SS:非常識
片桐たち四人と別れた後、宿に戻る前に食事を取ることにした。
もう時刻は午後九時になっていた。
向かうは、冒険者向けに用意されている格安の食堂。
この時間でも空いていて、すぐに食べられるということで非常に使いやすい。店内には、依頼を終えたであろう冒険者たちが集まっている。
厳つい見た目の男たちが酒を呷っている姿は、さながらゲームやアニメ、漫画などで見たファンタジー世界の酒場という感じだった。
「お待たせしました」
料理を注文してから十五分ほどで座席まで届けてくれた。
俺たちが注文したのは、それぞれ別の種類の料理だ。
俺がステーキ、シーナが唐揚げ定食、アリアがスパゲティナポリタン。
葬儀の後ということで微妙な雰囲気の中ではあるが、食べなければ死んでしまう。
俺たちは無言でステーキをパクパクと食べていった。
「カズヤさんのステーキ美味しそうですね」
唐揚げを食べていたシーナがジッと見つめてきた。
「ん、食べるか?」
俺は切り分けたステーキの一つをフォークで刺し——
「んん⁉︎」
シーナに食べさせたのだった。
以前に、異世界ではあ〜んは普通のことだと聞いていたので、今回は動じることなく食べさせることができた。
「あっ……す、すごく美味しいです……!」
なぜか、顔を赤くしながら美味しそうに噛み締めるシーナ。
ふむ、そんなに美味しかったのか。
「カズヤとシーナってそういう関係だったの?」
俺たち二人のやりとりを眺めながら、アリアが意外そうに呟いた。
「ん? 何のことだ?」
「恋人だってこと、知らなかった」
「へ?」
俺は、思わず気の抜けた反応をしてしまう。
どこを見てそのように思ったのかわからないが、付き合ってくださいと言ったことも、付き合って欲しいと言われたこともない。
少なくとも、俺としてはシーナと恋仲にあるという認識はなかった。
「付き合ってるとかじゃないんだが……なんか変だったか?」
すると、アリアは怪訝な顔を俺に向けた。
「恋人じゃないのに、間接キス……するの?」
「ん、ああ。でも、この世界では普通のことだと聞いたぞ」
「え?」
驚いた様子のアリア。
あれ? もしかして普通のことではなかったのか?
でも、シーナはそう言ってたよな?
「えっと……シーナ?」
「ど、ど、ど、ど、どうかしましたか⁉︎」
な、なんかめちゃくちゃキョドってる⁉︎
いったいどうしたのだろうか……?
「わ、私の故郷——リード村ではふ、普通のことだったのですが……一般的には、もしかすると普通ではないのかも……? しれませんね」
「なっ……そうだったのか⁉︎」
まさか、リード村だけが特殊だったとは……。
ということは、もしかして俺たち変な目で見られていたりとか——
あっ、見られてる⁉︎
なんか、冒険者たちから微笑ましそうな表情で見られてるよ⁉︎
「一部の村の風習までは分からないけど、普通はそう」
「そ、そうなのか……」
なんだか、急に恥ずかしくなってきた……。
とはいえ、リード村の風習を否定するのもまた違うよな。
ここが難しい問題だ。
「シーナ、今度からは人目があるところではちょっと控えようか。俺は特に気にしないから、誰もいない時だけするってことで」
「ふぇ⁉︎」
驚いた様子で急に変な声を出すシーナ。
「ど、どうした⁉︎」
「な、なんでもありません! わ、わかりました……そ、そうしましょう!」
シーナも普通のことではなかったと知って、混乱しているのかもしれない。
やれやれ、もっと早く知っておきたかった……。
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