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第18話:ラッシュ

 ◇


 冒険者ギルドの演習場。


 アーネスに到着した稲本たちは、冒険者となるため、早速冒険者試験を受けていた。


 この世界でも生活にはジュエルと呼ばれるお金が必要であり、ジュエルを稼ぐためには何かしらの仕事を見つけなければならない。


 幸いにも魔物と戦う力を十分に持つ彼らにとっては、最も現実的な収入を得る手段が冒険者となり、依頼をこなすことだった。


 冒険者になるためには厳しい試験を突破しなければならないのだが――


「おめでとうございます! 合格です!」


 ★5職業に恵まれ、既に最低限の実戦経験を積んだ彼らにとっては、冒険者になること自体は壁ですらなかった。


「難しいと言ってもこの程度か。やはり俺は選ばれし勇者だったな」


 内心焦りつつ試験を受けていた稲本だったが、ほっと胸を撫でおろした。


 そして。


「よっしゃあああああああっ!」


「まあ、当然だね」


「私でもなんとかなった! ちょろすぎ!」


「みんな油断しちゃダメだよ。まだ冒険者になれただけなんだから!」


 遠藤、片桐、高原、山川の生徒四人は喜びを爆発させていた。


 この世界――《アクア》に転移してからというもの、辛い状況が続いていたことからの反動だったのかもしれない。


 初日は仲間が大勢亡くなり、苦渋の決断で和也を見捨てざるを得なかった。


 リード村に到着してからも劣悪な環境で一晩を過ごし、《地球》に帰ることはおろか、これからの生活の目途すら立たない状況だった。


 冒険者としての資格を得たことで、ようやく収入を得ることができる。


 生活基盤が整いさえすれば、元の世界に帰る方法を模索する余裕も生まれるかもしれない。


 五人にとって、ようやく一筋の光が見えた瞬間だった。


 そんなタイミングだった。


「素晴らしい! こんな合格者は見たことがない!」


 パチパチパチ……と拍手しながら、五人に近づいてくる青年。


「えっと……?」


 高原が困惑した様子で青年を見た。


 日本での学生社会では、見知らぬ他人から突然話しかけられることはあまりなかった。


「あ~、困らせちゃってごめんね。僕の名前はラッシュ・グリフィス。★5職業の金死霊術師だ。冒険者をやってる」


「★5だと⁉ 俺たちと同じじゃん⁉」


「先輩冒険者にそう言ってもらえるのは嬉しいね」


「私たち褒められちゃった⁉」


「やっぱり結構すごいのかな……?」


 生徒たちが驚きと喜びの反応を見せている中、稲本は冷静に反応する。


「それで、俺たちに何か用か?」


 すると、ラッシュは待ってましたとばかりに答えた。


「僕をパーティに入れてもらえないかな? と思って」


「君を⁉」


 まさかの提案に驚く稲本。


(★5職なら強いことは間違いない。でも、なぜ俺たちのような新人パーティに? ……狙いがわからんな)


 稲本の心の声を見透かすかのように、ラッシュ場言葉を続けた。


「★5職の冒険者はなかなか見つからないんだ。僕のようなエリートが仲間になるに相応しいのは、あなたたちのような才能溢れる人間だと思っている。特に深い意味はないよ。僕はそれなりに冒険者を長くやってるし、アドバイスできることもあると思う。どうです?」


「ふむ。俺が才能溢れる人間か……まあ、そうだな。なかなか見る目がある」


 ニヤリと笑みを浮かべた稲本は、すっかりこの青年を信用していた。


 しかし、念には念を入れておきたい稲本は、一つラッシュにお願いすることにした。


「信用していないってわけじゃないんだが、その……どんな戦い方をするか見せてもらうことってできるか?」


「ああ、そのくらいお安い御用ですよ」


 ラッシュは二つ返事で答えた。


「見ていてください」


 ラッシュは、訓練用のカカシの方に左手を向ける。


 足元に幾何学模様をした複数の魔法陣が出現し、煌めいた


 そして、大きなウルフが五体出現した。


「僕の職業は、一度倒した魔物をストックしておき、いつでも呼び出すことができる。さらに、僕ん力により元の魔物より数段強くなってる」


 訓練用のカカシの素材は、この世界で最も硬いといわれるオリハルコンでできている。


 そのため、訓練用のカカシは決して壊れることはないとされている。


 しかし、召喚されたウルフが訓練用にカカシに飛び掛かると――


 ガッシャアアアアアアンッ!


 訓練用のカカシはいとも簡単に壊れてしまったのだった。


「……なんと!」


 冒険者試験で実際に稲本も攻撃したことがあったが、ビクともしなかった。


 ラッシュが『本物』だと確信するには十分なパフォーマンスだった。


「これからよろしく頼む」


 稲本がラッシュに握手を求め、右手を差し出す。


「ええ、こちらこそ」


 ラッシュは不敵な笑みを浮かべつつ、稲本の手を取ったのだった。

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