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第110話 回想Ⅱ 栄光からの転落

 アリスさんが属した勇者パーティ――川内勇者パーティーは歴代でも最強の部類に入ると言われる勇者パーティーだった。専守防衛に徹することも多かったクラリゼナ王国の歴代勇者パーティーの中では珍しく積極的に人類の脅威を排除しようと動き、自分達から何度も魔族領に立ち入っては、歴代最多の10人の漆黒七雲客を打ち破ったという。



「……って、この時点で気づきましょうよ。この世界には魔族なんてそんなお伽噺みたいな中途半端の異形はいないんです。そして漆黒七雲客ならぬ漆国七雲客と言うのはあたし達と変わらない人間の中で、【概念魔法】という規格外の力を付与された、ただの人間(、、、、)なんですよ。


 そして概念魔法はその持ち主が変化した神話級神聖霊装として世界に固定しない限り、天に召され、すぐに他の持ち主へとランダムに付与され、常に世界には全ての全ての【概念魔法】が存在するようにコントロールされてるんです。だから、行ってしまえば入れ物()を幾ら倒したところでイタチごっこにしかならない。だから、7人殺しても漆国七雲客を全員倒すなんてことはできっこないんです。そこでクラリゼナ王国が隠していた真相に気付きましょうよ」


 我慢できなくなったあたしはつい、そんな風に口を挟んじゃう。そんなあたしの指摘にアリスさんは自虐するような目になって答える。


「そうですよね、本当はそこで気づくべきだったんですよ。自分達が『勇者』としてさせられてることは本当は何だったのか。漆黒七雲客とは、魔族とは何だったのか。でもわたしは、全てを失ってこの世の地獄でそんな世界の真実を告白されるまで気づきませんでした。ほんと、わたしってバカですよね」


 アリスさんの言葉にあたしは息を飲んだ。


「全てを失って、って、まさか……」


「ええ。わたしの転機、それは『歴代最強』だったはずの先代勇者様、いや勇者が聖ラミリルド皇国の血濡れの処女たちファング・オブ・マリアに殺され、勇者パーティーが壊滅したあの日でした。あの日を境に、あたしの人生の歯車は狂ったんです」


 先代勇者パーティーの最後の遠征。絶対未開領域エルナドで先代勇者【時空】の所在がロストしたことはあたしも知っていた。でもそこからアリスさんが語るのは、部外者のあたしが知り得なかった、『1人死に損なってしまった勇者パーティーの少女』が辿った、想像を絶する悲惨な物語だった。



◇◇◇◇◇◇◇



 先代勇者がラミリルド皇国の血濡れの処女たちファング・オブ・マリアに殺されたその日。それと並行して勇者のすぐ近くに控えていた他の勇者パーティーも血濡れの処女たちファング・オブ・マリアが率いてきていた聖騎士団に見つかり、交戦に入った。


 恐らくラミリルド皇国はここでクラリゼナの勇者パーティーを壊滅させるつもりだったのだろう。それは勇者抜きの、行ってしまえば"ただの優秀な人間"3人で相手するにはあまりにも人数が多く、そして1人1人の戦闘力も高い部隊だった。と、いってもそれは鍛錬に鍛錬を重ねて鍛え上げられた強さと言うわけではない。狂信的で信仰のためならば命を簡単に投げ出す者がゴロゴロいる異常な部隊。そんな部隊は勇者のカリスマによって統制され、個々人が鍛錬によって力を高めてきた勇者パーティーの面々とは明らかに相性が悪かった。


 勇者パーティーは聖騎士団の狂刃によって次々に命を追としていく。そんな中でアリスさんはただ1人、命からがら逃げたのだという。次々と死にゆく仲間を異国の地で見棄てて自分1人が逃げ延びることに全く心が痛まなかったかと言うとそんなはずがない。それでも、今自分がすべきことは逃げ延びて状況を本国に伝えることだ、と判断したアリスさんは勇者パーティーの中でも勇者に次ぐ魔法行使技術と身体能力を使ってエルナドを脱出し、なんとかクラリゼナ王国へと逃げかえってきた。


 クラリゼナ王国に、人間の国に帰ってくればもう安心だ、勇者パーティーとして果敢に戦った末に勇者を打ち滅ぼした危険人物の情報を持ち帰ってきた自分のことを王国は温かく受け入れてくれるだろう。アリスさんはその一心で逃げ延びてきた。しかし、勇者はじめとする殆どの戦力を失ってたった1人生き残ってしまったアリスさんを待っていたのは、帰ってきた自分に対する歓迎ではなく、非情な現実だった。


