第66話:《魔調石》
裏切り者へは鉄槌を——当然のことだ。
「そうですか」
既にこの結論は覚悟していたため悲しさや恐怖といった感情は湧いてこない。
ただし、グレイ司祭の説明はこれで終わりではなかった。
「話を最後まで聞かんか」
「まだ何か?」
「お前は死罪が決定したが、猶予を与えることになった」
「……は、はあ」
(猶予……? 時間をかけて何になるんだ?)
ラッシュの脳内を疑問符が埋め尽くす。
まだ十二歳の子供だから慈悲をかけてくれたのだろうか。
それとも、何か狙いがあってのことだろうか。
どちらにせよ期間が気になる。
「いつまでですか?」
「不定期——いや、お前次第だ。我々としては死罪一択だと思っていたのだが、レジンが良いアイデアを出すものでな」
「え、レジンさんが?」
直接会ったことはないが、名前は聞いたことがある。
ラッシュやアリアと同じ魔族と人間のハーフ。
魔族たちには見下されているハーフだが、レジンだけは例外的に一目置かれている。
レジンは魔族らしくない見た目を活用して、人間大陸で冒険者として活動しているらしい。
人間たちには真の職業は隠しているとのことだが、剣聖(★なし)の職業を持つ剣士。
人間たちからは厚い信頼を得ており、今後魔族が人間との戦いを仕掛ける上では彼の存在は必須かつ勝敗を分ける要になるだろうと言われる人物だ。
——まさに、ラッシュたちに求められている将来材を体現している存在だった。
「ど、どうして僕なんかを……?」
「部下として使いたいと言っていたぞ。まあ、それはともかく。我々が積極的にお前を死罪にしようなどということは今後一切ないと宣言しておこう。というのもだな——おっと、来たか」
グレイ司祭の説明中に、禍々しい黒のオーラを放つ石の魔道具を持った魔族がやってきた。
「……⁉︎」
「これは、《魔調石》。我々が開発中の魔道具だ。これからお前の身体に呪いを刻む。生きるか死ぬかはお前次第。どんな副作用が出るかはわからない」
「実験台になれということですか……?」
「死ぬよりは幾らかマシだろう?」
「……」
「呪いの書き込みに成功すれば、晴れてこの《魔調石》とお前の肉体は一体化する。お前が死ねば《魔調石》は消滅する」
ラッシュの背筋に悪寒が走った。
「では、その《魔調石》が壊れるとどうなるのでしょう?」
「お前の想像の通りだ。最初に言っただろう? 罰はお前次第だとな」
「……理解しました」
つまり、今回の脱走はこの怪しげな魔道具による呪いを書き込むことによって許され、その代わりとして今後何かやらかせば、発覚した時点で殺される——ということだ。
「——やれ」
「はい」
グレイ司祭の命令を受け、《魔調石》を持った魔族がラッシュの身体に触れる。
そして、胸に不気味な目を描き込んでいった。
絵が完成した直後。
「うわあああああああああああああああああ‼︎」
心臓を突き刺すような強烈な痛みがラッシュを襲ったのだった。
◇
「……ということだ」
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