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淡い恋心が狂気に変わるまで  作者: 安倍隆志
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手紙

「隆志へ




 急にお手紙渡してごめんね。びっくりした??


 まぁ私だったらびっくりするかな。


 何でいきなり手紙を書いたかというとね。前に私のこと心配しくれたのにちゃんと答えなかったことがあるでしょ??


 だからそれについてきちんと書こうと思って。口では話にくいからさ。




 簡単に言うと最近嫌なことがあったんだ。


 本当は最近じゃなくてずっと前からなのかもしれないけど・・・。


 私はあまり嫌なことには気づきたくないというか。気付かないように毎日過ごしているんだよね。


 辛いことに気付いてしまったら笑えなくなってしまう気がして。


 私あんまり強くないと自分のこと思っているんだ。 


 人にはいつも笑顔だし悩みなんかなさそうだよね。とかきっと悩みがあってもすぐ解決してしまうんでしょ??とか。何か悩みがない強そうな女の子のイメージになってるけど、実はそんなことないんだ。


 私だって普通に悩むし、なかなか解決策だって見つからないし。きっと人一倍悩みは多いし、すぐ心が折れてしまうし、寂しがりやだし、あんまり一人では何もできないし。とにかくそんなに強くないんだよ。


 だから最近あった少し嫌なことでちょっと落ち込んでしまっているというかどうしたらいいかわからなくなってしまっているというか。


 でも私って強いって思われてしまっているから誰に相談していいかわからないし、相談したら私が私でなくなってしまいそうで怖いし、そんなことをずっと考えていたら、隆志君の前で泣いちゃった。ごめん。


 何か隆志君とはほとんど話したことなかったけど、本当に私のことを心配してくれているのが伝わってきたし、人にくだらないこととか秘密なんかは絶対言わなそうだと思ったから安心しきっちゃって・・・ごめんね。




 ・・・ってかなり本題からずれていってるよね。


 ごめん。




 結局何があったかというとね・・・。


 最近両親が上手くいってないんだよね。実はずっと前から上手くいってなんかいなかったんだけどさ。


 なんせ気付かない振りしちゃってたから・・・。現実逃避ってやつだね。


 まぁ真剣に考えたらずっと上手くいってなかったんだよね。


 でも何かいわゆる冷え切った家庭とかではなくてさ。


 気付かないといえば気付かない仮面夫婦だったりしたんだよね。きっと。


 ほんのちょっと前って言ってもハワイに行く前あたりかな。その頃に上手くいってないことを決定しちゃうような出来事があってさ。


 お父さんが浮気しちゃったみたいなんだよね。


 だからお母さんがもう帰ってこなくていいて。でも、お父さんは離婚したくないみたいでさ。


もうごちゃごちゃだよ。


 それからずっとお父さん帰ってきてないんだよね。


 お父さんのこと前からあまり好きじゃなかったけど、本当に大嫌いになっちゃったな。




 どうしたらいいんだろ。


 大嫌いではあるけど・・・。


 やっぱり家族がバラバラになるのは嫌だというか・・・。


 やっぱりさ、仮面であってもいいから、家族は仲良くあってほしいというか。


 無理なのはわかってるよ??


 嫌いな人と笑い合うなんてだけでも苦痛なのにずっと一緒に暮らさなきゃならないっていうのはどれだけ苦痛かってこともさ。


 それでも一緒にいたいんだよね。


 すごく矛盾してるってのは自分でもわかっているんだけどさ。


 でも、人の気持ちなんていうのは理屈じゃないじゃん。


 自分でも自分の考えていることなんてほとんどわからないよ。それに明日になったら考えていることがまた変わるかもしれない。


 そんなこと誰にもわかることじゃないけどさ。


 私は絶対なんてことはこの世にはなくてさ。


 その中でも特に人の気持ちっていうのは曖昧なもので不確かなものだと思うんだ。


 何かごめんね。話がそれちゃって・・・。




 自分でも何が言いたいかわからなくなっちゃたけど、要約して言うと今私はどうしていいかわからないんだよ。


 こんなこと言われても困るよね??


 何て返せばいいんだよ。とか思うかもしれないけど。誰かに話したかったんだ。


 別に隆志君に答えを求めているわけでもないし。どうにかしてくれって頼んでいるわけでもないんだけど。


 何かごめんね。


 最後まで読んでくれていたとしたらありがとうね。




               由美より」




 僕はもちろん最後までこの手紙を読んだ。始めに思ったことは(どうしたらいいんだろう)だった。


 僕は好きじゃない人同士が一緒にいたって何も生まれないし、悲しみを生むだけだとも思う。


 例え、仮面夫婦としてこの先ずっとやっていけたとしても、それは幸せなことではなく不幸せなことだ。


 誰も何も得はしないが、損だけはする。


 嘘の幸せの中には何も生まれない。


 頭の中が疑問符に包まれるだけだ。


 そんな人生楽しみなどあるはずがない。




 僕の両親は、僕が小学一年生に上がる前に離婚した。


 当時は何で離婚なんかしたのだろうと思っていた。離婚なんていう選択肢は選んでもらいたくはなかった。


 僕が、幼稚園から小学校に上がった時、学校に行く少し前に苗字が変わったことを知らされた。そのことを聞かされた直後は何も感じることはなかった。あぁ~、そうなんだぁ~、としか思わなかった。


