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淡い恋心が狂気に変わるまで  作者: 安倍隆志
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修学旅行3日目

ハワイ三日目の朝は最悪なものだった。修学旅行に来ている時に、就寝時間ちょうどに寝られるわけなんてなく、修学旅行定番の枕投げをしたり、恋愛話に花を咲かせたりと、二日連続で同じような遊びをして楽しんでいた。そのせいで毎日寝不足なのだ。目覚めのいい朝なんてあるわけがない。


 この日は、パールハーバーに行くことになっていた。日本史の授業などで聞いたことがあるが詳しいことは何も知らなかった。


 実際に見たパールハーバーは、衝撃的だった。常に海には油が浮いていた。


沈没している飛行機らしきものからは、まるで憎しみが永遠に消えないかのように油が溢れていた。    


資料館には、日本人が実行した卑劣な行為が展示されていた。皆その内容に絶句した。


 日本人が全員好きで行った行為ではなかったということがわかっていても受けれがたい事実であった。


今までは教科書程度の情報しか持っていなかったというのもあって、興味すら抱いてはいなかった。


しかし、目の当たりにすると自分が考えていた事実とは異なるものがここにはあった。




 近辺の全ての施設を見終わったところで喉の渇きを潤す為、飲み物を買うことにした。ハワイには日本で見たことのない種類の物がたくさんあったが、挑戦する勇気がなく、コーラを買うことにした。同じコーラなのにハワイという異国の地で飲むと違う飲み物に感じられた。


 すると少しして、全て見終わった者はバスに戻っていて良いと先生に言われ、僕は友達と話し合った結果、バスに早く戻り、ゆっくり休むという選択肢をとった。


 バスに着くと、中にはさゆりと何人かの女子がマシンガントークを繰り返していた。


 さゆりと僕は目が合った。


「おっ隆志!ちょっと前に借りてた例のあれ返したいから、ちょっと外出て。」


「え??」


と例のあれなんか覚えがないという素振りをみせると、さゆりは僕の言葉をかき消すように言った。


「ほら早く!早く!」


と僕を急かすので、そのまま外に出た。


 すぐにさゆりは僕の元に来て「由美のことなんだけど・・・」


と小声で言った。


 僕が納得すると同時にさゆりは話を始めた。


「皆の目もあるから簡単に言うけど、由美がハワイに来る前に家で何かがあったらしいの。詳しいことは全く教えてはくれなかったけど、とりあえずそんな感じ、全然わからないよね。納得できないよね。


でも、教えてくれないんだから仕方ないってことで、これ以上探らないであげて。私にも言ってくれないなんてよほどのことなんだから。じゃあ私バスの中に戻るわ。」


と僕が質問させる隙も与えず、さゆりはバスの中へ戻っていった。


何があったのだろう。よほどのことだと聞くと、今までより由美のことが心配になった。何で悩んでいるのだろうという気持ちはなくなっていた。この瞬間とにかく何でもいいから由美の力になりたいということだけを考えていた。




 次に由美の姿を見かけたのは、泊まっているホテルの近くにあるABCストアだった。 


商品の棚を見ていたが、何かを探している様には思えなかった。たぶん一人になるという理由の為だけに由美はここにいるのだろうと勝手に考えた。


「何か探しているの??」


と僕は思ってもいないことを口にした。


「いや、ただ日本と違う商品がいっぱいあるから不思議な気持ちになってただけ。」


と由美は言った。


まるで僕が先ほどまで考えていたことを知っているようだった。


 由美は、これ以上は何も話さないと言っているかのように、また商品の棚を無我夢中で見ている振りをしているよう気がした。


正確には、しているかのようだったが正解かもしれない。


由美のことが好きで、いつも彼女のことを見ていた。だから僕は、いつもと違う由美の表情に人一倍敏感に気付くことができる。


 僕は由美の気持ちを少しでも楽にさせてあげたいという一身で、由美に話を聞くことにした。


例え、これで由美に嫌がられてもいいと思っていた。今にも泣きそうな横顔をしている由美をどうしてもこのまま放っておくことができなかった。


 僕は勇気を振り絞り、「ちょっと聞きたいことがあるから、外で話せない??」


と切り出した。


何を話すのかなどは決めていなかった。今のこの行動が衝動的なものであるのに、計画性などあるはずがなかった。




「何??話って??」


と由美は真剣な顔をして聞いてきた。


「家の中で何かあったのか??」


と僕が聞くと由美の表情は曇り始めていた。


 そして、しばらく沈黙が続いた。実際には一〇秒ほどだったかもしれないが、僕にはこの時が何時間にも感じられた。


 その重い雰囲気の中、「母が死んだの。」と由美は呟くように話した。


 僕は何て答えたらいいのかわからなかった。質問したことを少し後悔したりもした。そんな僕でも言うことができたのは、「病気か何かかい??」だけだった。


「誰かに殺されたの。」とひどく険しい表情で言い放つと続けて「冗談だよ~。」と由美は笑ってみせた。


 僕は彼女の表情を見る限り、冗談ではないような気がしていた。


しかし、僕は事実ではないのだと信じ込むようにしてそれ以上のことを聞くのをやめた。 


例え事実だったとしても僕には彼女を元気づける言葉など思いつかなかったからだ。


由美もそれ以上何も語ろうとはしなかった。


 それから僕と由美はあまり言葉を交わさなかった。僕は、自分から聞いておいて何をしているのだろうと自己嫌悪になっていた。


由美はそれに気付いたのか、(気にしないで、私は大丈夫だから)とまるで僕を気遣ってくれているような表情を見せていた。その度に僕は、由美に(ありがとう)を繰り返していた。




 その後の修学旅行のことはほとんど覚えていない。ずっと由美のことを考えていた。聞いてはいけないことを僕は聞いてしまったのではないかとずっと悔やんでいた。


人には秘密がある。


秘密には基本的に触れてはいけないのだ。僕はそのことを忘れていた。


自分の中の好奇心が僕の気持ちをわがままにさせた。


やり直したい。


このままではいけない気がした。由美に何か言わなければ、ただの迷惑なだけの男になってしまう。自分勝手と思われるかもしれないが、由美に嫌われたくなかった。できれば好きになってもらいたかった。


由美の心の支えになりたかった。


寂しい顔をもう見たくなかった。


だから、その原因を聞いたのに。何も言えない自分の心の弱さに嫌気が差していた。


 気付くと僕は高校の正門前にいた。そこには、もうあまり人はいなく、日が暮れ始めていた。


 残っている人の中に、僕の友人がいたので、今の状況について尋ねた。


「ハワイから帰ってきて、みんな親に迎えに来てもらって、各自帰っているところだ。それより大丈夫か??ずっと廃人みたいになってたよな。心配したんだぜ。何を言っても返事ないからどうしちまったんだろうなってな。」


と僕の友人である健二は答えた。


いつもの健二からは想像できないほどの早口だったので、相当心配してくれていたことが伝わり、心が安らいだ。


「ごめんな。心配かけて。もう大丈夫だから。」


と僕が言うと、健二はすごく安心した様子で、迎えに来てもらった車に乗り、帰宅した。


 僕もその後すぐに迎えに来てもらった車に乗り、帰宅した。







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