第78話 再会Ⅶ 憧れ続けた彼女との再会
*6月11日、話数カウントを間違えていたためそこだけ修正しました。
引き続きミレーヌ視点です。
ナナミちゃんの左側を歩きながら。あたしはぎこちないながらもナナミちゃんと一生懸命にコミュニケーションを取ろうとするアリエルのことを見守っていた。
「ええっと、ナナミちゃんのお姉さんの特徴とか教えてくれる? 」
「ナナミのお姉ちゃんはね、こーんなに大きいの! 大きくて、すっごく強くて、頼りになるんだぁ」
あたし達から手を離して身振りで大きさを表そうとするナナミちゃん。そんな彼女の説明にアリエルは困ったようにあたしの方を見てくる。要するに情報がほとんど増えてない。
「か、髪の色とか目の色は? ナナミちゃんと同じ?
「うーん、どうだったかなぁ」
腕組みして悩み出すナナミちゃん。そこ、悩むところじゃないでしょ。
「容姿で絞るのはやめましょ。お姉ちゃんと別れる直前、どこにいたか覚えてる? 」
埒が開かないと思ってあたしが口を挟んだ時だった。誰かの腹の虫が派手に鳴る。
「ナナミ、お腹すいちゃった……」
それから10分後。あたし達3人は近くの料亭に腰掛けていた。ナナミちゃんは目の前に運ばれてきたお子様ランチを目をキラキラさせて見つめてる。
「ご、ごめんなさい。なんかぼくのせいでご飯まで奢っちゃうことになっちゃって……」
身を縮こまらせるアリエルにあたしは手をひらひらと振る。
「別にアリエルのせいってわけじゃないから気にしない。それにあたし達もお昼は食べてなかったしね。ちょうどいいくらいよ」
そう言いつつ、あたしも自分の前に運ばれてきた「ざるそば」なる料理に手をつける。ラインベルトは料理も他では見かけないヘンテコなものが多くて、その点はちょっと面白い。麺を箸で掴み取って濃い目の汁に浸し、口に運んだ瞬間、蕎麦特有の風味と出汁の効いた程よい塩味が口いっぱいに広がる。ほんと、ラインベルトの料理は素材の風味を生かした料理が多い気がする。
それから暫くの間、あたし達はお互いに言葉を交わすこともなしに各々、料亭の料理に舌鼓を打っていた。特にナナミちゃんは一心不乱にお子様ランチを食べ進めていた。そして食べ終わった後。口元がべたついたままで放置していたナナミちゃんの口元をアリエルは慣れた手つきで紙ナプキンで拭ってあげていた。そんなアリエルに対してナナミちゃんも屈託のない笑みを浮かべる。
「ありがとうお姉ちゃん! 」
アリエルはお姉ちゃんと言われたことに少しだけ複雑そうな顔をしていたけれど、最終的には「どういたしまして」と答えていた。そんな2人はまるで親子か姉妹みたいで、見てるこっちが微笑ましい気持ちになってくる。
「アリエルって妹とかいたの? 」
ふと気になってふとそんな疑問を口にしちゃう。
「別にいませんでしたけど……でも、地元には妹みたいに思っていた年下の女の子は何人かいましたね。近所の大人が忙しい時、小さい子の面倒を見ていたりはしたので。あと、魔法学園にいた時には妹みたいな後輩も2人くらいいましたし」
「そっか。アリエルが面倒見がいいのはそう言う所もあるのかな」
「まあ経験値がある、って言うのもそうだと思います。でも、それ以上にぼくにできることは何でもしてあげたくなっちゃうんですよね」
そう迷いなく言い切るアリエルにまたへんな気持ちになる。何なんだろう、この胸の奥が熱くなるような感覚は。そう戸惑っていると。
「お姉さん達、今日は家族でご観光ですか」
人の良さそうなおじさんが緑茶のお代わりを注ぎながらそんなことを言ってくる。
「「か、家族ぅ?」」
反射的にアリエルとハモっちゃったあたし達に対して、ナナミちゃんは嬉しそうに
「ナナミ達、家族みたいだって! 」
と嬉しそうに言ってくる。
「ど、どこら辺が家族に見えるんですか。大体、あたしとアリエルってどっちも20歳前ですよ」
そう反論するあたしに、おじさん店員は目を細めて言う。
「そうかもしれないけど、でもお姉さんたちのご飯を食べている時の雰囲気を見てそう感じたんですよ。緑髪のお嬢ちゃんが娘さんをお世話するお母さん、そしてあなたがそんな2人を見守るお父さんかな? 」
