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第72話:ハグ

 これだけ褒められたり感謝されることは初めてだし、ラッシュの件で俺としても内心ぐちゃぐちゃな感情なので、どう言葉を返していいかわからない。


「とりあえず、お前らが無事で良かったよ」


 今の俺には、この言葉を捻り出すのが精一杯だった。


「稲本には色々と思うことはあるけど、森では俺を庇って精一杯の抵抗をしてくれたし、あれは正直嬉しかった。追い出された件はもう気にしてないから、頭を上げてくれ。お礼だけは受け取っておく」


「カ、カズヤ……お前って奴は……!」


「うおっ! おい⁉︎」


 感極まった様子の遠藤が、俺を抱きしめてきた。


 クラスではずっとボッチだったからよくわからないのだが、陽キャの中ではこれは普通のことなのか……?


「す、すまねえ。つい……」


「お、おう」


 まあ、同性愛的なアレではないことは分かっているので、気にするほどではない。


 急なことで驚いただけである。


 そもそも、遠藤にはそこに彼女がいるわけだし。


「カズヤ君、この後のことなんだけど」


 今度は、真面目な表情の片桐が話しかけてきた。


「稲本先生の供養をしようと思う。僕たちとしても、こんなクズに……とは思う。だけど、ここに放置することも出来ないなって。カズヤ君にも来てもらえないだろうか」


「ああ、そういうことか」


 稲本は、異世界に来てからというもの、悪行の連続だった。


 俺に結果的に当たりだったとはいえ外れ職業であると信じて、俺に『ガチャテイマー』を押しつけ、自分が逃げるために他のクラスメイトを犠牲にし、足手纏いになるからと俺をパーティから追い出し、挙句にはシーナにも酷い言葉を掛けた。


 学校では『良い先生』ぶっていたが、これがあいつの本性だったのだろう。


 思い出したら腹が立ってきた。


 だけど——


「分かった。供養はしよう。俺たちがあいつのレベルまで堕ちる必要もないしな」


 俺は、稲本の死体の前に移動する。


「担いでアーネスまでずっとこいつといるのもアレだからな」


 俺は、《収納魔法》で稲本の死体を回収したのだった。


 ふと空を見ると、いつの間にか夕焼けが差す時間帯になっていたことに気がついた。


「アリア、戻ろう」


 俺が声を掛けると、アリアは無言で頷く。


 俺は、ラッシュの死体も《収納魔法》で回収。そして、俺たちはトボトボと帰路に着いたのだった。


「ご主人様。飛びましょうか?」


「いや、今日はいいんだ。ありがとな」


 ソラはアーネスまで飛んでくれると提案してくれたが、あいにく片桐たち四人も含めればさすがに定員オーバー。


 これから暗くなるため四人を安全に送り届けるには俺たちが付いていた方が良いだろう。


 俺の頼みならピストン輸送よろしくソラは往復してくれるかもしれないが、帰りは下り坂になるためそれほど負担にはならないし、この程度は問題ない。


 それに、アリアにとっても街のガヤガヤした雰囲気よりは、アーネスに戻るまでの僅かな時間だとしても静かに過ごせた方がいいだろう——という部分での判断だった。

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