⑤連れ拐われて囲まれました。
リリア嬢とロウルースはリーングラッシュがいなくなったあと、流れでなんとなく会話を交わす感じになった。
「えっ? じゃ本当に告白じゃなかったんだ?」
「ええ、次の展覧会の絵のモチーフというか。 モデルになっていただけたらと。 いえ、モデルになってくれなくても……実は私、ちょっと制作で悩んでたものですから。 お会いしてなにか掴めたら、と……思ったのですが……」
ちらっと申し訳なさそうにロウルースを見ると彼女は言う。
「私、ロウルースさんと殿下のやりとりを見ていたら……その、なんだか面白……っいえ、どんな関係か気になってしまって……なにか制作のヒントになるかと」
遠慮がちに見えるが自分の制作に関しては図々しいというリリア嬢の本性が垣間見え……というより最早スッケスケ。だが逆にロウルースはなんだか安心した。
全ては己の制作の為、というのはわかりやすくて良い。好感が持てるくらいだ。
リリア嬢は美少女なだけでなく、それなりにいい子。多分いい子だろうと思う。ちょっと変わっているだけで。
その見た目に反する淑女らしくない言動へのギャップはあるものの、彼女は芸術家。ならば変人なのは普通の様な気もする。(※個人のイメージです)
「……ロウルースさん、よかったらお茶でもいかがですか? 私、むしろロウルースさんに興味が沸きました!」
大きな目をキラキラ輝かせて彼女がそう言うので、ロウルースはちょっとだけ引いた──
その時だった。
突如現れた女子軍団に両腕をつかまれたロウルースは、囚われのエイリアンのような態勢であっという間に連れて行かれてしまった。ロウルースは146㎝という低身長を呪った。
連れて行かれたのは魔術訓練で使用する訓練舎の裏……現代日本で言うなら体育館裏である。
ロウルースは訓練舎の壁ぎわに向かって、ドンっと乱暴に押された。
(……なんていうベタさ……!!)
突然始まった昔の学園モノ恋愛小説で読んだことのあるベタなヒロイン展開にそうツッコミたいが……火に油を注ぐことになりかねない。
いくらロウルースがツッコミ気質とは言え、その辺の空気は流石に読める。
(ここは乗って、ベタな台詞で返すべき……!? 返すとしたら『な……なんなんですか? あなた方は……!』かな……)
おそらく、いや間違いなくこの頭のイタい方々は『リーングラッシュ殿下FC』なる組織の面々だろう。聞くまでもないが、空気を読んだロウルースはとりあえずテンプレ展開に乗っかっておくことにした。
満足したら帰ってくれるのを期待して。
「私たちは『リーングラッシュ殿下FC』!」
(──聞く前に名乗られた……だと?!)
なんと、用意していた台詞を出すタイミングを逃してしまった。
マイペースなロウルースは空気を読めても自制が緩いタイプだ。そして応用力はあんまりない。その自覚がある彼女は『こんなことならツッコむ方を選べば良かった』と後悔するも、もう遅い。
「ワタクシ達が正規ルートで手に入れた絵姿程度で我慢してる中……貴女は幼馴染みというポジションを良いことに、リーングラッシュ殿下の回りをチョロチョロチョロチョロ……ハッキリ言って目障りですわ!」
「「「「そうよ!そうよ!!」」」」
代表格の女子がそう怒鳴りつけると、周りの女子達はこぞって賛同する。
(っていうか非公認組織の正規ルートってどういうこと!?)
文句よりもそれが気になり、俄然そうツッコみたいのをなんとか堪える。
なるべく穏便にやり過ごしたい。
「そう仰いましても……」
(……今日は厄日なんだろうか)
思えば碌なことがない……というか痛い目しかみていない気がする。
誘いを邪魔され、鞄を持たされ、こめかみをグリグリされた挙句にデコピンをくらい、『犬』呼ばわりされたあげく、変な人達に絡まれる……
しかしよく考えたら最後以外全部リーングラッシュにされたことである為、概ねいつものことな気がしてきたロウルースは妙な諦念と共に遠い目になった。
「……ちょっと! 聞いてらっしゃるの?!」
「えっ?! あっ、ごめんなさい……なんですか? 」
勿論聞いてなかったが、迂闊にも馬鹿正直に謝ってしまったせいで、彼女らの怒りを煽ったらしい。
「キィィ~! なんたる厚顔無恥さ! 学園モノのヒロインよろしく天然ぶって庇護欲をそそろうったってそうはいきませんわよ!!」
「「「「そうよ! そうよ!!」」」」
(そんな恋愛小説に詳しいのになんでわざわざこんなベタな場所に?! つーか「キィィ~!」って言った!!)
「そっちこそどうして似非恋愛小説テンプレ的な悪役を踏襲するんだ! っていうか周りも「そうよ」しか言ってないの逆に凄い!!」
あまりの出来事に途中から脳内で処理できなくなったのか、無意識に口に出してしまっていた様だ。こいつァウッカリである。
「会員No.一桁台のワタクシをあんまりなめないで頂戴!」
「ひいっ! 一体会員何人いるんですか?!」
ぶちキレた会員No.一桁台のファンである中央の女子が、平手をかますべく右手を上げる。
ロウルースは思わず目を瞑った。──しかし振り上げられた筈の右手は飛んでこない。
「……?」
そっと目をあけると、右腕を掴まれ青ざめた会員No.一桁台の女子。そして……
彼女の右手を掴んで平手を制している人──逆光を背に佇んでいる、誰か。
「あ……あなたは…………」