第40話:常識
俺が注文したコースは、魚の刺身や切り身、貝のスープなど新鮮で季節にあった海産物を使った料理らしい。
どれも美味しそうだが、見たことのない食材ばかりである。
対して、シーナの方はステーキやハンバーグなど日本でどこか見覚えのあるメニューである。
肉の種類などはやはり異世界なので色々と違うのかもしれないが、こちらも美味しそうだった。
どちらも共通して小さなお皿にちょこんと盛り付けられている。
早速、食べてみよう。
美味い!
見慣れない食材ばかりだが、味の方はバッチリだった。
肉厚な魚肉、出汁の利いた濃厚なスープ、全体的なまとまりのある味付け。
さすがは人気店だと唸らせられるメニューだった。
もっとも、生まれてこの方高級なものを食べなれてはいないので、専門家やら評論家がどのように評価するのかはわからない。
だが、俺にとっては絶品だった。
「カズヤさん」
「ん?」
夢中で食べていたところで、シーナの声が聞こえてきた。
「あ~んしてください!」
シーナが肉の刺さったフォークを俺の口元に向けている。
こ、これは……俺に食べさせようとしているのか⁉
「えっと⁉」
「色々食べたいって言ってましたよね?」
「そ、それはそうだけど!」
普通は小皿に取り分けるとかじゃないのか⁉
こ、これでは間接キスになってしまう……!
い、良いのか?
俺は構わないのだが、シーナの気持ち的に……。
「カズヤさん、恥ずかしがっているのですか?」
「い、いやそんなことは……」
「この世界では普通のことですよ」
「そ、そうなのか?」
「はい!」
そうか、普通ならいいのか……?
確かに、郷に入れば郷に従え……っていうことわざもあるもんな。
常識なんて、世界が変われば丸っきり変わってしまうもの。
俺が変わるべきなのかもしれない。
パクッ!
俺はそんな決意を胸にかぶりついた。
美味い!
ジュワっと口の中で肉汁が溢れ、肉の濃い味が広がっていく。
そして、柔らかな肉繊維が解けていった。
色々と最高だな。
「じゃあ、俺もお返しに――あ~ん」
今度は、俺の方の料理をフォークに刺して、シーナの方へ持っていく。
「え⁉ えっと……」
なぜか、急に顔を赤くしてソワソワし始めるシーナ。
「どうかしたのか?」
「あっ、いや……な、なんでもないのです!」
「そうなのか」
「カ、カズヤさんと間接キ……」
「ん?」
「な、なんでもありません!」
パクッ!
謎の間があった後、かぶりつくシーナ。
「お、美味しいです!」
こちらの方の料理も美味しかったようで、シーナは満足そうに笑顔を浮かべた。
俺たちはその後もゆるりと幸せな時間を過ごして、夕食を終えたのだった。
面白いと思ったら★評価とブクマをお願いします!