「ミ、ミレーヌ様がお父さんとかありえませんっ! 」
むきになってそう言うアリエル。その気持ちは嬉しいけど否定するのはあたしのことでいいのかな……。
「あははは、ごめんごめん。確かによく見なくても君達は2人とも美少女同士だったね。でも、どんな男女のカップルより君達の醸し出している雰囲気が恋人っぽかったから、間に小さな女の子がいるとつい、君達2人の子供に見えちゃったんだよ」
そんなことを言われるとかぁって頬が火照るのを感じる。ことによってはセクハラ発言かもしれない。でも、そう言われて悪い気はしなかった。
「……ミレーヌ様、ぼく達、恋人同士に見えるんですって」
「そ、そうみたいね……」
お互いに顔を真っ赤にしながら互いのことを直視できなくてお互いにちらちらとお互いを盗み見るあたし達に、不思議そうな声を上げたのはナナミちゃんだった。
「えー、お姉ちゃん達ってまだお付き合いしてなかったの? 」
「ナナミちゃんからもぼく達って付き合っているように見えたの? 」
裏返った声で尋ねるアリエルに、ナナミちゃんはこくん、と頷く。
「うん。だから、さっきのけんかもちわげんか? なのかと思ってた。でもでも! けんかはめっ、なんだからね」
幼い子にまでそう言われてますます恥ずかしくなってつい下を向いちゃった時だった。
「あっ、いた! 」
店の外から声がしたかと思うと、焦ったように1人の女の子が飛び込んでくる。彼女の顔を見た瞬間、あたしはつい
「ロック! 」
って叫んじゃう。するとリッカも驚いたような表情になる。
「ミレーヌじゃん! ってことは、ミレーヌが迷子になったナナミと一緒にいてくれたってこと? 」
「そうだけど……ってことは、ナナミちゃんのお姉さんって、まさかロックのことだったの? 」
あたしの問いにロックが頷く。そこであたしはようやく合点がいく。確かにロックはシスターなんだから修道服の幼女の姉なんて一番ありそうな話だった。でも知り合いが迷子の子の保護者だとわかると、あたしはつい嘆息しちゃう。
「大体、こんな幼い連れがいるならなんで目を離しちゃったのよ……」
「ごめんごめん。つい、ずっと探していた相手を町中で見つけて、ナナミのことを忘れて無我夢中で追いかけちゃって。だから、本当にミレーヌが傍に居てくれて助かったよ。――見ず知らずだったはずの迷子の女の子と一緒にいてあげるなんて、流石はアリエル様を崇拝する同志なだけはあるね。アリエル様みたいにミレーヌは優しいや」
何気ないロックの言葉。その言葉にあたしは一瞬思考が止まり、そして。
「あー、そう言うことだったんだ」
次の瞬間、これまであたしの心をせき止めていた大きな氷がが一気に氷解したような気持になって、あたしはそんな言葉を漏らしちゃう。
「ん? 」
「いや、今のは独り言。それに、ナナミちゃんに最初に声を掛けたのはあたしじゃないよ」
そう言って、あたしはロックが登場してからこれまで以上におどおどしていたアリエルの背中を押して、無理矢理一歩前に出す。
「迷子になっていたナナミちゃんの保護者を最初に探そうって言い出して、ナナミちゃんのことをずっと見ていたのもあたしの専属執事のアリエル。だから、お礼はアリエルに言ってあげて」
あたしの言葉にリッカは目を丸くする。でも、すぐに優しい目になって言う。
「そっか。じゃあ改めまして。妹の面倒を見てくれてありがとう。君、アリエルって言うんだ。あの勇者パーティーのアリエル様と同じ名前……。同じ名前だけあって、君も素敵な心を持っている人みたいだね」
そう言って差し出された右手にアリエルは暫く戸惑っていたけれど、最終的に恐る恐るだけど、アリエルはロックの手を握り返した。
ここまでお読みいただいてありがとうございます。今回の再会編、って3つの「再会」をかけてるんですよね。1つはアリエルとチェリーの再会、2つ目はロックと因縁の相手の再会、そして3つ目は……。それは、再会編最終話のあとがきでお話しましょう。