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第100話 暗雲Ⅱ 新たな仲間と枢機卿

 今回、◇◆◇◆◇◆◇の前後でプロム視点→第三者視点に移ります。

 そう、わたしが覚悟を決めた時でした。徐に玉座から立ち上がったお父様はわたしの方まで下りてきて、興奮気味にわたしの両肩を掴んで言いました。


「プロム、よくやってくれた! 貴様のお陰でようやく、この80年間探し続けてきた魔女――僕を捨て裏切ったあのキャロ(魔女)の居場所がようやく掴めた! 」


 少年のように歓喜に満ちた表情のお父様に両肩を揺さぶられ、わたしは困惑していました。魔女、その言葉が何を差しているのかがわたしにはわかりません。でもただ一つ分かったことがありました。それはどうやらわたしの命は首の皮一枚でつながったようだ、ということ。


「それと同時に欠陥品かと思っていたあの勇者に概念魔法【時間】を覚醒させた。プロム、お前の成果は想像以上だ。だが――それと同時に、お前が犯した失態も見過ごすわけには行かない。プロム、貴様は勇者の1人に逃げられたな? 」


 再び氷のような視線で睨まれ、わたしは身体を硬直させてしまいます。そんなわたしを見てお父様はふっと溜息を吐いたかと思うと。


「まあこれほど大きな成果を挙げたのだ。1つくらいのミスは許してやろう。ただ、あの魔女に対抗するにはどうしてももう1人の勇者の力――そしてあの底しれない女騎士の力が必要だ。だから貴様には引き続き勇者パーティーでチェリー、そしてアリエルの捜索を命じる」


 お父様のその言葉を聞いた途端、わたしに震撼が走りますチェリー様を勇者パーティーに連れ戻すことは言われなくたってどこまでもするところです。でも、なんであのアリエルを? それはどうしても納得いきません。わたしはお父様に対する恐怖も忘れて口を開いてしまいます。


「お言葉ですがお父様。アリエルはむしろ勇者パーティーを引っ掻き回す、クラリゼナ王国にとって害となる存在です。だからいっそのこと、見つけ次第殺してしまった方が」


「貴様は国王である僕に口答えする気か? この妾の娘が」


 お父様にそう言われた瞬間。わたしは泣きそうになります。そう、お父様はわたし達子供のことを本当の子供だと言ってくれることは絶対ありませんでした。わたしを含めた全ての王子・王女はお父様の正妻である王妃から生まれているのに、「あんなのは僕の本当の王妃なんかじゃないし、貴様らは僕の本当の子供なんかじゃない。必要だから孕ませただけだ」ということを平気で言ってきました。お父様が何を意図してそんな酷いことを言ってくるのかわたしにはわかりません。でもそう言われる度にわたしの心は深く傷つくのでした。


 そんなわたしに、お父様は追い打ちをかけるように言葉を続けます。


「あの魔女と対峙した貴様ならわかるだろう。あの魔女に覚醒した勇者2人が集まったところで勝てるとは限らない。何事も保険だよ。まあ、勇者でもなければ概念魔法を持たない小娘に過度な期待をしすぎるな、という貴様の言い分にも全く理がないわけではないがな」


 そこまで言ってからお父様はニヤリ、と口元を歪めます。


「と、言ってもいつまでも勇者1人と2人きり、というのは厳しいだろう。そんなお前の勇者パーティーに、2人の臨時メンバーを補填することに決定した。――入ってきなさい」


 陛下のその声と共に謁見の広間に入ってきたのは2人の少女でした。1人は見るからに魔法使いと言った風貌の黒ローブを被った少女。もう一人は忍者装束に身を包んだ少女。その2人はその見た目もさることながら、その登場はそれ以上に異様でした。だって、2人は王の前だというのに互いの手の指を絡ませながら見つめ合い、わたしはもちろん、国王陛下であるお父様のことすらも眼中に入っていないかのような態度で、完全に2人きりの空間を創った状態で入ってきたのですから。そんな2人はわたしの隣まで歩いてきて、ようやく絡めていた指を離してわたしの方を見てきます。


「か、彼女達は……」


「はじめましてお姫さまっ! あたし、ヨツバっていいます! クラスは錬成師でぇす! そして隣の彼女が! 」


「……暗殺者のアオイ。ヨツバの彼女」


「あたし達、3ヶ月前に魔法学園を卒業したばかりなんです。そして卒業したら結婚式を挙げようって誓い合っていた。そして、魔法学園ではお世話になったアリエルお姉さまとは絶対あたし達の結婚式に来てくれるって約束してたのに……」


「アオイ達、お姉さまに約束を反故にされた。だからアオイ達、勇者パーティーを抜け出した困ったお姉様を地の果てまで追いかける。そして絶対にアオイたちの結婚を祝わせる」


