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でん☆いぬ~『殿下の犬』と揶揄される少女は拗らせツンデレ第八王子殿下の幼馴染み~  作者: 砂臥 環


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8/12

⑧ツッコまざるを得ぬのです。

 

 ユリアンナ様の手を借りて態勢を整えたロウルースは、丁寧にお礼を言った。

 そこへ割って入る形で、黒服の人がユリアンナ様に手招きをする。例のテンプレ(以下略)女子の手を制した彼である。

 ピースと呼ばれたその人が、どうやら一番の側近らしい。他の黒服の姿は見えなくなったが、彼だけは残っている。


 それからユリアンナ様はロウルースに「少し待ってね」と非常に澄んだソプラノで声を掛けると、ピースの方へ行った。

 何か話をしているふたり……美女と黒服、絵になるふたりをロウルースはなんとなく眺めていた。


 ユリアンナ様はビックリした顔をしたり、急にうつむいて口を塞ぎ……プルプルと身体を震わせたりしている。

 ピースといるときのユリアンナ様はそれまでの淑女の様よりも自然な感じだ。付き合いが長いのかもしれない。


(なんだか可愛い。 リリアさんに見せてあげたら、さぞかし創作意欲が湧くんじゃないだろうか) 


 話が終わったのか……美しいお(かんばせ)に柔和な表情を称えたユリアンナ様は、こちらへと歩み寄った。


「ウィローフィールドさん、今日は色々大変でしたわね……お疲れになったでしょう? ウチの車で送らせますわ」

「え?! そそそそんな! 滅相も御座いませぬ!!」


 遠目で見てるとなんか可愛らしかったけれど、近くだと迫力が違う。ロウルースは緊張からまた変な口調になった。


「遠慮なさらないで? ……もう表に馬車を回してありますの。 さぁ参りましょう」


 断るロウルースに、あくまで柔和にユリアンナ様は返すが、そこには容易く断れない強制力のあるオーラが漂っている。

 悪気はないのだろうが……強い、圧が。

 更に親しげに名前で呼び合う提案をされると、ロウルースにはもう馬車も呼び名も断る勇気などなかった。


 若干の畏怖を覚えつつ、ユリアンナ様に促されて学舎の正面玄関の方へと移動する。

 道中、不意に彼女がこう言った。


「ロウルースさん、きっと面白いものが見れましてよ」

「……はい?」




 ロウルース達普通科の使用しているメイン校舎から、正門まであと100メートル程というの距離まで歩いたその時だった。


「……ロォォォオォォォゥ!!」


 徐々に近づいてくる自分を呼ぶ声に振り向くと、凄いスピードで自転車がこちらへと向かってくる。


「──えっ?! リリアさんと……リーン?!」


 ロウの名を呼ぶのはリーン。

 でもまず見えるのは……リリア嬢。


(っていうか……) 




 な に そ の 自 転 車 ?!




「ちょっ……! 殿下、速すぎですっ!! 止まらな……あぁぁァ!!」


 ──ガシャーンっ!


 向かって右側に旋回し、大きな音を立てて自転車は止まった……転倒して。


「だっ大丈夫?!」

「……ピース!」

「はっ」


 これは一体どういう状況か。

 ロウルースが動揺し困惑してる間もピースと呼ばれる側近はリリア嬢の救出にむかう。

 ロウルースもふたりの方に駆け寄った。


「ロウ! 大丈夫か!?」

「それこっちの台詞だよ?!」

「──うっ……!」


 リーングラッシュは立ち上がろうとしたようだったが、立ち上がれず咄嗟に足首を掴む。


「足、痛めたの!?」

(ちげ)ぇ……まぁ違くはないが……」

「えぇっ?! どっち!!」

「どうでもいいだろうが!」


 そこへ、ピースに抱え起こされたリリア嬢がこう説明する。


「で、殿下は、一刻も早くロウルースさんの元へ駆けつけようと……走って足を……」

「えっ……」

「それも違ぇ!」


 しかしリーングラッシュは何故か否定する。

 照れているという感じでもなく。


「いいえ、事実ですよ」

「……えぇ?! だからどっち!?」

「事実です(キリッ)」

「ニュアンスに作為がある!!」


 どうやら足を痛めたのは今ではないようだが、そもそも心配を掛けてしまったことが良くなかったのだろう。


「そっか……心配して駆けつけてくれたんだね……」


 それはとても申し訳ないし……有り難い。

 それに、嬉しい。


 ──だが、ロウルースにはアレを無視することはできない。


「駆け付けて……()()で……」


 彼女の言葉に、そこにいる全員が無言でソレを見つめた。

 そう、


 倒れている──二人乗りの自転車を。



「「「「「……」」」」」


「………………っていうか…………

 なに?! この自転車あぁあぁぁ!?!」



 今日は只でさえツッコむのを我慢していたロウルースは流石に耐えきれずツッコんだ。こんな浮かれトンチキな自転車をスルーするのなんてロウルースには無理だ。絶対に無理だ。


「バカンス気取りなの?!」

「やかましいわ! いいから手ぇ貸せバカ!!」

「あぁ、ごめんごめん……大丈ぶっ?!」


 リーングラッシュはロウルースの手を借りてなんとか立ち上がると、そのまま彼女の頭に身体を預けた。

 高身長の彼の身長は35㎝近くもロウルースより高いため、ちょうど良い高さと言えないこともない。支える台的な意味で。


「重い……重いよっ……リーン……!」


 鞄と違ってガチな訴えである。

 だが彼はそれを無視し、体重をかけたままロウルースの頭をわしわしと乱暴に撫でる。


「?!」


 表情が見える状況にないが、心配してくれていたのはわかる。ロウルースは若干不本意なものの……重いのは我慢することにした。


 ──ただし、このあとリーングラッシュはとんでもないことを言い出すのだった。


「ロウにちょっかいをかけたのが……まさか貴様だとはな……ユリア!!」


「……ええ?!」


  そ れ は 違 う 。


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