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第106話 和解Ⅳ 宿泊先割

 今回ミレーヌ視点です。

 それから。アリエルまでお母さんにつられたように泣きだして、たっぷり30分ほどその場で泣いていた。最初はそんな2人におろおろするばかりだったけれど、途中から2人の泣き方がそっくりで親子なんだなぁ、なんてそんなへんなことを考えちゃってた。そして2人が泣き止んだ頃には、すっかり日も沈んで夜になっていた。


 泣き止んだだけでまだ2人とも完全に落ち着いたわけじゃない。それはわかってるけれど、暗くなったらどうしても聞いておかないといけないことがある。


「ええっと、お義母さん」


「さっきは取り乱しちゃってごめんなさい、あのクソビッチの娘さん。あなたのことをあのクソビッチと間違えて殺しかけてしまったことは謝罪します。でもわたし、あなたのことを認めたわけじゃないんです。だから、あなたに『お義母さん』なんて呼ばれる筋合いはありません。わたしのことはアリスと呼んでください」


 うへぇ、辛辣ぅ。


「……わかりました。それでアリスさん、今日泊まる場所の宛てとかあるんですか? 」


「いや、別に。この地方には旅館もなさそうなので野宿でもしようかと」


「ですよねぇ」


 なんとなくこういう展開になるんじゃないか、って言う気は、正直最初からしてた。


 観光資源や目立ったビジネスがないランベンドルト領には元々、他地域からの来訪者は少ない。やってくる人はヘンリエッタみたいに、殆どこの領地に棲んでいる人の親戚や知り合い。だから宿泊施設など需要がないから、ビジネスとして成り立たない。でもそういう時、知り合いかどうか微妙なラインの人が来訪してきた時に困る訳で。かといって、これから『家族』になるかもしれない、彼女の『家族』を野宿させるなんて……この地方の領主として、そして何よりアリエルの彼女として看過できるはずがない。


「……野宿するくらいだったらイヤかもしれませんけど、うちの屋敷に来ませんか? 部屋は余ってるので」


 絞り出すように提案してみる。すると、予想はついていたけれど逆方向からクレームが入る。


「えっ、今日、あの人と同じ敷地内で寝なくちゃいけないんですか……」


 そう言って不安げに檸檬色の瞳を揺らすのはアリエル。これもまた半ば予想していた展開だけど、アリエルのその反応にはついため息が出てしまう。


 確かにアリエルにとって今のお母さんと同じ屋根の下だったり同じ敷地内で夜を一緒に過ごすのは他の女の人と一緒に過ごすのとは比にならないくらい、それはもうプロムと一緒の建物内で寝ろと言われているのと同じくらい怖いことなんだろう。その気持ちはわかるし、彼女としてアリエルにそんな怖い思いをしてほしくない、っていう気持ちは正直ある。でも、だからと言ってアリスさんに野宿させるわけにいかないし……。


 そうしようか迷ってちらっとアリスさんの方に視線を送ってみる。するとアリスさんはショックのせいか身体を硬直させて固まっていた。


 ――ま、まあ、あれだけかわいがって、ここまでも必死になって探していた一人娘に『あの人』呼ばわりされて拒絶されたら流石に傷つくか。あたしだってアリエルから『あの人』なんて言われたら2日は立ち直れないもん。まあそれはそうとして、さてどうするかな。


 そうやって思案する中で。あたしはダメもとで魔女様に耳打ちしてみる。


「魔女様。魔女様の屋敷でアリエルかアリスさんのどっちかを泊めるってことはできませんか? 」


「この前までは別に大丈夫だったけれど誰かさんとの戦闘のせいで屋敷は滅茶苦茶のままだから、人に貸し出せるような部屋はないわよ。大体、アリエルさんともアリスさんとも、わたしは殆ど冷戦状態なんだから逆に息が詰まるでしょう」


 ……ですよねぇ。というか再建とかしてなかったのか、あそこ。


 でもいよいよ困った。使えそうな場所はあたしのお屋敷しかない、でもアリエルのメンタル的に実の母親と一緒の場所で寝泊まりしたくない。さて、どうしたものか。そう頭を抱えていた時だった。


