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淡い恋心が狂気に変わるまで  作者: 安倍隆志
7/14

本番

その後は皆が喜びのあまり各々で好き勝手に叫びまくっていたので、何を言ったのかは覚えてはいないが、由美の笑顔だけは忘れなかった。




 決勝が始まるまでの時間はあっという間に過ぎた。




 ダンスの決勝はくじで決められた順で行われる。


 僕たちのクラスは三番手になった。


 僕は思ったほど緊張はしておらず、落ち着いていた。予選の時にはあんなに緊張していたのに何故だろうと思ったが、由美の手紙のことで頭がいっぱいだからなのかもしれない。


 実を言うと僕は、皆が決勝進出で喜んでいる間も由美から貰った手紙のことで頭がいっぱいだった。




そんなに気になるのなら、トイレなどでこっそりと読んでしまえばいいのかもしれないが、由美との約束を破りたくはなかった。


 僕自身、約束を守れない人は嫌いだし、守らなければならないものだと思っている。


 一つの約束も守れないような男が一人の人を守れるわけがないと思っている。


 ただの理想に過ぎないかもしれないが、これは僕にとって大事なことなのだ。


 よく男は理想主義な人が多く、女は現実主義な人が多いという話を耳にする。僕は確かにそうだと思う。


 少なくとも僕は理想主義だ。


 今まで僕が付き合ってきた女性や関わってきた女性はほぼ百%現実主義だった。


 その例としては、僕は今が幸せであればいいと考える。この先性格のずれや価値観のずれなどで、上手くいかなくなるのではないかということは考えない。


好きだから一緒にいるそれだけで幸せだからだ。今がよければそれでいい。


 これは偏見かもしれないが、これに対して僕に関わってきた女性は将来まで見据える人が多かったように思う。今は幸せだけどこの先も上手くやっていけるのだろうか。


そういうことを一人で抱え込んで考え込む。決して彼氏には相談しない。相談したって、はぐらかされるに決まっていると思っているからだ。


真剣に考えてくれるわけない。真剣に答えを見つけようとするわけないと。もちろん全ての女性がそういう考えというわけでもないし、全ての男性がそういう考えというわけでもない。


