第68話:兄妹
なんとなく理解できた気がする。
茶番と言ったラッシュだが、対峙したあの時は間違いなく俺へ本気の殺意を向けていた。
もしも俺がラッシュの想定より弱ければ、あのまま殺されていたことだろう。
「君は、勇者としてこの世界に来てからまだ一ヶ月も経っていないんだったな?」
「ああ。えっと……一週間くらいだ」
「……とんでもない成長速度だ。君なら、魔族たち……いや、魔王も倒してくれるかもしれない。心の底からアリアを預けたいと思ったのは君が初めてだ」
「そ、それは買い被りすぎでは……?」
俺は確かに『ガチャテイマー』のおかげで急成長し、短期間でエンシェント・ドラゴンを倒せるまでになった。
だが、絶対的な能力で見ればまだ上には上がいることも知っている。
例えば、Sランク冒険者——とか。
人類の上澄みでも事実として魔族を一掃できていないのだ。
「そんなことはないと思っている。……が、期待していたイナモトたちが微妙だったからね。ギャップを感じている部分は否定できないかもな」
あっ……。
まあ、同じ異世界の勇者でも、稲本と俺ではさすがに実力に開きがあったからな。
とはいえ、まあこれはラッシュなりの冗談か。
しかし笑えるような雰囲気ではないので、反応に困ってしまう。
真面目な話に戻るとしよう。
「アリアがパーティに加わることは俺たちの望み通りだし、こうしてラッシュにも納得してもらえたことは良かったと思ってる。それで、今更なことを尋ねるんだが」
「ああ。なんでも答えよう」
「ラッシュ、お前にとってアリアはなんなんだ? いったいどうしてそこまで大事にするんだ?」
あくまでもラッシュとアリアは幼馴染でしかない。
俺はまだこの世界の常識には疎いが、ここ数日でシーナやアリア、その他の人と関わった中では、人間関係においては現代の日本の感覚と大きくは変わらなかった。
同じ境遇の中を育ってきたことで普通よりもお互いを大事にするまでは理解できても、ラッシュの話だと最初から信頼に足る人間を探していた風に聞こえる。
ラッシュに行いは明確に魔族への裏切りだし、さっきの話の通りならアリアを誰かに託した時点でラッシュは殺されてしまう。
つまり、ラッシュは自分の命よりもアリアを重視している。
ただの他人にそこまでするものだろうか? ——という意図を込めた質問だった。
「ああ。それは……アリアは、俺にとってこの世界で唯一の血が繋がった……妹だからだ」
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