第28話:二人きりの夜
◇
近くで夕食を食べた後、俺たちは宿の部屋に戻ってきた。
夕食前に荷物を置きに部屋へ入ったのだが、改めて見てもシンプルな造りである。
シングルベッドの他には、小さな丸テーブルと椅子が一脚のみ。
全体的に木目調で統一されており、温かみのある部屋模様になっている。
なお、清掃はしっかりされているらしく、ベッドの下にも塵一つなかった。
本当に寝るだけ……という感じの部屋だ。
シャワー室やトイレも共同のものしかないらしいが……まあ、贅沢は言えないな。
なんとなく、海外のモーテルと似た雰囲気を感じる。
「あとは寝るだけですね」
「そうだな」
シーナがベッドに入ったことを確認し、俺は《収納魔法》で毛布を取り出した。
リード村を出る前に、シーナの両親が持たせてくれたものだ。
俺は毛布を被って、床で眠ろうとしたのだが――
「な、何をしているのですか⁉」
「いや……寝ようと思って。さすがに同じベッドは不味いだろ?」
「そんなのダメですよ! 疲れが取れないですし、腰にも悪いですから! 私なら気にしませんから! ほら、こっち来てください!」
そう言いながら、シーナは空いているスペースをパンパンと叩く。
「そ、そう言われてもな……」
俺も健全な男子高校生なのだ。
同じベッドに超絶美少女がいれば、嫌でも邪な考えが頭をよぎってしまう。
ま、まあでもシーナにもその気があれば……? 同じ部屋で一夜を共にするとなった以上は、シーナも覚悟の上なのでは? ……い、いやダメだ!
まだ俺とシーナは出会って数日の関係。
というか、まだ付き合ってもいないのだ。
ここが異世界だとしても、もっと段階というものがあるはずだ!
「……わかりました。カズヤさんがそんな態度を取るなら、私にも考えというものがあります!」
シーナは宣言すると、ベッドを離れて俺の方へ近づいてきた。
俺の毛布を奪い取り、横になるシーナ。
「え?」
意味が分からず、キョトンとしてしまう俺。
「カズヤさんがどうしても一緒に寝たくないというなら、私がここで寝ます。カズヤさんはベッドを使ってください!」
「いやいやいやいや! それは違うって!」
「何がですか?」
「シーナも移動で疲れてるんだし、それに床で寝たら身体を痛めるって言ってただろ⁉」
「私が困る分には問題ないのです」
「問題なくねえよ⁉」
いや……でも待てよ?
俺がシーナを心配するように、シーナも俺のことを心配してくれていたのか。
逆の立場になってみて、初めて気が付いた。
どうやら、俺も腹をくくらなきゃいけないらしい。
「……俺が悪かった。一緒に寝よう」
さっきまでの俺は、前の前の現実から逃げてしまっていた。
俺さえ何もしなければ……欲を抑え込めば良いだけなのだ。
「本当ですか⁉ 良かったです! ささ、こっちに来てください!」
笑顔を咲かせ、俺を招くシーナ。
俺は、心を無にするよう努めて横になったのだった。
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