第66話 幻想Ⅴ 運命の出会い
流石に全部平仮名は読みにくそうだったのでロリ会話パートの一部を平仮名にしてます。
*6月10日、話数カウントを間違えていたためそこだけ修正しました。
魔女様の一件以来。わたしは自分の【幻想】の力がわたしは怖くなってしまいました。でも、本当に怖いのはこれかだと気づかされたのは、わたしがが冒険者パーティーに連れられて街へ出た直後のことでした。これまでは教会にしても森の魔女様の屋敷にしても、わたしが関わる人はほんの一握りだったからどうにでもなっていました。でも【幻想】の力が最も恐ろしいのは大人数で形成される人間社会に放り込まれた時だったのです。
正確に何が起きているのかをわたしが理解するのは大分先になるのですが、冒険者パーティーに助けられた時点で、既にわたしの【幻想】の中の一様態【魅了】は無意識に発動してしまっていたようなのです。周囲の人誰彼構わず、【幻想】の持ち主であるわたしに好意を持たせる魔法。それ自体はわたしを余計な争いから守ってくれる便利な魔法です。でも、誰もがわたしに好意を向ける、と言うことはすなわち、わたしを取り合った争いを招くことにもつながるのでした。
わたしを街まで連れてきた途端。冒険者パーティーの面々は唐突に、今後誰がわたしを育てるかということで揉めはじめました。誰もがわたしを養子にすることを主張し、誰もがわたしを孤児院や里親などの然るべき制度を使うことなんて考えもしませんでした。その争いは冒険者ギルドが介入する刃傷沙汰にまで発展し、最後の方は冒険者パーティーのお姉さんお兄さんが凄い剣幕でわたしのことを取り合いました。その当時、わたしは何が起きたのかその全貌の半分も理解できていませんでした。ただ、なんとなくわたしの【幻想】がこの争いを招いてしまったことは直感的にわかって、自分の力が怖くて仕方りませんでした。結局、その場は冒険者ギルドが介入してわたしの身柄はギルドが保護、そしてその冒険者パーティーはわたしを巡っての争いによって瓦解してしまいました。
それからもわたしは行く先々で自動発動する【魅了】によって人間関係を滅茶苦茶にクラッシュしてきました。ある時は彼女持ちの冒険者が彼女からわたしに乗り換えようとしました。ある時はわたしを巡って殺し合いが起きました。その場の人間関係を滅茶苦茶にするたびにわたしはたらい回しにされました。
それから1年ほど経ったときでしょうか。わたしは領主様が作ったばかりの孤児院に入れられることになりました。同年代の子供だったらわたしの【魅了】が通じず、わたしは『普通の女の子』として生きられるんじゃないか。今度こそ【魅了】も【幻想】も関係ない、本当の家族を作れるんじゃないか。そう期待して、入院前日のわたしの胸は高鳴ってなかなか寝付けませんでした。けれど、そんな期待は入院数秒後に打ち砕かれました。
わたしが孤児院に入ったその瞬間から、男の子も女の子も、誰もが悪い熱に浮かされたかのようにわたしと遊びたがりました。わたしは孤児院の中での人気者。それが、わたしにとっては『嬉しい』よりも『怖い』と言う気持ちの方が強かったのです。それと同時に、この人達もわたしの『家族』になってくれないんだ、と思うと寂寥感がこみあげてきました。
孤児院に入ってすぐ。わたしは他の子と距離を置いて孤立するようになりました。わたしがいると人間関係を滅茶苦茶にしちゃう。わたしがいると【魅了】しちゃう。だからわたしは一生、1人で生きていくしかないんだ。そう、孤児院の隅っこで目立たないようにして震えながら考えていました。そんなわたしのソラちゃんとの出会いは、まさに運命の出会いでした。
わたしが孤児院で孤立するようになってから1ヶ月ほど経った日。孤児院の中で子供たちが群がっているのを目にしました。心配そうに見守る女の子たちの中で何人かの男の子が凄い剣幕で言い争っていたのです。
「ソラちゃんは将来、俺と結婚するんだ! 」
「いいや、ソラは僕のところにえいきゅうしゅうしょくするのさ」
何言ってるの、そう思いながらもう少し注意深く見つめると、その中心には放心したような表情をした青髪の女の子がいました。そこでわたしは全てを理解しました。なぜなら、他ならないわたしが、これまで幾度となく同じ経験をしてきたから。
――わたしと同じ境遇の子がいたんだ!
