第84話:忠告
俺だって、好きで歳上のおっさんに罰を与えているわけではない。
ただ、あまりにも『小さな痛み』では、これまでペットたちが受けてきた『大きな痛み』を本当の意味で実感することはできない。
俺たちが一歩も譲らない態度を続けていると、店主は観念したらしい。
「ク、クソ! わかったよ! 食えばいいんだろ⁉︎ 食えば!」
勢いに任せて次々に先程の餌を口に放り込んでいく。
ガリガリ……ジャリジャリと咀嚼音が聞こえ、店主はごくんと飲み込んだ。
顔色がかなり悪くなっている。よほど不味かったのだろう。
「口を開けてみろ」
どこかに隠していないか念の為確認してみる。
どうやら、不正はしていないようだ。
「これで満足だな⁉︎」
「ああ。とりあえずは許してやる。だけど、一つ忠告しておく」
「な、なんだ⁉︎」
まだ何かあるのかと、震える店主。
いや、別に大したことではないのだが。
「もし、また同じことをしたら、その時はさっきの餌しか食べられなくなる呪いをお前に掛けることになる。俺がまた見つけた時には……その時は覚悟しておけよ?」
「はあ⁉︎」
この手の輩は、嵐が去ればさっきのことなど忘れて同じことを繰り返す。
そうさせないためには、何らかの約束で縛り付けるしかない。
しかし、約束は守られなければ意味がない。
……ということで、先程の忠告をしたというわけだ。
「そ、そんな呪い聞いたことねえぞ⁉︎ で、できるわけないだろ!」
「ん? まさか俺が嘘を言っているとでも思ったのか?」
やれやれ。
俺は、無詠唱で手の平に火を発生させる。
「む、無詠唱だと⁉︎ そ、そんなの見たことねえぞ⁉︎」
「ということだ。お前ができないと思っていても、事実俺はできる。まあ、信じるか信じないかはお前次第だがな」
そう言い残して、俺は店を出たのだった。
これだけ脅しておけば、また悪徳な商売に手を出すことはないだろう。
「さすがですカズヤさん」
「まあ……ありがとな」
「それにしても、私も初めて聞きましたよ! 特定の食べ物しか食べられなくなる呪いなんて」
「ん? ああ……あれは嘘だぞ?」