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淡い恋心が狂気に変わるまで  作者: 安倍隆志
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自問自答Ⅱ

何故いつもこうなのだろう。


何故冷静になれないのだろう。


何故僕はここに座っているのだろう。


何故僕は由美を待っているのだろう。


何故僕は由美のことが好きなのだろう。


何故僕は緊張しているのだろう。


何故僕は嫌われるのだろう。


何故僕は・・・。




「ごめん。待った??」


僕はすぐに返事をすることが出来なかった。今起きていることが現実なのかどうか判断できなかった。夢でも見ているのではないだろうか。さっきまで考えていたことが馬鹿らしく思えてくるほど自然で優しい由美の声に驚きを隠せなかった。


「どうしたの??」


「何でもないよ。もしかしたら来てくれないかと思ったりしててさ。」


「来ないなんてことないしょ。ちゃんと頷いたんだから。あの場ではなかなか声に出して言いにくかったからね。」


こんなに普通に会話していることが僕には不思議でならなかった。あの言葉は一体何だったのだろう。最近の由美の言動は何だったのだろう。そんな僕の悩み事を全て吹き飛ばしてくれるような表情と言葉で話が進んでいた。


 でも、僕は由美に聞かなければならないことがある。


 どんなに楽しい会話をしていようとも今まであった出来事は全て事実であり、解決しなければならない問題だ。


 しかし、いつ切り出そう・・・。


 僕は今、この穏やかな雰囲気のままずっと話をしていたいという欲求に駆られていた。


 由美とこんなに楽しく会話をしているのは思い返せば初めてであり、しかも今は2人きりなのだ。


 この空気を壊すようなことはしたくない。できればこのまま今日という一日を終えたい。


 大事な話はまた明日にでもすればいいのではないか。


 今はただ楽しく出来ればそれだけでいいのではないか。


 こう話しているだけでも由美は僕のことを少しは気に入ってくれるかもしれないし。そこから恋愛に発展するかもしれない。


 僕は由美が好きだ。


 この止まらない想いの為に僕は迷っていた。


 こうしていれば由美は悲しいことを忘れられるのではないか。


 こうしていればずっと楽しいままなのではないか。


 こんなことで悲しみが拭えるわけはないと心の奥底ではわかっていたが、体が言うことを聞かなかった。


 気付けば由美と普通に話をして三十分が経過していた。


 その時間はジェットコースターのようにあっという間であった。


「そういえば話したいことって何??」


「まぁ今度でもいいかな。」


僕は咄嗟にはぐらかしてしまった。


 話を遠ざけることは良くないこととわかっていながらも今の気持ちのままでは上手く話を切り出せる自信がなかった。


「今度っていつさ。話したいことがあるなら今言わないと人間いつ死ぬかわからないんだよ。


私、隆志が話をしようとしていたことが何だったのかとかを想像しながら気になりながら死んでいくなんて絶対嫌だよ。」


「わかった。話すよ。」


好きな人にここまで言われてはもう何も言い返せなかった。


「由美、最近さぁ元気なかったりしたしょ。何かあった??」


僕は声が震えないようにそう尋ねた。


「何もないよ。」


「何もなかったら泣いたり、あんな表情になったりしないだろ。」


「ただからかってみただけだよ。」


 そんなはずはなかった。からかうだけにしては度を越していた。由美の顔からは全く冗談だという要素を感じることができなかった。しかし彼女が何かを隠していることは確実だった。どうしたら真実を聞き出すことが出来るのだろうかと考えていると由美が突然そろそろ帰らなきゃと僕に伝えた。


「待って。まだちゃんと話してもらってないよ。」


「もうその話は終わり。」


「いや駄目だよ。からかったわけじゃないんだろ?心配なんだよ。」


「心配しなくても大丈夫。もう解決したからさ。そんなに知りたいんなら今度教えてあげる。」


「わかったよ。」


「じゃあ、また明日ね。明日頑張ろうね。」


「うん、また明日。」


 結局、何も聞き出すことは出来なかった。


 最後に見せたあの笑顔は作られたものなのか、それとも自然に出たものなのか区別がつかなかった。


 由美は全く話してくれる気はなさそうだから諦めるしかないか。


 無理矢理聞くのは由美に悪いし。第一、僕だって聞かれたくないことを何回もしつこく聞かれたら不機嫌になる。


 この件は忘れよう。きっとそれが由美にとって一番いいだろう。






 僕の気持ちとは反対に翌日の天気は晴れだった。文化祭は室内で行うので直接的には関係ないのだが、やはり曇りや雨のようにどんよりした空気よりは晴れのほうがモチベーションはあがるだろう。


 僕の予想した通りクラスメイトのテンションは高く、うるさいくらいだった。


 いつもはそんなに大きな声で話をしたりしないような人でもこの日だけは違う。


 皆が一致団結して・・・まではいかないが、それなりの団結力とそれなりのチーム力で優勝を目指すのだ。


今は二年生だが、昨年までの傾向から言って、三年生以外でも優勝は可能だ。なぜなら去年の総合二位は二年生なのだ。


 この去年の結果からもわかるとおり、三年生にひいきなどはせず、平等に審査されるのだ。


 審査される種目は、メインの仮装ダンスから始まり、垂れ幕、クラスTシャツなど多岐にわたる。


 三日間にわたって開催される文化祭は、二日目には自分達で屋台を出す日もある。


 本日のメインは仮想ダンスだ。どのクラスも一番力を入れている種目だ。


 ルールとしては、仮装してダンスを行うことやクラスの中の十五人以上が参加しなければいけないなどのルールがある。


 出場人数はクラスによって様々で、クラスの全員が参加しているところもあれば、ギリギリの十五人しか参加していないところもある。


または、クラスの女子だけが参加しているクラスや男子だけが参加しているクラスなどもある。


 この仮装ダンスには評価基準が存在している。審査員が適当に気に入ったグループに投票をするという学校の行事ではありがちなものではない。


 チームの団結力やダンスの上手さ衣装の上手さや曲とダンスが合っているかどうかなどの採点基準があり、審査員達はそれに基づき審査を行う。


 この種目は、予選と決勝とに分かれている。


 予選は午前中に全クラスのダンスを一年生から三年生まで順に全て行い採点する。


 その中で選ばれた五組が決勝戦に進出する。


 午後にはその決勝戦が行われ、優勝者が決定する。


 このダンスが行われている最中は基本的に自由行動となっており、各教室に設置された部活などで作った代物を見たりすることができる。


しかし、ダンスを見る以外にはあまり出来ることがないので、大抵の人達はダンスを見るために体育館に集まっている。


 中には発表の場として使われていない教室を使って、トランプなどをして遊んでいる人もいるが、僕はすることがないので、体育館でダンスの発表を見学していた。


 僕には照明係という一応の使命があるため同じ照明係の山崎と行動を共にすることにした。


 山崎に今日の照明をどのようにするかという質問を何度か投げかけてみたが、きちんとした返事はもらえず、本番が近づいていった。


 僕は緊張しているのに対し、山崎はそんな素振りは一切見せずに相変わらずちょこまかと動きまくっていた。

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