表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/106

第64話:8年前

 ◇


 ——八年前。


 魔族たちが眠る深夜二時。


 この日は、雪が降る極寒の夜だった。


 収容施設を抜け出したラッシュは、冷たい空気が肌を刺す中、アリアの手を引きながら夜闇に紛れて海を目指していた。


「ラッシュ、どこ行くの?」


「後でゆっくり話す。俺を信じてついてきてくれ」


「ふーん。わかった」


 ラッシュは人間大陸を目指している。


 魔族社会での扱いに嫌気が差したラッシュは、人間大陸への亡命を企てたのだ。


 亡命とは言っても、どこかの国に保護を求めるとかではない。


 十二歳の人間と何の繋がりもない少年ができる範疇を超えているからだ。


 ラッシュの作戦は、単に魔大陸の国境を越えることで人間大陸へ逃げ込むこと。


 そんなことができるのか? というところだが、理論上は可能。


 魔大陸と人間大陸との間に人の行き来はないのだが、実は海峡で隔たれたそれぞれの大陸との間の距離は、約三・八キロメートルほどしかない。


 さらに、この海峡は冬の寒い時期には凍ってしまうため、歩いて渡ることができる。


 リスクを跳ね上げかねないアリアを連れての脱出を計画したのは、ラッシュが彼女に対して特別な感情を抱いていたからに他ならない。


 本来ならアリアには事前に伝えておくべきだったが、秘密を持たせることがアリアの負担になると考えたラッシュは今日この時まで黙っていた。


「魔族に見つからないよう、今夜中になるべく遠くまで移動する」


「見た目ですぐ見つからない?」


 魔族と人間は見た目で区別できる。


 特徴的な目や角の有無、肌の色からしてラッシュたちは普通の魔族とは違う。


 収容施設の抜け出しは御法度であり、すぐ二人の捜索が始まることを考えると、一般の魔族に紛れて遠くへ移動するなど普通はできない。


「森を突っ切る」


「も、森には魔物が……」


「俺たちなら大丈夫だ」


「む、むちゃくちゃだよ……」


 魔族に見つかり連れ戻されることなく無事に人間大陸に逹するには、森の中を延々と移動し、数百キロ進んで海峡に辿り着くしかない。


 食料は魔物を倒して調達し、雪解け水を飲んで喉の渇きを凌ぐしかない過酷な環境。


 だが、ラッシュには気力さえ保てればどうにかなるという自信があった。

面白いと思ったら★評価とブクマをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