第62話:アンデッド化
◇
さて、こちらも決着を付けるとしよう。
ここに向かう途中でアリアから聞いた話によれば、ラッシュの職業は★5の金死霊術士。
アンデッドを召喚することができる能力を持つらしい。
ついさっき倒した死霊ウルフが、まさにラッシュにより召喚されたアンデッドである。
ラッシュ自身はあくまで使役したアンデッドを使うことでしか戦えないとすると、もはや勝負は決まったも同然なのでは……? と思うのは、早計だ。
金死霊術士には、もう一つの能力があるらしい。
「まさか、これを使わざるを得ないとはな」
そう言った後、ラッシュから感じる魔力が急に強くなった。
見た目もどこか人間離れしたものに変化してしまっている。
金死霊術士のもう一つの能力——それは、自身のアンデッド化。
生命力を消費することで、莫大な魔力に変換することができるらしい。
だが、当然リスクもある。
本来、肉体がダメージを受けた際に生命力が減少するのだが、逆にラッシュの能力のように生命力が減少すると肉体がダメージを負うらしい。
つまり、この能力は言わば自傷による強化。
戦えば長引けば長引くほどにラッシュは肉体へのダメージが蓄積し、苦しくなっていく。
俺の立場としては、早期決着しなければならないラッシュとは逆に戦いを上手く引き延ばすほどに有利になるということだ。
——だが、俺は戦いを長引かせるつもりはない。
俺は、ラッシュを倒したいのではなく、あくまでも話を聞いてもらいたいだけなのだ。
唐突な話だったこともあり、今は拒絶されているが、落ち着いて話ができれば前向きに考えてくれると信じている。
そのために、まずはこの場を無力化しなければならないわけで、深刻なダメージを負わせることは目的に反している。
「来い」
俺が挑発すると、ラッシュは大きく地を蹴った。
アンデッド化したラッシュは、拳による物理攻撃と魔法の両刀使い。
まずは、至近距離からのパンチに注意するというところだが——
あれ……?
思ったよりも遅いな。
さっきの死霊ウルフに比べれば何倍も強い相手のはずなのだが、俺のステータスが高いためか、余裕で動きについていける。
よし、これならかなり余裕を持って力の差を理解させられる。
「この程度か?」
俺は、テレビで見たことがある合気道の要領でラッシュのパンチを受け流し、逆に最低限の力だけで姿勢を崩させた。
たったこれだけの動きで——
ドガアアアアアアンン‼︎
勢いよくラッシュの身体が吹き飛んでいったのだった。
ラッシュはすぐに身体を起こし、両手を上げた。
次は、魔法か?
と思った瞬間。
ラッシュから耳を疑う言葉が出てきたのだった。
「……俺の負けだ」
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