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第77話 再会Ⅵ 名前のない感情

*6月11日、話数カウントを間違えていたためそこだけ修正しました。


 今回、全編ミレーヌ視点です。

 ーー今のあたしの、今のアリエルに対する気持ちに名前を付けてあげるとしたら、どんな名前になるんだろう。


 アリエルに看病してもらったあの日から、ずっと考えていた。あの日に湧き出た感情のせいで余計に分からなくなってきていた。今のアリエルに対してあたしは『恋愛感情』を抱いているのかな。だとしたら、あたしがアリエル様に抱いていた『初恋』だと思ってた感情は、『敬愛』だとか『情景』だとか、もっと違うものだったのかな。


 アリエルのことを温泉旅行なんて、想像しただけで赤面しちゃうようなことに誘った理由も、自分のアリエルに対する気持ちをもっとちゃんと理解したかったからだった。


 もちろん、アリエルが他の女の子としていないことをしてアリエルにとって自分が『特別』であるということに安心したい、と言うのもあったよ? でも、2人で非日常に身を置いて、文字通りありのままのアリエルと向き合ったら、今の自分に渦巻くぐちゃぐちゃした感情の正体がわかって、素直にアリエルに接することができるんじゃないかって、そう期待していた。でも。蓋を開けてみるとあたしはますます、自分の中の感情がわからなくなった。


 勇気を出して『一瞬にお風呂に入りましょ』と言って向き合ったアリエルのメリハリのついた体つきはどうしてもアリエル様をあたしは連想しちゃった。その直後にお土産屋さんの店頭で出会ったリッカさんとのお喋りは楽しくて、今でもあたしはアリエル様のことが大好きなんだな、と思うと共にアリエルに対する感情がやっぱり恋とは別物に思えてきて、余計に頭がこんがらがってきた。


 そしてそんなあたし達に休む暇を与えずに発生した、チェリーさんとアリエルの再会イベント。口ではクールを装っていたけれど、あたしは内心気が気じゃなかった。アリエルが女の子と2人きり、しかも悔しいけどあたしなんかよりアリエルとお似合いなハイスペック女子であるチェリーさんと2人きりだなんて、想像しただけで不安で押しつぶされそうになっちゃった。


 チェリーさんが泣きながら部屋を出て行った後。不安で押しつぶされそうになっていた反動か、ふと


 ーー今アリエルに『あたしと付き合って。だから、もう他の女の子と2人きりになるの何でやめて』って言ったら、アリエルは受け入れてくれるかな。


そんな考えが頭をよぎった。アリエルと恋人になりたい、と言ったらきっとアリエルは二つ返事で受け入れてくれる気がする。彼女のあたしに対する感情は本物だから。そして、もう『恋人』としてのあたしを不安にさせるようなことはしないでくれるだろう。でも。


 あたしは結局、そのお願い事を飲み込んだ。自分のアリエルに対する気持ちが不明瞭なまま『恋人』になりたい、なんて言うのはアリエルの純情を弄んでいるようなもので、誠実じゃないから。それにーー。


「……だったら、アリエル様は『今のぼく』の方が『過去のわたし』よりもいいって断言してくれますか」


 今のアリエルを一番悩ませているその問いに、あたしは答えることができなかった。アリエルに受け入れられたいだけなら『そんなの今のアリエルの方がいいに決まってるじゃない』って言ってあげるのが正解なことはわかってる。でも、アリエル様に対する気持ちは今でも確かにあって、そんな自分の気持ちをないことにするのは気が進まなかった。その気持ちだって、他ならないあたしだから。いつまでも今のどっちつかずのままの関係じゃダメだってことも、わかっているけれど……。


 ――ほんと、あたしとアリエルってどんな関係になるのが正解なんだろ。あたしはアリエルとどんな関係になりたいんだろう。


 そんなことを考えて、アリエルと気まずい雰囲気で同じ部屋にいる時間もつい、あたしの視線はアリエルへと向かっちゃう。アリエルはあたしから距離をとるように対角線上の部屋の隅にちょこんと座っていた。気まずい雰囲気になっちゃったけど、同じ空間にいるとどうしても彼女の可愛らしい横顔を盗み見ては勝手にドキドキしちゃう。これはアリエル様に対してときめいているのかな、それともアリエルに対してときめいているのかな。考えても、やっぱり答えは出てこなかった。


