第79話:分配
◇
職員用スペースを出てきた俺たちは、二階のスペースで会議を始めた。
「分配に関してなんだが、どうする? この世界に銀行とかってないよな?」
さすがにこれだけの大金だと、保管に苦労する。
俺は《収納魔法》を使えるから問題ないが、《収納魔法》を使うと最大魔力量を圧迫してしまうため、俺ほど魔力を多く持たないシーナとアリアでは、持っているだけで負担になってしまう。
「ギンコー……ですか?」
シーナはキョトンとした表情でカタコトの日本語を口にする。
バンクと言った方が良かったか? いや、同じことか。
予想はしていたが……やはり、なさそうだな。
「いや、こっちの話だ。報酬自体は均等に一千万ジュエルずつ分けようと思うんだが、保管場所がないのに分配だけしても無責任だと思ってな」
「い、一千万⁉︎ い、いや、ほとんどカズヤさんの力ですよ⁉︎」
「そ、そうだよ。アリア、何もしてない……っていうか、嵌めようとした」
「何を言ってるんだ? アリアが呼んで来なきゃ、エンシェント・ドラゴンと遭遇することはなかったし、結構ギリギリな戦いだったからシーナがいなきゃ死んでたかも。俺の力だけで倒したなんて、とてもじゃないけど言えないよ」
まあ、それはともかく。
「それで、銀行がないとすると、この世界じゃ、金持ちの冒険者はどうしてるんだ? 全員が《収納魔法》を使えるってわけでもないんだろ?」
「そうですね。お金持ちの冒険者の場合は、剣や盾など、装備にお金を使ってしまう人が多いと思います。使っても価値が下がらず換金できますし」
「なるほど、物に変えるのか」
現代日本でも、大抵の金持ちは証券や債券、不動産、ゴールド、仮想通貨など現金以外の形に資産を変えて保管している。
それと似たような発想なのだろう。
「なるほど。じゃあ、このお金は一旦俺が預かっておいて、買いたい装備が見つかったらその時に渡すってことでいいか?」
「はい! それがありがたいです」
「うん。カズヤになら盗まれてもいい」
よし、これで報酬分配の問題はクリアだな。
話がまとまった俺たちは、冒険者ギルドを後にしたのだった。
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