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第21話 衝突Ⅳ 冒険者ギルド

「『ランベンドルト領の仕事が他の所に比べて山積している』、ってことは前に言ったわよね。その原因の多くはこの領地の過疎化なの。領地に人口がいなかったり活気がないって言うのは税収減少にも直結するし、税収が取れないと領地の防衛などの辺境伯領としての最低限のインフラすら揺らぎかねない――というか、実際に既に揺らいできているんだけどね」


 ソラ先輩の話をお嬢様が引き継ぐ。


「その問題を解消しようとして、あたしはこれまでいろいろしてきたつもり。住民に寄り添って細かい課題もいち早く察知して解決したり、領民と目に見える関係を築こうとしたり、税を下げて移住者を募ろうとしたり、領民を安心させるために王都から優秀な魔法師を雇おうとしたり。まあその殆どは残念なことに、これまで失敗に終わっているんだけど」


「そ、そんな話をぼくにして、何を期待されてるんですか? ぼく、別に領地経営なんてよくわりませんよ……」


「それはもちろんあたしもわかってる。ただ、アリエルにも知っておいてほしくて、そして一緒に考えてほしかったんだ。アリエルはあたしにとって、もう一番の側近の一人だから」


 そう言ってもらえて嬉しい反面、その責任の重さに押し潰されそうになる。でも、他ならないお嬢様はずっとこんな課題を一人で抱え込んできたんだもんね、そんな悩みを共有してくれたってことは、やっぱり少しずつ僕達の関係が進んでいることの表れ、か。


「つまり、今のランベンドルト領に足りないのは最初に言ったように2つ。1つは国境付近のこの地域に住んでも領民が安心できるような圧倒的な軍事力。あたしとしては正直、アリエルには素性を明かしてもらってご主人様の剣となることをパフォーマンスでもいいから領民に知らしめてくれるのが一番うれしいんだけど……」


 指を二本立てて話をまとめるように言ってくるソラ先輩。その言葉に対してぼくは目を伏せ、お嬢様はむっとした表情をソラ先輩に向ける。するとソラ先輩はあっさり肩を竦める。


「ま、そう言う解決方法が現時点では二人から反対されることはわかっていたからいいとして。もう1つは財源ね。冒険者・採集者の流出によって優秀な冒険者・採集者がいなくなって今、ランベンドルト領の経済はガッタガタ。産業が衰退してると税金もとれないからね。そこで、それを何とかする必要性は高い、ってわけ。と、いっても別にアリエル自身が冒険者になれとか言ってるわけじゃないよ? ただ、産業をこれから盛り立てていくにしてもこの地域の産業の中心である冒険者ギルド(現場)を見て見て、改善策を考えるのが最適だってこと。だから今日はアリエルにもう一か所みてほしい所があるんだ」


 そんなことを話しながら歩いているうちに、古びているながらもがっしりとした面構えの建物がぼく達の前に現れる。『冒険者ギルド』、そう入口のところには書かれていた。


 錆びついた重い鉄製のドアを開けると数組のテーブルとイスは冒険者パーティーらしい4、5人の一団数組で1/3くらい埋まっていた。いる人の性別や体格で言うと、屈強な体躯の男性が多くて、女性が殆どいないことにほっと胸をなでおろす。でも、そんな彼らの何人かはやつれた顔で真昼間からジョッキでお酒を呷っていて、所謂冒険者パーティーと言われて想像する者よりも『場末の居酒屋』というイメージの方が近いかも。アルコールのにおいが強すぎて鼻につくし。


 そんな彼らを見てお嬢様は憐れむような目になる。


「これまでギルドを引っ張ってきたSランク・Aランクの冒険者が軒並み他の地方に行っちゃって、毎日クエストにも相当苦労しているんだろうね」


 ソラ先輩にそう言われてはっとする。この人達だって、好きで昼間からお酒を飲んでるんじゃないんだ。そうしないとやってらんない、っていう方がきっと正しい。その考えに至ると、ちくりと心が痛んだ。


 と、その時。


「あっ、ソラちゃん! 久しぶりですぅ! 」


 薄暗い雰囲気の冒険者ギルドには場違いなほど明るい声が聞こえてきたかと思うと、いきなりソラ先輩に紫髪の女の子が抱き着いてきた!


 ――こ、この人どこから生えてきたの? というかこんなにぼくの近くに寄ってこないでよぉ。


 その場にへ垂れ込んでぶるぶる震えだすぼく。でもその女の子はぼくのことなんて視界に入っていないかのように、ソラ先輩に頬ずりしだす。


「ソラちゃんがここに顔を出すなんて珍しいじゃないですぅ? 」


 そんな紫髪の女の子にソラ先輩は鬱陶しそうなのを隠そうともせずに言う。


「はいはい、久しぶり久しぶり。――いろいろ積もる話もあるんだろうけど、とりあえずカウンターまで行こうか。そこにいるボクの連れ、訳ありで女性恐怖症だから。君にそんな至近距離にいられるとアリエルの体がもたない。あと、領主様もここにはいることを忘れないであげて」


 そこで紫髪の少女はようやく、ソラ先輩の隣にぼくがいることに気付いたみたいだった。




「それにしてもレムはほんとキャラがブレないよね。冒険者ギルド全体がこんなに斜陽なのに」


「ですぅ! こんな時だからこそ、ギルドの受付嬢が明るく振舞わないといけないのですぅ! 」


 ソラ先輩の漏らした感想にレムさんは勢いよく答える。


 あれから暫くして。ソラ先輩とレムさんはカウンター越しに向かい合い、そこから5メートルほど離れた椅子に腰かけて、あたしとお嬢様は2人の会話を聞いていた。


「あの……ソラ先輩とレムさんはどういう関係なんですか? 」


「あー、ボクとレムはもともと、同じくらいの時期に冒険者ギルドに拾われた孤児でね。一時期、今のご主人様の発案でできたばかりだった孤児院に一緒に収容されてたんだ。ボクは訳ありだったからお嬢様がお屋敷に直接引き取ってくれて一緒にいた期間は長くないんだけど、レムの方が妙に懐いてきて」


 ちょっとくすぐったそうに語るソラ先輩。


「ねぇアリエル。これだけ距離あればレムと2人きりでもお話しできる? 」


 不意に言ってくるお嬢様の言葉にぼくはぎょっとする。


「ほら、あたしとソラは既に何回かレムから同じ話は聞いているし、あたしがいたらレムも話しずらいことがあって、ソラがいるとレムはそれに構って話が進まない気がして、やっぱり一対一で話してもらった方がいいと思うから。それに、レムはぐいぐい来すぎるけど根は優しいから女性恐怖症を克服するいい練習になると思うよ」


 そうウインクしてくるお嬢様。お嬢様のウインクは可愛いんだけど……少しも良くないんだけど。


 でもぼくが2人を引き留めようとした時には。


「あ、え、ちょっと待ってください……」


 2人は立ち上がって冒険者ギルドを出て行ってしまっていた。そして、カウンターにはぼくとレムさんの2人が残された。

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