第59話:結論
提案を聞き終えたラッシュは、訝しげな目を向けた。
「アリア、どういうことだ?」
俺の話を罠だと警戒したのだろう。
ラッシュは俺に直接尋ねるのではなく、アリアから事情を訊くことにしたらしい。
やはり、アリアをこの場に連れてきて良かった。
「実は……」
アリアは、これまでのやり取りをラッシュに話してくれた。
ついでに稲本たち五人にも経緯が伝わったので、もう改めて説明する必要はないだろう。
「なるほど。人間に感化されて血迷ったか」
ラッシュはハァとため息をつき、俺を睨んだ。
「答えは、ノーだ。ありえない」
「……そうか」
想定はしていたことだ。
だが、そう簡単に引き下がることはできない。
「理由を聞かせてもらえるか?」
「わざわざ言う必要があるか? 僕は、魔族を裏切れない。だから君の提案は論外。そういうことだ。わかったら、アリアを返してもらおうか」
だが、肝心のアリアは俺の後ろから離れようとしなかった。
「アリア、今ならまだ間に合う。僕さえ上に黙っておけばアリアの裏切りは誰にもバレない。戻って来てくれ」
優しく語りかけるラッシュだったが、アリアの決意は固かった。
「……ごめんなさい」
「そうか、じゃあ力尽くで奪い返さなくちゃいけないということだな」
ラッシュはこのように呟くと、再度俺を睨んだ。
「アリアが二度も失敗したということは、なかなか君はやるようだな」
「……」
そして、ラッシュは稲本たちの方を急に振り返った。
「そんな君には、こちらの方が話が早く済みそうだ」
右手で方向を定め、召喚された死霊ウルフたちに指示を出した。
「行け」
まさか……と思ってから一秒にも満たない時間の後、ラッシュの死霊たちは稲本に飛びかかる。
「おい! ちょ、ちょ! 止めてくれ!! こんなのに噛まれたら死ぬ! 絶対死ぬ! た、頼む……やめ……」
しかし、一度主人から指示を出されたウルフたちが途中で手加減するはずもなく――
「うあああああああああああ――――!!」
稲本は鋭い爪と牙により肉を抉られ、悲鳴を上げながらのたうち回った。
「と、遠くに逃げろ! できるだけ遠くに散れ!」
もはや稲本は手遅れだが、他の四人はまだ狙われていない。
幸いにも大きな岩などが点在するエリアだったため、身を隠すことはできそうだ。
俺の声を聞いた四人は、速やかに散っていく。
「もういい。ストップだ」
ラッシュは稲本が死亡したことを確認した後、俺に話しかけてきた。
「君がアリアを返さないのなら、被害者はどんどん増えていく。仲間なんだろう? いいのか?」
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