第71話:命の恩人
主人を失ったことで、死霊ウルフは消滅し虚空へと消えた。
同時に、ラッシュの手紙を持った白い鳩が魔大陸へ向けて飛び立っていった。
「ラッシュ……」
アリアは、ピクリとも動かなくなったラッシュの顔に手を当てて名前を呟く。
ふと顔を見ると、アリアの瞳からは涙が溢れていた。
目の前で大切な人を失ってしまった喪失感、あるいは精神的ダメージは想像を絶するだろう。何と声を掛けて良いかわからない。
「すまない。ラッシュも一緒にって話だったのに……約束を守れなかった」
「カズヤが謝ることじゃない」
「……でも」
「ラッシュが自分で決めたことだから。……アリアは悲しいけど、ラッシュがこの道しかないって思ったことなら納得したい」
「……そうか」
俺が思っていたよりも、アリアは強かったようだ。
当然アリアの言葉には強がりも含まれているだろうが、それでも普通は直後にこの言葉はなかなか出せるものではないと思う。
時間はかかるかもしれないが、きっと立ち直れるだろう。
アリアとラッシュの側からそっと離れると、辺りに散って隠れていた片桐たちが俺の前に集まっていた。
「カズヤ君! 何と言っていいのかわからないけど……危ないところを助けてくれてありがとう。僕たちにとっては、命の恩人だ」
片桐が代表して俺に頭を下げると、遠藤、高原、山川の三人も後に続いた。
「酷いことしちまったのに……。カズヤ、お前は本当にすごいな。ありがとよ……」
「森でのこと……ずっと謝りたいと思ってた。本当にごめん。そして、こんな私たちを助けてくれて……本当に感謝って言葉じゃ足りないわ」
「職業に恵まれなくて……というか、不本意な職業でも誰よりも強くなった努力……すごくかっこいいと思う。クラスでは目立たない存在だったけど……カズヤ君は本当に凄いよ」
そうか。そういえば俺はラッシュを引き入れるために必死になっていたが、その過程で四人を助けていたんだな。
ふと向こうを見ると、ラッシュの死霊ウルフにより殺された稲本の死体が転がっている。
一歩間違えれば、片桐たちもこうなってたんだよな……。
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