 しかし、男性と女性というのは全く違うものだ。


似ているようで似ていない。


見た目などだけではなくて、考え方や価値観が違う。それは男性同士や女性同士であっても言えることである。


 すなわち、人と人とが上手く付き合っていくのは、第一に約束を守ることであり、それによって信頼を得る。


 信頼を得た後と前とでは相手に対しての見方も大きく変わってくる。


 多少のずれやいざこざが生じても信頼を得ている相手なら許してしまうのだ。


 このことからもわかるように僕は約束というのは守らなければならないものであり、とても大切なものだと思うのだ。




 僕が考え事をしている間に一番手と二番手のダンスは終わってしまっていた。


 気付くとすぐに照明を操作することになった。


 ダンスは予選の時と同じものを踊るので僕は困らなかった。


 予選のときに照明を操作したことを鮮明に覚えていたので、記憶どおりに行った。


 自己満足ではあるが予選の時よりも上手く出来たと思う。


 この五分足らずのダンスで一ヶ月も前から準備してきたことが終わってしまう。


 この五分間のために皆はどれだけの練習を積んできたのだろう。そう思うと少し泣けてきた。


 皆輝いていた。


 皆上手だった。


 皆最高だった。


 僕の心の中では「感動」の二文字が暴れまわっていた。


 その後のグループのダンスなどあまり頭んはは入らなかった。


 自分のクラスのダンスを見終えたことで一種の達成感に満ち溢れていた。


 もう結果なんてどうでも良かった。皆そう思っていることだろう。結果よりも過程が大事なのだとどこかで聞いたことがあるような気がする。まさにそのとおりだと僕は思う。


 例えどんな結果になったとしても、一つの目標に向かって努力することは素晴らしいことだ。


 多くの人間は途中で挫折してしまう。辛いことや苦しいことが嫌いだからだ。


誰でもそういうことからは逃げ出したくなる。関わろうともしなくなる。それが当たり前だろうと思う。


 一つの目標を追っている間に新たな違う目標を見つけることや、いろんな誘惑が待ち受けている。その誘惑に打ち勝たなければ達成することはできない。


 投げ出したい。


 逃げ出したい。


 放り投げたい。


 忘れたい。


 自分には才能がないのだ。


 これ以上やっても無駄だ。


 止めてしまおう。


 隣に楽そうな道があるじゃないか。


 楽な道を行こう。


 わざわざ苦しまなくたっていいのだ。


 逃げてしまおう。


 そういう風に考えてしまうのが普通だろう。僕だってそうなのだから。


 一人では挫けてしまうかもしれないが、団体で行動すると他の人から勇気をもらうことや、あいつには負けてたまるかなどの感情が起こり続けられてしまうものだ。


 チームの力というのは偉大であり、個人では到底太刀打ちできない。


 このクラスはこんなに一致団結できたのだから、もう結果よりも過程が全てだった。




 全てのダンスが終わった後、三十分ほどの休憩があった。


 皆はクラスに戻り、この時間を何もせずに過ごした。


 三十分が経った。


 とうとう発表される。


 この仮装ダンスは上位三チームが発表される。


 二年生だから優勝は難しい。


しかし、僕らのクラスは上位三チームを狙えるくらいのダンスではあったと思う。




「では発表します・・・。」


校長先生やら教頭先生の長い話の後、ようやく発表が始まった。


「第三位は・・・。」


皆発表する先生の方を見ながら、祈るような眼差しを向けている。


「三年二組です。」


皆三位では無くてよかったという思いと三位でも良かったのにという思いが混同しているようだった。


「それでは続きまして第二位は・・・。」


「二年二組です。」


今度は皆はっきりと落胆していた。ほとんど毎年優勝は三年生と決まっているからだ。


二年生が優勝をしたというのは、担任の先生に聞いても記憶にないと言っていた。


ならば、このまま優勝できないというのが普通だろう。だからこそ皆顔を伏せていた。


「では最後に優勝チームの発表です。」


ここで発表する先生が間をとり、何かを発表する時にかかるような定番の音を体育館に響かせた。


「優勝者は・・・三年三組です。」


発表されると同時に三年三組は今日一番の盛り上がりを見せた。


 それとは正反対に僕たちのクラスは皆一言も喋らずに三年三組をただ見ていた。


 何人かくだらない冗談や文句や決まりごとを話している男子がいたが、他のクラスメイトはただただ落胆していた。


 やはり今年が最後ではないとはいえ、今年のダンスの出来は最高であり、自信があった。それだけに三位以内にも入れないというのは、来年へ向けてのやる気なども湧いてこないのだった。


 発表が終わった後、全生徒は自分たちの教室に向かうか体育館で軽く担任の先生からの話を聞くようにという指示があった。


 僕たちのクラスは、明日の準備も少しあるため、担任の先生の指示で教室に戻ることとなった。


「皆今日はよく頑張ったな。皆よく踊れていたし、団結力もすごかった。絶対三位以内には入っていると思ったんだけどな・・・。二年生で決勝に進めたというのはすごいことだし、これを足がかりに来年優勝を目指せばいいもんな。


皆しっかりやっていたから、悔いは残っていないだろうし。もうチャンスがないわけではないんだから。皆諦めずにまた来年チャレンジして欲しい。


それに・・・一緒に頑張ろう。」


何人か泣いている生徒や先生の話を始めから聞く気がない生徒が半分くらいいたが、残りの半分の生徒は先生の話を真面目に聞いていた。


「じゃあ準備がある人は遅くならない程度に残って準備して、残りの生徒は帰って良いですよ。


先生も出来るだけ手伝うので何かあったら言ってください。じゃあ帰りの挨拶を学級委員お願いします・・・。」


 帰りの挨拶が終わると明日の準備のために大多数の生徒は残った。


 ダンスのことを「惜しかったなぁ。」など簡単に口にする者はいたが、あまり口にする人はいなかった。




 翌日の準備は人数が多かったために、ほんの一時間程度で終わり、皆帰宅することとなった。


 僕は急いで家に帰りたかったため、普段はあまり乗らないバスで帰ることにした。


 高校の目の前にあるバス停だということや、ほとんどの生徒が同じバスに乗ることからバスの中は大変賑わっていた。


 僕は人ごみが得意ではないのでバスに乗ることに躊躇したが、早く帰るために仕方なくバスに乗り込んだ。


 由美から貰った手紙を読むために。




 バスは十分もかからないうちに僕の家の近くのバス停に着いた。




 僕は急いで家の扉を開けると手も洗わずに自分の部屋へ駆け込んだ。そして手紙を開いた。



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