⑩ユリアンナ様はかく語りき。(※ユリアンナ様一人称)
ごきげんよう、皆様。
私はユリアンナ・バードランド。
バードランド公爵家が嫡子であり、この学校の生徒会長であり、『リーングラッシュ殿下をそっと愛でる会』の会長でもありますの。
私は文字通り、殿下をそっと愛でております。
そもそもは冗談というか、嫌がらせ的に作ったこの『愛でる会』──敢えて組織的な形をとることで、殿下のファン達の統制に役立っているのだからわからないものですわね。
──嫌がらせ?
ああ……この組織は『私がリーングラッシュ殿下で萌える会』に相違ないのです。
だって怒ったり焦ったりする殿下は……本当にお可愛らしいんですもの♡
だからロウルースさんには感謝しておりますのよ?
是非とも『ツンツンツンデレツンツンツン』位のペースで、私に良質な萌え成分を提供して頂きたいですわね!(※良い笑顔でサムズアップ)
特に婚約者云々で殿下に頭を下げさせた時の快感といったらありませんでした。
なんだかんだで表には出なくていいのに、表に出ずともおモテにはなるリーングラッシュ第八王子殿下です。
庭師と乳母の娘であるロウルースさんとの婚約は、彼を持て余しつつも愛してやまない陛下が許しても、いざ婚約者であることを詳らかにしてしまえば周囲への牽制が難しい。
親族であり、密かに婚約者がいる私を婚約者であるように見せ掛ける──判断としては及第点でしょう。
合格とすんなり言えないのは、彼の独占欲が強すぎて私に彼女を預けないところですわね。
殿下の、彼女への当たりが強いのは、周囲を気にして──なんてことはなく、勿論ただの素です。
……拗らせてますわね!
だが……そこがいい……!!(萌)
そんな殿下ですけれど……
あらあら、今回、やらかしてしまった御様子。
御自分でやらかしたのに逆ギレで走り去るとは……些か古い感じではありますが、なかなかヒロイン的で素敵ですわね。
流石リーングラッシュ殿下ですわ!(揶揄&萌)
そして件の美少女・アーマーマウンドさんは、なかなか良い仕事をしますこと……彼女とは良いお友達になれる気がします。
絵の才能も買われているようですが、なにより情熱が素晴らしい。パトロンとしての出資も考えてみようかしら。
殿下の動向は気になりましたけれど、私が殿下を追うのは学園内だけと決めておりますの。だって、わかりすぎたら面白くないではありませんか。
例えば急に殿下がロウルースさんに優しくなったら……『ええ?! 私の知らない間に何が?!』となるでしょうね。
でもそれらを全て知ってしまうのは、興醒め……野暮というものですわ。
──では何故学園内では追いかけるのか?
うふふ、それこそ野暮な質問ですわ。
乙女心は複雑ですのよ。
そんな訳で残された二人を見ておりましたの。
だって殿下ったら去り際に、自分がいなくても十二分に面白……興味深い状況を作り出してくださってるんですもの。
アーマーマウンドさんはなかなか良いご趣味をお持ちのようですわね。行動力も含め、これからの彼女に期待が高まります。
そんな折、ロウルースさんが拐われてしまいました。
ヒロイン的には大ピンチな出来事にも関わらず、囚われ運ばれる様のコミカルさになんだかほっこり。
それもまたロウルースさんの魅力と言えますわね!
アーマーマウンドさんが呼びに行った模様ですが、殿下は結構遠くまで走ってしまわれたのでまず間に合わないでしょう。
致し方無い、私が出るしかありません。
まぁ最近の『FC』の方々の行為は、少し目に余るところがありましたしね。
ちょうど良いから粛清してしまいましょう。
そして案の定、殿下は間に合いませんでした。(笑)
ヒロイン役はできてもヒーロー役はまだまだなのが、我らがリーングラッシュ殿下ですわ。
表舞台にも出てしまいましたし、折角だからロウルースさんと仲良くなっておこうかしら……そう思っていると、ピースの元に報告が上がった様子。
ええ、勿論殿下の動向の、ですわ♪
学校内だけじゃなかったのか?
イヤだわ、ロウルースさんが学内にいるので戻ってくるのは必至……
ですから今回はセーフに決まってます。(※ユリアンナ様がルールブックです)
「ピース、首尾は?」
「殿下は順調にこちらに向かっております。 後5分程でいらっしゃるかと」
「そう……随分かかったこと。 他に何かある?」
「例の特美の女生徒と……その……二人乗り用自転車でこちらに向かっているようです」
ピースは件の自転車の名称がわからなかったからか、ちょっとだけ言葉を詰まらせました。まぁ、無理もありません。
私も存じませんでしたもの。
ちなみに『タンデム自転車』が正式名称らしいですわよ。
聞いてもピンとこなかった私はピースに尋ねました。きっとタンデム自転車と殿下があまりにも合わなくて、想像できなかったのでしょう。
「……二人乗り用……って?」
「観光地や避暑地で見ることのある、アレです」
「!」
想像が追い付いた瞬間の衝撃は、きっと忘れられない思い出となるでしょう。
驚き、そして私は思わず口を手で塞ぎました。
観光地でもなんでもないところで、麗し過ぎるリーングラッシュ殿下がタンデム自転車に乗るお姿──
込み上げてくる笑いを堪えるのが精一杯で、うつむいてプルプルと身体を震わせるしかありませんでした。
ピースは表情を崩さずに答えたというのに……私も淑女としてまだまだですわ。
「それは一見の価値がありますわね」
殿下と私ユリアンナ・バードランドは、従姉弟。かつては婚約の話も挙がりました。
幼い頃の話とは言っても、既にリーングラッシュ殿下にそれを遂行する意思などさらさらございませんでした。
そもそも殿下は私がお嫌いですもの。
幼い頃から殿下をからかったりいじったりすることを何よりの楽しみとしていた私ですから……まあ仕方ありません。
だって怒ったり焦ったりする殿下は本当に可愛いんですもの♡(※2回目)
私にとって、殿下は可愛い弟分でした。ですが恋ではありません。育った今や、萌え成分以外の何者でもありません。
特に、ロウルースさんの存在を知ってからというもの、自ら『成分』を生成しなくても上質な『成分』が手に入る上、なんだかキュンキュンしますもの。
私の乙女心は裏方で十二分に満たされているのです。これを『推し』というのでしょう。私はカップル萌えなので。
ですが、私も今回の件で表舞台に出てしまったことですし……なにより殿下です。
ヒロインのピンチに全く間に合ってなかった事など、露ほども知らず、何故かタンデム自転車で駆け付けるヒーロー……
こんな美味しい構図を放ってはおけません。(笑)
折角ですもの、殿下にもヒーローらしい場面を作って差し上げないといけません。
ついでに先の挽回チャンスでも与えてあげようかしら。
わくわくしながら私は、ロウルースさんを連れて殿下がいらっしゃるのをお待ちすることにしました。
どうせですもの、タンデム自転車に乗ってらっしゃる殿下をロウルースさんと一緒に見たいですわ。
──まさか後部座席の方に乗っているとは、思いもよりませんでしたけれど……
流石!
お見事ですわ!!
そんな格好いいところがひとつもない殿下ですけれど……やってきました挽回チャンス!
果たして殿下はなんとお答えになるのかしら?
皆様、次回をお楽しみに!