 そこまで言うと、ヨツバとアオイは再び、お互いに酔ったようにお互いのことをまた見つめ合います。


「……」


 よくわからないあのビッチに対する愛のベクトルの向け方にわたしは正直戸惑っていました。そこでこれまで黙っていたお父様が再び口を開きます。


「自己紹介があった通り、彼女らはアリエル君のことを慕っているアリエル君の後輩だ。アリエル君ほどではないにしろ、それぞれ優秀な成績を収めて魔法学園を卒業した有力者だ。そして――恐らくアリエル君を見つけ出し、勇者パーティーに引き戻すことに関しては右に出る者がいないエキスパートだろう。彼女達には少し歪んだ愛をアリエル君に向けているわけだからな。だからこれからはこの4人でチェリー君と、そしてあのアリエル君を探したまえ。――もちろん、貴様には拒否権はない」


 そうして。わたし達はヘンテコな百合カップルを勇者パーティーに迎えることになったのでした。



◇◆◇◆◇◆◇



 ユリウスとプロムがおよそ親子とは思えない邂逅をしてから数十分後。プロムたちは既に帰し、玉座の間にはユリウスだけが残っていた。そこへ。


「80年、か。ほんと、国王としての職責を放り出して単に個人的な恨みのために漆国七雲客を私物化しただけじゃ飽き足らず【時空】の時間で疑似的な不老不死を実現して70年も国王として即位し続け、自分の実の子でさえ復讐のための駒としか見ていない。一国の君主の風上にも置けないねぇ」


 唐突にユリウスの背後から声がした。気付くとユリウスの背後には顔を黒いベールで覆った女性がいた。そんな彼女の声にユリウスは心底鬱陶しそうに目を細める。


「ハナか。貴様こそ【時空】の力を悪用して300年以上も生き続けては、歴代のクラリゼナ王朝を言葉巧みに騙し、【時空】を王国の支配下に置き続けてきた張本人じゃないか。強大な力を持ちすぎた僕の元婚約者・キャロに対する復讐に【時空】の力を使う、と言うことだって元はと言えば、貴様の淹れ知恵だろう」


 そう言われた黒ベールの女性は不意に高笑いしだす。そう、そこにいたのは七大国不戦条約調印以前からクラリゼナ王家に出入りし、自国の漆国七雲客を国家保有するように陰で誘導してきた張本人にしてクラリゼナ王国枢機卿のハナだった。


「あっはっは、確かにそうだね。復讐のための時間を稼ぐために【時空】の力で無理矢理延命し、そして概念魔法の中でも最強クラスに入る【原素】に対抗するために『最強の漆国七雲客』を育てあげるように誘導したのはもちろんアタシ自身よ。そんなアタシの提案を、あなたはアタシでさえ引くくらい躊躇なくやってきた。そのこと自体はクラリゼナ王国に【時空】を保有し続けてもらうことが目的のアタシとしては願ったり叶ったりよ。それ以外の所で復讐のためにいくらあなた非道なことーー実の子を道具としてしか見ていなかろうが、『勇者』を使い潰そうが、そんなことはアタシにとってどうだっていい。でも」


 そこでハナは言葉をいったん切る。次の瞬間、ベールの奥の彼女の目に、刃物のような鋭い光が宿る。


「なんで『勇者』の力でどうにかしようとしない? なんで貴族ですらない小娘の力に頼ろうとする? 」


 ドスの効いた声で尋ねるハナ。しかし、そんな声のトーンの変化にもう50年以上も一国の君主を続けた、未だに初恋の失恋に囚われた少年はそんな脅しに全く動じた様子はなかった。


「【原素】がどれだけ厄介な力だということは貴様だって知ってるだろう? 僕はこれまで1度しか直接目にしたことがないが、他国の漆国七雲客を継ぐ次と撃破する力のあった数世代前の【時空】の命を難なく殺し、対漆国七雲客戦闘集団を擁する神聖国家ラミリルド皇国を1人で壊滅させかけたとも聞いている。念には念を入れるに越したことはないだろう? せっかくキャロを見つけたのに奴を殺せなければ意味がない」


 何のためらいもなくそう言い切るユリウスにハナは「もうこの傀儡人形を使うのも潮時だな」と呟いたが、その声はユリウスには届かなかった。


「わかったよ。そこまで君が言うならばやってみるといい。まあ、あの化け物じみた少女が君や君の娘の言いなりになるとは思えないけれどね」


 そう言ってハナは暗闇に溶けるようにして消えていった。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。これにて各国の謀略が渦巻く第5章完結、そして通常ナンバリングで遂に100話まで更新することができました。ここまで連載できたのは偏にいつも応援してくださっている皆様のお陰です。本当にありがとうございます。


 と、5章で色々話を広げたところで恐縮なのですが第6章が全然書き進められていないため、また一旦更新をお休みさせていただきます。第6章は再びアリエルとミレーヌがメインの物語にアルテミスの密約陣営が絡んでくるお話を構想しています。自分が楽しいと思える納得できる出来で、遅くとも8月にはお届けしたいと考えています。なので、また気が向いたら覗きにきてくださると幸いです。それでは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] プロム好きです……。こういう第三者的な特殊な立ち位置のキャラはその後の予測がつかないですし、動かしがいがあるように感じられます。 誰も彼も後ろ盾がないような状態で、それぞれの運命が交錯して…
[良い点] このクソ野郎まだ生きてたのか、何もかもこいつが悪いってのに [一言] 後輩2人との約束を持ち出されるとアリエルは断りづらいだろうなぁ
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