第27話:節約
◇
「今日はこの宿に泊まりましょう」
冒険者ギルドを後にした俺たちは、近くの宿屋街に来ていた。
アーネスに滞在する冒険者は、大抵がギルド近くのこの辺の宿に宿泊するらしい。
宿の価格帯はどこも横並び。
シーナは建物の真新しさを決め手に選んだようだ。
俺たちはフロントに向かい、早速チェックイン手続きを始めた。
「何泊のご予定ですか?」
「とりあえず一泊で、延長オプション付きでお願いします」
「一泊の延長オプション付きですね。承知しました」
延長オプションというのは、既定の宿泊期間を経た後に気に入ればその部屋に継続して宿泊することができるものらしい。
ほんの少しのオプション料金がかかるが、初めて泊まる宿では一般的に使うらしい。
日本ではそういった習慣がないので、冒険者という職業がある異世界らしさを感じる。
右も左もわからない中、改めてシーナが一緒にいてくれるありがたみを感じる瞬間だった。
「それでは、二部屋ご用意できるか確認を――」
「あっ、結構です! 一部屋で大丈夫です!」
え?
一部屋で大丈夫ってどういうことだ?
「確認ですが、私どもの宿ではお部屋にベッドはシングル用一つしかございません。本当によろしいですか?」
「はい! それでお願いします!」
放っておくと勝手に決まってしまいそうなので、俺は小声でシーナに尋ねた。
「ちょ、ちょっとシーナ。部屋は別々の方がいいんじゃないか……?」
「どうしてですか?」
「いや……ベッドとか……ここ一人用らしいし」
「大丈夫ですよ! 私小さいですし、二人くらいならなんとかなるはずです」
確かにあまり問題はない……じゃなくて!
「そ、そうだとしても……シーナは女の子だろ?」
「そうですけど……何か問題があるのでしょうか?」
「俺だってその、なんだ……魔が差すってこともあるかもしれない。間違いが起こっちゃダメだろ?」
「わ、私……カズヤさんになら別に……」
と、頬を赤くするシーナ。
か、可愛い……。
じゃなくて! いやいやいや、ダメだろ⁉
シーナとは出会ってまだ数日。
そういうのは、普通もっと先の話であるべきだと俺は思う。
大人からすれば青臭いと思われるかもしれないが、それが俺の美学なのだ。
「それと、現実的にジュエルがかかります。アーネスって物価高いんですよ……」
「そ、そうなのか?」
「はい。二部屋取るとなると、食費がかなりキツイです。一応ここは私がお金を出しているので、カズヤさんにも理解していただきたいのです」
ぐぬ……。
そ、それを言われると納得せざるをえない。
冒険者にはなれたわけだが、今の時点で一文無しであることは変わらない。
実質、俺はシーナのヒモ状態なので、ご主人様に逆らうわけにはいかないのだ。
「わ、わかった。そうだな……そうしよう。うん」
「納得いただけて良かったです。では、それでお願いします!」
こうして、俺はシーナと二人きりの部屋で一夜を過ごすことになったのだった。
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