「よく1人でのこのこ帰ってこれたね。君達勇者パーティーメンバーは場合によっては勇者を身を挺して守る身代わりでしかないって言うのに」


 ボロボロのまま王城の謁見の間でアリスさんを迎えた国王陛下はそう言って冷たい視線でアリスさんのことを見降ろしていた。


「君のことはそのまま捨ててしまってもいいのだが……神聖ラミリルド皇国と接触した、ってことは外の世界の秘密についてももうどうせ気付いているんだろ。だとしたら、君をそのまま市井に返すわけには行かないなぁ。外の世界のことを吹聴されて王朝を転覆なんてされたら困るしね」


「な、なにを言ってるんですか、陛下。『皇国』って、世界の秘密って……。そ、そんなことはどうでもいい! 陛下、もう一度わたしにチャンスを戴けませんか? わたしにでくることだったらなんでも、精いっぱいやりますから……」


 泣きながら懇願するアリスさんに国王陛下が答えることはなかった。


「中途半端にまだ動く『道具』の処理達は君達に任せよう。これを人間として再起不能に追い込んでくれさえすれば、あとは君達の好きなように壊していいよ。この世界の真実を綺麗さっぱり忘れるように。うら若き女の子を再起不能に追い込むのは、君達の得意分野だろ」


 そう言った瞬間。どこに控えていたのか5人ほどの屈強な男が湧いてきて、性的な目でアリスさんを舐め回すように見つめながらアリスさんに近づいてくる。その瞬間、アリスさんは女の子としての本能的に恐怖を感じた。そしてそうしているうちにもアリスさんは屈強な男たちにがちっと体をフォールドされる。


「いや、いやぁ、へ、陛下、助けてください!」


 アリスさんはじたばた暴れたけれど、うまく力が入らなくて逃げ出せない。そして国王も泣き叫ぶアリスさんを一瞥しただけで男達を止めることはなかった。




 それからのアリスさんは1ヶ月に渡って、何十人もの男に性的に犯され続けた。抵抗する体力も気力も、最初の三日でなくなり、日付の感覚すら失った。そして犯され続ける傍ら、廃人と化したアリスさんの脳はそんな男達からはじめてクラリゼナ王国が隠していた真実を聞かされることになる。



 この世には魔族なんて言うことが存在せず、これまで魔族だと思って自分達が殺してきたのは同じ人間であること。


 勇者パーティーはとある目的のためにクラリゼナ王国国王がクラリゼナ王国に代々受け継がれる概念魔法【時空】に戦闘経験を積ませて最強の概念魔法に成長させるための、私欲にまみれた組織であること。


 王国はそのことを隠蔽し、【時空】のことを『勇者』として持ち上げ、さも勇者が暴力を奮うことが正しいかのように国民を騙していること。



「ははは、お嬢ちゃん、勇者パーティーにいて、他国に何回も行っていながらそんなことも気づいてなかったのかよ。まあ体も未成熟だからおつむも未成熟だった、ってことだよな。俺達に出会うまで違う意味でいったこともなかったような17歳の小娘だもんなぁ」


 はっはっは、と爆笑し出す男ども。自分が馬鹿にされていることを死にかけたアリスさんの脳でも辛うじて分かった。でも、それに憤慨して反抗する気力なんて既にどこにもなかった。それにどうせ、反抗しようとしたりしても屈強な男数人を相手にアリスさんができることなんて限られている。抵抗しようとしても結局は再びベッドに押し付けられ、陰部をまさぐられてまた犯されるだけ。抵抗するだけ無駄。そう諦めながら、アリスさんは男たちの性欲のまま犯され続けた。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。


 神聖国家ラミリルド皇国周りで「えっ?」と思われたかもしれないので邪道だと思いつつもあとがきて補足させてもらいます。



17年前 絶対未開領域エルナドでロックの母親とクラリゼナ王国勇者パーティーが交戦、ロックの母は命を落とすもその直後に勇者も数代前の|血濡れの処女たち《ファング•オブ•マリア》に殺される(他の勇者パーティーは仲間の聖騎士に殺される)

 その後、ロックはかなり長い間修道女にいた。その間ラミリルドでは革命が起きていたがロックが所属していた修道院は人里離れたところだったので戦火を免れ、革命に巻き込まれることなく聖職者の育成を継続


9年前 フウが|血濡れの処女たち《ファング•オブ•マリア》に選出される。


7年前 レムが皇国を抜け出す。それに伴う革命の進行、宗教国家への回帰。


1年以内 ようやくロックが|血濡れの処女たち《ファング•オブ•マリア》に就任


ラミリルドに関係する人達がまさかこんなに複雑な入り込み方をすると思ってなかった感がもろバレですが、一応作者的には矛盾がないと考えてます(矛盾があったら優しく教えてくださいますと嬉しいです)。

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