「ふっふっふ、話は聞かせれ貰ったのですぅ! 」


 そう言って話に割り込んできたのは冒険者ギルドの受付嬢のレムだった。


「レム! どうしてここに……」


「アリエルちゃんが路頭に迷ってるって聞いたから、職場の先輩であるレムがアリエルちゃんのことを迎えに来てあげたのですぅ」


「路頭に迷うって、そんな人聞きの悪いこと言わないでよ……。あと、その表現はいろいろと語弊がある」


 そうツッコみながらも、あたしはレムの提案をありがたく思っていた。アリエルとあたしの関係がぎくしゃくしちゃった時、アリエルは冒険者ギルドの職員寮で寝泊まりさせてもらっていたらしい。その職員寮は流石に部外者を泊めるわけには行かないだろうけど、何故かレムに気に入られてるアリエルならばいつでも大歓迎、ってことなんだろう。


「まあでも、確かにとりあえず今日は、アリエルはレムの所に泊めてもらって、アリスさんはうちのお屋敷で泊まってもらうのが一番おさまりが良さそうね。まあお互いに色々思う所もあるでしょうけれど、特に大きな意義がなければそれで決めてしまいたいけれど、いい? 」


 あたしがそう話をまとめに入ると。


「本当はアリエルちゃんを泊める条件としてソラちゃんも召喚したかったところですぅ。でもレムは物分かりがいい子なので意義なーし、ですぅ」


 いつものように元気よく答えるレム。


「全くの部外者であるわたしが言うのもなんだけど、それが一番落としどころなんじゃない? まあ、万一喧嘩になるといけないから今日はわたしもミレーヌの所に泊まらせてもらうわね」


と魔女様。


「み、ミレーヌ様と一晩離れ離れになっちゃうのはイヤですけど、仕方ありませんよね……」


とアリエル。


「文句がない、と言ったら嘘になりますけど……ミレーヌさんとは2人きりでちゃんと話さないといけないこともありそうですし、妥当かもしれません」


とアリスさん。


 そうして。超難問だった泊まる場所問題をなんとかクリアして、あたし達はようやく霊園を後にして帰路に着くことができたのだった。……なんなんだろう、この疲労感。




 そしてアリエル達冒険者ギルド組とはすぐに分かれてあたし・魔女様・アリスさんの3人きりになる。3人きりになると、また一段階空気が重くなった気がした。


 何か話した方がいいかな、というかこの面子で話すことって言ったら? そんなことを思っていると。


「すみません、お屋敷にはミラ――まだあなたのお母さんはいるんですか? 」


 警戒したような目でアリスさんが聞いて来る。


「お母様はもう何年も前に死んでますよ。と、いうか、今ランベンドルト家で生き残っているのはあたしだけなんです。だからあたしが辺境伯を務めてます。元はお父様と、それから妹もいたんですけど、みんな他界しちゃって。今日も、家族に対するお墓参りだったんです」


 あたしがそう話すと、何故かアリスさんはほっと胸をなでおろした――ように見えた。


「あの、あたしのお母様とアリスさんは何かあったんですか? アリエルは全くそんな話してませんでしたけれど」


 聞くかどうか迷って、でも結局口にしてしまった。ずっとは避けては通れないことだと思ったから。それはお母様の娘として、そしてアリエルのパートナーとして。そんなあたしの疑問に対して、アリスさんは答えようとしたのか一度大きく息を吸い込み、でも結局ため息をついて言葉を濁す。


「――それはそうですよ。だってアリエルにはこんな救いようのない、世界の醜い部分を煮詰めたような話なんて聞かせたくなかったから。あの()にはずっと綺麗な世界で生きていてほしかったから。まあ、勇者パーティーなんてものに入れられた時点でもうその願いは叶わないんでしょうけど」


「その言い方、ってことは、漆国七雲客が本当は何なのか、『魔族領』が本当はないこと、とか、クラリゼナ王家が国民に秘匿している事実をあなたも知ってるってことですか? 」


 あたしの言葉にアリスさんは目を丸くする。


「あなた、どこでその情報を……」


「こう見えてもあたしは辺境伯ですからね。割といろんな情報にはアクセスできるんですよ。あ、別にお母様が教えてくれたわけじゃありませんよ? お母様もお父様も、出来損ないのあたしのことは早々に辺境伯の後継者としては諦めて、何かを教えてもらった覚えはありませんし。まあそれでも、すぐそこに漆国七雲客の知り合いもいますし……。魔族なんてとんでもない、あたし達と全く変わらない人間の、ね」


 そこであたしが魔女様に目配せすると魔女様は恭しく頭を下げた。

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