第75話:次の一手
夜の魔大陸。
ラッシュの死亡は、直ちに《魔調石》を管理するグレイ司祭の知るところとなった。
——パリンッ!
突如として粉々に割れてしまった《魔調石》を、呆然とした表情で見つめるグレイ。
八年前に魔族がラッシュの肉体に書き込んだ呪いにより、《魔調石》とラッシュの肉体は一体になっている。
《魔調石》が壊れたということは、すなわちラッシュが死亡したことを意味するのだ。
「し、信じられん……。召喚されたばかりの勇者に殺されたというのか……?」
ラッシュの実力は、グレイ司祭も認めるところだった。
人間と魔族の職業割合は大きく変わらない。
ラッシュは『星あり』ではあったが、魔族の中でも☆5職業は貴重であり、その能力は魔族たちが手塩にかけて磨き上げてきた。
「アリアがどうなったか、気になるところじゃな……」
魔大陸とエアルディア王国とはかなりの距離が離れているため、この時点ではまだラッシュが送ったメッセージは届いていない。
グレイは、ひとまず一緒に行動させているアリアからの連絡を待つことにしたのだった。
◇
二日が経ち、ラッシュが飛ばした伝書鳩がグレイ司祭のもとに到着した。
グレイは、伝書鳩から受け取った手紙を読んで愕然とした。
「……なんと」
ラッシュからのメッセージには、先にアリアが亡くなったことが記されていた。
アリアとは手分けして調査しており、今からアリアを殺した勇者を倒しにいく。勇者の容貌は判明次第報告するとだけ書かれている。
これはラッシュがでっち上げた嘘が多分に含まれていたが、《魔調石》の破壊により死亡を知っているグレイはすっかり信用したのだった。
状況的には、アリアの死をきっかけに勇者と戦い、その戦いの中で亡くなってしまったというストーリーは辻褄が合うからだ。
ラッシュは一度魔族を裏切り逃げ出そうとした経験があるとはいえ、命を人質に取ってからは反抗の態度を示したことは一度もない。
まさか、このタイミングで魔族を裏切り、与えられたミッションを放棄して勇者と手を組むなどといったことは想像できなかった。
「こうなったら、アイツを使うしかないようじゃの……」
グレイは小さく呟き、ペンを取った。
サラサラと羊皮紙にメッセージを書き、便箋に入れる。そして、白い伝書鳩に持たせた。
宛名は、レジン・ユーヴァリス。
人間大陸にいる人間と魔族のハーフであり、ちょうど現在はエアルディア王国に滞在している。
グレイの手紙を預かった伝書鳩は窓からパタパタと飛び立ち、人間大陸を目指したのだった。
「レジンよ……しっかりやるのだぞ」
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