そう思うと嬉しくなって、わたしは人だかりの中に飛び込んで青髪の少女――ソラちゃんと無理やり手を繋いて笑いかけます。
「行こ! 」
ソラちゃんは唐突に自分の手を繋いできたわたしに一瞬驚いたようでした。でも、すぐにわたしに下心がないことを似た者同士だから気づいたのか、最終的に大きくうなずいてくれます。
「うんっ! 」
それからわたし達は誰もいない孤児院の裏庭まで逃げ延びて、お互いの境遇について話せる範囲で話し合いました。思った通り、ソラちゃんはわたしと似た者同士でした。違う所があるとすれば、ソラちゃんの場合はやたら男の人を【魅了】してしまう体質であること、そして他ならないお父さんも【魅了】してしまい、それが原因でソラちゃんは親から棄てられたこと。
「そっか、レムちゃんも大変だったんだね」
「……ソラちゃんは怖くないの? 自分のせいで他の人のにんげんかんけいを壊しちゃうの」
わたしの疑問にソラちゃんは「うーん」と考え込み始めます。
「わたしは怖い、と言うかもう疲れちゃった、っていう方が強いかな。これまで信じてたお父さんに犯されかけて、そのせいで訳が分からないままお母さんににくまれて、捨てられて。今でもこの変なたいしつのせいで男の子にらんぼうされるのは怖いけどね」
悟ったように乾いた笑みを漏らすレムちゃん。彼女の話を聞いていると、わたしもお母さんにすごい剣幕で『詐欺師』と呼ばれた時のことを思い出して胸が苦しくなります。
「そうだね、やっぱり信じていた家族の態度が一変しちゃうのが一番怖い……」
「そうだね。こんな風に傷つくくらいなら、もう一生家族とか持たない方がいいのかなぁ、特にわたし達には変なたいしつがあるんだし」
また悟ったようなことを言うレムちゃん。でも、そんなレムちゃんの表情はどこか寂しそうでした。
「……ソラちゃん、本当はそんなこと思ってないよね? 」
「は、はぁ? 」
わたしの言葉にソラちゃんは素っ頓狂な声を出します。それに構わず、わたしは続けます。
「本当に家族が要らない人はそんなに寂しそうに家族の話なんてしないよ。だからさ――わたしと、家族にならない? 」
「ちょっ、まっ、なんでそんな話になるの? 」
「わたしも、家族が欲しいから。わたしね、この孤児院だったら新しい家族が作れるんじゃないかって、ちょっと期待してたんだ。でも実際は、同い年の子供もみんな、わたしの【魅了】の前では本物の家族にはなってくれなかった。だけど、同じ体質のソラちゃんとなら、きっと【魅了】なんか関係のない、本物の家族に慣れると思うんだ。……ダメ、かな? 」
わたしの提案にたじろぐソラちゃん。
「か、家族って……わたし達、血の繋がりとかないでしょ。家族っていったって何になるの? 姉妹? 」
「うーん、こいびと、とか? 」
わたしの答えにソラちゃんはぽっと赤くなります。
「こ、こいびとってあの、ちゅーとかする関係のこと?」
「うん」
「で、でも! それって好き同士じゃないとなれないんじゃ……」
「なら大丈夫だよ! わたし、ソラちゃんのこと大好きだもんっ! だから、ソラちゃんはわたしの彼女さんになってくれる? わたしの、家族になってくれる? 」
わたしの子供ならではの告白にソラちゃんは顔を真っ赤にしたまま考え込んでいます。
「……まずは友達から」
「えっ? 」
「今はまだわからないから友達から! そして大きくなって、わたしがレムのことが好きかどうかわかったら、ちゅーしたいかどうかわかったら、その時にけっこんしよ」
恥ずかしそうにそれだけ言い切ると、ソラちゃんはプイッとそっぽをむいちゃいます。そんなソラちゃんを見ていると、彼女のことが更に愛おしく思えてきました。
「やった! じゃあ改めて、これからよろしくね、ソラちゃん」
「う、うん、レム」
この日。わたしとレムちゃんは誰も知らない、子供ながらの誓いを立てたのでした。