 そんな風に考え込んでいるうちにも時間は非情にも刻一刻と過ぎ去り、あたしがアリエルと2人きりでいられるタイムリミットは迫ってくる。せっかくの2人きりのお出かけなのに、このまま終わりは嫌だな。


 そう思ったあたしの口から、自然と言葉は滑り出ていた。


「せっかくだから外の空気でも吸いましょうか。ソラ達に対するお土産も買わないといけないし」



◇◇◇◇◇◇◇



 街に繰り出してつまらない口論をしちゃったあたし達の仲裁に入ってきたのは、まだ8歳程度の修道服の少女だった。こんな小さな子に仲裁されるなんて、仮にも貴族なのに少し恥ずかしい。そう赤面しちゃって、あたしは重要なことに気づくのが少し遅れる。


 ーーって、目の前にいる子って女の子じゃん。アリエル大丈夫かな。


 ちらっとアリエルの方を見るとアリエルは苦しそうに肺の辺りを抑えてた。ここはあたしが対応してあげるべき、か。そう悟って、あたしが修道服の幼女に声をかけようとした時だった。


「べ、べつにぼく達は喧嘩してるわけじゃないよ。君、名前は? こんなところで1人でいるなんて、お母さんとはぐれでもしちゃったの? 」


 あたしよりも先に口を開いたのはアリエルだった。アリエルは女の子と目の高さを合わせるために屈んでいたけれど、そんな彼女の体は小刻みに震えていて、女性恐怖症を必死に押さえ込んでいるのがあたしの目には明らかだった。


 何やってるのよ。アリエル、女の子のこと苦手でしょ。純粋にアリエルのことを心配して戸惑っているうちに、アリエルは懇願するような目であたしのことを見てくる。


「あ、あの! ミレーヌ様。この子のお姉ちゃんを探すと手伝いをしてもいいですか」


「あたしは別に構わないけれど……でもアリエルは大丈夫なの? その、既に汗びっしょりじゃない。本当は彼女の傍に居るだけできついんじゃない? 確かに迷子の女の子を放っておくわけには行かないわ。でも、それは必ずしもアリエルがやるべきことじゃない。なんだったら、あたしが1人で彼女を送り届けてくるから、アリエルはどこかで待っていてもらっていいのよ? 何より、あたしがあなたが無理をするのは見ていてこっちが耐えられない」


 幼女に聞こえないようにアリエルに耳打ちする。でも、小さい方を振るわせながらも今日のアリエルは頑固だった。


「ミレーヌ様の言うことは正しいと思います。でも、乗り掛かった船なら見捨てたくないんです。ここで迷子の子を見棄てちゃったりしたらぼくがぼくでなくなっちゃう、そんな気がするんです」


 きっぱりと言い切るアリエルにあたしは戸惑っていた。女性全般に極端な苦手意識を持つアリエルが見知らぬ女の子をここまで助けたがるなんて思ってかったから。


 あたしとしては無理にでも止めるべきだったのかもしれない。アリエルが無理をした結果、ボロボロになった舞踏会のあの夜の姿は今にも脳裏に焼き付いてる。あんなことになるくらいなら、意地を張るような場所じゃないと思う。なのに。


 この時のあたしの心に湧いてきた思いはアリエルに対する反対じゃなかった。アリエルを応援してあげたい、自分でもなぜかわからないけど、そう思ってしまった。


 あたしは女の子ーーナナミちゃんの手を取って言う。

 


「わかったわ。じゃああたし達2人で、この子のお姉ちゃんをさくっと見つけましょうか」

 今回、タイトルは某曲名のパロディとなってます。ミレーヌが自分の恋心に戸惑う乙女で推敲してて楽しかったです。

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