪かった。
「……ついに雨降ってきちゃいましたね」
シーナが憂鬱そうに呟いた。
バケツをひっくり返したような強い雨。辺りには霧も発生していた。
そういえば、何気にこの世界で雨を経験するのは初めてだ。
出発する前から暗雲が空を立ち込めていたので、午後の天気が悪くなることは予想していた。
なるべく早くアーネスを離れたかったため、出発を延期することはなくそのまま出てきたのだが、これだけ強い雨が降るならもう少し時間をズラしても良かったかもしれない。
「みんな、これを使ってくれ」
俺は、異空間から人数分の傘を取り出して手渡した。街を出る前に購入して《収納魔法》で保管しておいたものである。
なお、この世界でも傘は俺たち現代日本人が想像する見た目の傘である。
もう少し別のアイデアがあっても良さそうだが……まあ、この形が機能的に優れているだけなのかもしれない。
「旭川君、ありがとう!」
「こりゃ助かるぜ」
こうして全員が傘をさし終えたところで、俺たちは再出発したのだった。
「雨じゃなかったらお空で移動できたのに……」
アリアが残念そうに呟いた。
魔物たちが進化してからは、ソラに乗せて移動することが多かったので、アリアの気持ちは俺もよくわかる。アリアは空の景色好きだったしな。
ただ、少し誤解があるようなので、ここは説明しておく必要がありそうだ。
「アリア、実はソラを使わないのは雨とは関係ないんだ」
「え? どういうこと?」
「エンシェント・ドラゴンが空を飛んでいたら目立つだろ?」
「それはそうだけど……あっ」
「そういうことだ」
今後、ラッシュの死を知った魔族たちは、俺たち異世界の勇者を血眼になって探し始める。
強力な魔物を移動手段にしているポッと出の冒険者がいれば、嫌でも注目が集まってしまう。
しばらくは見つからないよう身を隠したい俺たちにとって、余計なことをして目立つのは都合が悪いのだ。
アーネスでは街中で使ってしまったこともあったが、今後は気をつけて行きたい。