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でん☆いぬ~『殿下の犬』と揶揄される少女は拗らせツンデレ第八王子殿下の幼馴染み~  作者: 砂臥 環


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11/12

⑪残念ヒーロー。

 

 リーングラッシュは『犬』と言ってしまってから、心の底でずっと考えていた。『犬』に代わる単語で『婚約者』と言わずに済む、最も相応しい単語を──

 そして既に思い付いていたのだ。


「コイツ……ロウルース・ウィローフィールドは……」


 すうっと息を吸い込んでリーンはその一言を発する。



「俺の()()だ!!」



「「「!!!」」」



 ── 俺 の ツ レ 。



「「「…………」」」



 ロウルース、ユリアンナ様、リリア嬢の3人は互いに見合った。無言での会話……皆、気持ちは同じ。



 ──『ツレ』って………何??



 そんな3人とは対照的に、リーングラッシュは少し照れた感じで頬を染めつつも、「どうだ!言ってやったぜ!!」とばかりのドヤ顔をしている。

 この状況を見かねて、思わずピースは口を出した。


「お嬢様方…… 僭越ながら 『ツレ』というのは下町のスラングでして、 恋人や特別仲の良い友人などを指す代名詞です。 強いて言うなら『相棒(バディ)』でしょうか」


 恋人や特別仲の良い友人など。


 とてもざっくりしている。

 そして『相棒(バディ)』は場合によって、犬にも使う単語である。


「殿下……うまく逃げましたね……」


 ボソリとリリア嬢が呟いた。不敬にも侮蔑の籠った非常に冷たい瞳で。




 リリア嬢の言葉など聞こえてないかの如く完全にスルーし、リーングラッシュはロウルースの肩に手をかけた。


「そういうことだから、今後一切コイツにちょっかいを……」

「あ」


 ようやく首の自由がきくようになったロウルースは、リーングラッシュの顔を微妙な表情で見上げた。……全く以て今更言い辛い。

 しかもリーングラッシュが『言ってやったぜ!』的な顔をしているのが、また。


「その……ユリアンナ様は絡まれてるのを助けてくれただけで……」

「……は?」


『何言ってんの?この人……』的なニュアンスで返事をされ、おもわずロウルースは顔を背ける。


「そういえば……ロウルースさんを連れ去ったのはこの方ではなかったです……!」

「は?!」


 今度の『は?!』にはリリア嬢に対する非難がハッキリと含まれていた。


(じゃあ俺は何のためにこんな事を……?)


 ハッとしてリーングラッシュはユリアンナ様を見る。

 いつか見たことのある、この表情──それに気付くと同時に、彼の脳内に、自分がやったことが走馬灯の如くスクロールした。


 そしてようやく気づき──驚愕。


 そう、彼は気づいてしまったのだ。

 足を挫き、乗りたくもないタンデム自転車に乗ってまで駆け付けたが、ロウルースのピンチには間に合っていなかった事に……


 なのにドヤ顔でヒーローっぽい(『アイツは俺が守る』的な)発言を堂々としてしまった事に……


 しかも、嫌いな人間の口上にまんまと乗せられ、それに全く気付いてなかった事に……!


 ユリアンナ様はニッコリと満足そうな笑みを浮かべている。そう、彼女はリーングラッシュのこの顔が見たかったのだ。


 澄んだソプラノで彼女は言う。


「ところで殿下、足の方は大丈夫ですの?よろしかったらお送りして差し上げましてよ」

「だれが乗るかぁぁぁぁぁ !!!!!!」


 リーングラッシュの怒号が返る──


 ユリアンナ様以外の3人はあまりの居た堪れなさに、ふたりのやり取りを聞きながらも決してリーングラッシュの方を見ることはしなかった。




「じゃあロウルースさん、帰りましょうか」


 しれっとユリアンナ様はロウルースに声をかけた。こういうところがリーングラッシュに言わせると『本っ当にいけすかない』らしい。


 彼はロウルースの肩に置いた手を少しだけ自分の方へ引き寄せ、威嚇するようにユリア様に言う。


「だから一切コイツにちょっかいを……」

「──ユリアンナ様」


 ロウルースはそれを遮って、ユリアンナ様に声をかけるとお辞儀をした。


「今日はどうもありがとうございました。 ……折角ですが、私も歩いて帰ろうかと思います」


 へへへと淑女らしからぬ照れ笑いをし、頭をかく。


 ──なんだかもどかしい。

 よくわからないモヤモヤに、胸が詰まる。


「そう……お気を付けて」


 にこやかな笑みを崩さずそう言うユリアンナ様にロウルースは再び頭を下げ……その後リリア嬢に声をかけた。


「リリアさんは……」

「いいえ! 私は大丈夫です!」


 彼女はロウルースが言い終える前に断って、倒れたままの二人乗り自転車を起こしにかかった。


「あ………よかったら使われますか?」

「いや……大丈夫……」


 リーングラッシュの足を気遣ってくれたのはわかるものの、それには流石に乗りたくない。


「つーか……要らないだけじゃねぇのか?」

「そんなことありませんよ! こんなのなかなか手に入りませんよ?!」


 リーングラッシュが普通に喋る相手は珍しい。

 二人はお友達になれたのかもしれない……そうロウルースは思ったが、何故かあんまり嬉しくはなかった。



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