 しかし、実際に小学校という今までに経験のない舞台に立ってみると苗字というのがいかに大切かというのを思い知らされた。


 当然のようにクラスには幼稚園が同じだった人がいるわけである。


 すると大抵の人物が名前は覚えていなくとも、苗字だけは覚えているものなのだ。


 そこで一番初めに浴びせられる言葉は「お前どうして苗字が変わったんだよ。」という心ない言葉だった。


 そこで上手い返しが出来るのならば、すぐに解決されるのだろう。


しかし、その当時の僕は社交的な性格ではなく、あまり話をしたことがない人と話すだけでも緊張してしまっていた。いわゆる人見知りだ。


そんな僕は必然的にいじめの対象となってしまう。友達ができるどころか人生が苦痛になるようなことをされるのだ。


まだ小学一年生だから、過激なことはされなかったが、辛かった。皆に元の苗字をけなされたような声で連呼されるだけで腹が立った。


僕はこの時期、両親が離婚してしまったということもあり、塞ぎこんでいた。笑顔など滅多にみせず、楽しい話なんか一つもできなかった。


 そのため、暗い人に見られてしまった。その影響もあって僕のことをからかう人は日に日に増えていった。


 人はきっと自分より弱い生き物を見つけたいものなのだろう。


 自分より弱いものがいることで、自分は強い人なのだと思い込み安堵する。


 自分に自信がない。


 大抵の人間は自分に何らかのコンプレックスを抱いている。


 そのコンプレックスを解消するために、自分を高めるために、自分より弱い存在を作る。


 弱い者を見下すことで自分は救われ、強く生きることができる。


 人間は誰しも考えていることだと思う。しかし、皆表には出さない。


 表に出した瞬間に弱い人間だと思われてしまうから。皆強がって生きているのだと僕は思う。




本当は、誰かにそばにいてもらいたいのに何も求めていない振りをする。


 本当は、疲れているのに疲れていない振りをする。


 本当は、怒っているのに怒っていない振りをする。


 本当は、傷ついているのに傷ついていない振りをする。


 本当は、泣きたいのに泣きたくない振りをする。


 本当はお金がなくて苦しんでいるのに何とかなると強がって見せる。


 世の中そんな人間ばっかりだ。




 その中でも、自分の弱さに耐えられなくなった人がいじめを開始するのではないだろうか。


 きっと人をいじめている人は、楽しいのだろう。人が苦しんでいる姿を見ることで安堵し、気持ちを落ち着かせることができる。


 一度始めると止めることができなくなるのだろう。


 いじめることを止めてしまった後のこの物足りなさや自分の弱さをどこにぶつければいいのかわからなくなるはずだ。


 そうなってしまうとずっと続けてしまう。途中でひどいことをしていると気付いたってもう遅い。習慣になってしまっている行為を止めることはできない。彼らにとってはもうそれは歯を磨くことと同じなのだ。


 こうなったら誰かに止めてもらうまで止めることはできない。普通に止めるだけでは駄目だ。それなりの制裁を与えなければ・・・。




 僕は僕をいじめてきた奴等に制裁を与えてしまった。大したことはしてないが、相手を傷つけることをしてしまった。今となってみればそのことを後悔しているが、その当時は苦しんでいる彼等を見て罵っていた。笑っていた。


 僕は僕をいじめてきた奴等と同類だった。僕も弱い人間だ。




 結局僕は由美に何と言えばいいのだろう。


 仮面夫婦を続けるにしても離婚するにしても由美が傷つくことは避けられない。絶対に傷ついてしまうだろう。


 きっと僕のように一生消えない傷となって残るだろう。


 それは仕方ないことだ。


 それに僕が何を言ったとしても結論を出すのは由美の両親であり、僕や由美ではない。ここでいくら思案したとしても結果は決まっているのかもしれない。


 しかし、由美にそのように言うのは残酷すぎる。


 少しでも由美に希望を見出してあげるべきなのか、それとも現実を教えるべきなのだろうか。


 どちらにしても由美も既に考えていることであり、わかっていることだろう。それを改めて言うのは何とも無駄な行為であり、余計傷つけてしまうだけのような気もする。


 由美に現実逃避できるような楽しいことをして、少しでも元気づけることこそが僕にできるたった一つのことなのではないだろうか。


 わからない。


 いくら考えても答えは出ない。


 考えていても無駄だろう。


 明日話をしてみよう。


 どんなことだっていい。話していたらどうしたらいいかわかるかもしれない。わからない可能性の方が高いが、やってみなければわからない。


 僕はもう今日は眠ることにした。



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